68 / 80
5章
67話 初めての喧嘩
しおりを挟む
あれから何事もなく、日も傾いてきた頃、今日は野宿をすることになった。シルフがトキシン・ブルを食べたいと言ってきたが、さすがに今は出来なかった。私やシルフは大丈夫でも、依頼人が失神するかもしれなかったからだ。
今日の夕飯は肉。野宿する度に同じような気がするが、気にしないでおこう。何のかはまだ決めていない。その辺を通った獣で十分だろう。共に狩るのはヘイリーだ。
「ねぇ、アーロ。あの依頼人怪しくない?」
「まぁ、不思議ではあるな。荷物が何なのか一切言わないのは」
食料用に獣を探している時、ヘイリーが隣に並んで聞いてくる。ずっと気になって仕方がなかったのだろうな。気にするなと言ってもそれを止めることは難しい。なんでも興味を持つ人は特にだ。
「どうする?」
「どうするも何も、途中で放棄して弁償するくらいなら、最後までやるしかないだろう」
辺り一面草原が広がっている。見渡しやすいのだが、周りに何もいないことがすぐに分かってしまう。それに、これだけ視界が開けていると、見る場所も多くなるから少しだけ疲れるのが難点だ。
「そうなんだけど……」
「何がそんなに不満なんだ」
口篭りながらも食料探しの手は止めてはいないが、私にはさっぱり分からない。何故そこまで固執するんだ? 私たちと商人は、ただの依頼人とそれを受託する冒険者だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「もし、あの中身が人だったらどうするのさ」
「いや、それは無いな」
人だったら、寝ていたとしても気配がある筈だ。近くに座ったからこそ分かる。あの中にいたのは人じゃない。では何かと問われると、不明だとしか答えられないが。
「なんで分かるの?」
「ずっと人を見て接してきたからだ」
10年以上も人を見続けてきた。だからこそ分かる。人にはあって、獣や魔物にはない感情という雰囲気があることを。もっと言えば、その相手の性格を知ればより分かりやすいのだが、さすがにそこは知り合わなければ難しいところだ。
「とにかく、相手が秘密だって言ってる事にとやかく言うのは野暮ってものだぞ」
「人じゃなくても私は誰かが困っていたら助けたいの」
ヘイリーの行動の軸となる信念か。それは、確かに良いことなのだろう。私のように任務を優先する者。ヘイリーのように心の感情を優先する者。時によって、それぞれが誰かの助けになることもある。だが、今は優先度が違う。それに助けるとしたら依頼が終わった後からでも出来ることだ。
「その考えは持っててもいい。だがな、ヘイリー」
「聞きたくない! アーロも助けるなって言うんでしょ!」
彼女の悲痛とも呼べる声が平原に響く。その声に驚いた鳥が木から飛び立ち、陽気に飛び跳ねていた兎が止まった。ヘイリーからこれだけ感情的な声を聞くのは初めてな気がする。今までは頼れる先輩冒険者として、私やアレシアも頼っていた。過去にこのことで何か遭ったのだろうか。
「よく聞け。私は一言も助けるなと言っていない。優先順位を考えろと先程言うつもりだった」
「へ……?」
涙目で驚いた顔を私に向けている。シルフにも言ったことを話した方がいいだろうな。
「君の考えを否定する気はない。もし、本当に何かが囚われているのなら、私も助ける気でいる」
それに無鉄砲で助けに行くよりか、十分な作戦を考えてからやるべきだ。あらゆる手段を探ればいい。どんなことが起きようと対処できるように。
まずは、敵情視察。その後、交戦。もし、何かを捕まえていたら救出。
ただ、それだけだ。
「とりあえず後で私の考えを言う。今は誰にも何も言うな」
「わ、分かった」
ここからは私の役目だ。誰にも見られることなく終わらせる。
ヘイリーの方から唾を飲み込む音が聞こえ、そちらに目線を合わせれば彼女の目が何かを語っている。
これは、恐怖……?
彼女が私を何か別のものとして見ているということなのか。別に、私を怖がる必要はないだろうに。
「よし、食料探し再開するぞ。皆が腹を空かして待っているからな」
「う、うん」
先程まで楽しそうに野を飛び跳ねていた兎がまだ同じ場所にいればいいが。いなければ猪を狩るか。そちらの方が兎を何頭も狩るより効率がいい。
まぁ、そんな上手いこと事が進むことはないだろう。
「見つけた!!」
「なに、どこだ」
ヘイリーが獲物を見つけたらしい。場所を知らせずに一目散に向かっている。方向ぐらい教えてくれてもいいんじゃないか? 彼女の足がとんでもなく速かったら見失ってしまうぞ。
藪の中に入らせないようにヘイリーが猪を追いかけ回し、反撃にあって逆に追いかけられているが、頭を狙えばいい。
鬼ごっこはそろそろ終わらせよう。私の腹も、何か食べさせろと鳴り始めているしな。
「このぉ!」
ヘイリーが猪の後ろを走り回りながら槍で応戦している所に、ライフルで立ったまま、慎重に頭を狙う。
「やるなら先に言って!」
野に軽い音が響き渡る。追いかけていたヘイリーが突然横に倒れた猪に驚き、死体に足が引っ掛かって盛大に前にこけた。素早く起き上がる音が聞こえてくるほどの勢いで立ち上がり、私に文句を言ってくる。どうでもいいだろ。食料は調達出来たんだから。
「すまんな」
「絶対反省してない!」
「さぁ、持っていくぞ」
括りつけられるほど太い枝はないな。仕方ない。四肢を紐で括って、肩に抱えて持っていけばいいか。後ろでは私について来ながらまだ文句を言っている。無視して皆の所へ戻ろう。
嗚呼、腹減った。
今日の夕飯は肉。野宿する度に同じような気がするが、気にしないでおこう。何のかはまだ決めていない。その辺を通った獣で十分だろう。共に狩るのはヘイリーだ。
「ねぇ、アーロ。あの依頼人怪しくない?」
「まぁ、不思議ではあるな。荷物が何なのか一切言わないのは」
食料用に獣を探している時、ヘイリーが隣に並んで聞いてくる。ずっと気になって仕方がなかったのだろうな。気にするなと言ってもそれを止めることは難しい。なんでも興味を持つ人は特にだ。
「どうする?」
「どうするも何も、途中で放棄して弁償するくらいなら、最後までやるしかないだろう」
辺り一面草原が広がっている。見渡しやすいのだが、周りに何もいないことがすぐに分かってしまう。それに、これだけ視界が開けていると、見る場所も多くなるから少しだけ疲れるのが難点だ。
「そうなんだけど……」
「何がそんなに不満なんだ」
口篭りながらも食料探しの手は止めてはいないが、私にはさっぱり分からない。何故そこまで固執するんだ? 私たちと商人は、ただの依頼人とそれを受託する冒険者だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「もし、あの中身が人だったらどうするのさ」
「いや、それは無いな」
人だったら、寝ていたとしても気配がある筈だ。近くに座ったからこそ分かる。あの中にいたのは人じゃない。では何かと問われると、不明だとしか答えられないが。
「なんで分かるの?」
「ずっと人を見て接してきたからだ」
10年以上も人を見続けてきた。だからこそ分かる。人にはあって、獣や魔物にはない感情という雰囲気があることを。もっと言えば、その相手の性格を知ればより分かりやすいのだが、さすがにそこは知り合わなければ難しいところだ。
「とにかく、相手が秘密だって言ってる事にとやかく言うのは野暮ってものだぞ」
「人じゃなくても私は誰かが困っていたら助けたいの」
ヘイリーの行動の軸となる信念か。それは、確かに良いことなのだろう。私のように任務を優先する者。ヘイリーのように心の感情を優先する者。時によって、それぞれが誰かの助けになることもある。だが、今は優先度が違う。それに助けるとしたら依頼が終わった後からでも出来ることだ。
「その考えは持っててもいい。だがな、ヘイリー」
「聞きたくない! アーロも助けるなって言うんでしょ!」
彼女の悲痛とも呼べる声が平原に響く。その声に驚いた鳥が木から飛び立ち、陽気に飛び跳ねていた兎が止まった。ヘイリーからこれだけ感情的な声を聞くのは初めてな気がする。今までは頼れる先輩冒険者として、私やアレシアも頼っていた。過去にこのことで何か遭ったのだろうか。
「よく聞け。私は一言も助けるなと言っていない。優先順位を考えろと先程言うつもりだった」
「へ……?」
涙目で驚いた顔を私に向けている。シルフにも言ったことを話した方がいいだろうな。
「君の考えを否定する気はない。もし、本当に何かが囚われているのなら、私も助ける気でいる」
それに無鉄砲で助けに行くよりか、十分な作戦を考えてからやるべきだ。あらゆる手段を探ればいい。どんなことが起きようと対処できるように。
まずは、敵情視察。その後、交戦。もし、何かを捕まえていたら救出。
ただ、それだけだ。
「とりあえず後で私の考えを言う。今は誰にも何も言うな」
「わ、分かった」
ここからは私の役目だ。誰にも見られることなく終わらせる。
ヘイリーの方から唾を飲み込む音が聞こえ、そちらに目線を合わせれば彼女の目が何かを語っている。
これは、恐怖……?
彼女が私を何か別のものとして見ているということなのか。別に、私を怖がる必要はないだろうに。
「よし、食料探し再開するぞ。皆が腹を空かして待っているからな」
「う、うん」
先程まで楽しそうに野を飛び跳ねていた兎がまだ同じ場所にいればいいが。いなければ猪を狩るか。そちらの方が兎を何頭も狩るより効率がいい。
まぁ、そんな上手いこと事が進むことはないだろう。
「見つけた!!」
「なに、どこだ」
ヘイリーが獲物を見つけたらしい。場所を知らせずに一目散に向かっている。方向ぐらい教えてくれてもいいんじゃないか? 彼女の足がとんでもなく速かったら見失ってしまうぞ。
藪の中に入らせないようにヘイリーが猪を追いかけ回し、反撃にあって逆に追いかけられているが、頭を狙えばいい。
鬼ごっこはそろそろ終わらせよう。私の腹も、何か食べさせろと鳴り始めているしな。
「このぉ!」
ヘイリーが猪の後ろを走り回りながら槍で応戦している所に、ライフルで立ったまま、慎重に頭を狙う。
「やるなら先に言って!」
野に軽い音が響き渡る。追いかけていたヘイリーが突然横に倒れた猪に驚き、死体に足が引っ掛かって盛大に前にこけた。素早く起き上がる音が聞こえてくるほどの勢いで立ち上がり、私に文句を言ってくる。どうでもいいだろ。食料は調達出来たんだから。
「すまんな」
「絶対反省してない!」
「さぁ、持っていくぞ」
括りつけられるほど太い枝はないな。仕方ない。四肢を紐で括って、肩に抱えて持っていけばいいか。後ろでは私について来ながらまだ文句を言っている。無視して皆の所へ戻ろう。
嗚呼、腹減った。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる