上 下
63 / 80
5章

62話 少しずつ……

しおりを挟む
「殺傷力は高いが、利便性で言えば魔法の方が有利であることは確かだ」

 魔力とやらがないから私は銃を使う。魔法使いは、魔力が続く限りいくらでも出来るとも本に書いてあったからな。
 先程撃った二発で弾切れ。材料を集めて作るにも時間がかかる。効率は悪い。

「話は終わりだ」

 まだ何か言いたげだったが、時間は無駄には出来ない。朝食もまだだったな。
 しかし、何故ここに来たのか。洞窟の中で出会ったならまだしも、街に突撃してくるとは。
 何かに追われてここに来たとか? あのメデューサが?

「皆さん、ご無事ですか?」

 受付嬢のカリナと他の受付嬢達が紙を持って近づいてくる。久しぶりに彼女を見た気がする。
 それは置いといて、ここには何をしに。

「討伐お疲れさまです。怪我された方などいましたら、今すぐ治療院か治癒魔法を使える方に見せてもらってください。何もない方は私たちの所へ」

 報告なら私たちが直接ギルドに行けばいいのだが、わざわざ来たのか。
 とりあえず向かうか。

――あやつを倒したか。采配が甘かったようだ。

 この声、魔王か。

――あの少ない情報の中でよく気付いたものだ。感心関心。

「相変わらず時を止めるのが好きだな」

――止めぬ方が面白いこともあるが、こうしていた方が話しやすいのでな。

 こいつ、本当に魔王なのか? ただの冒険者の一人にわざわざ時を止めてまで話しかけるなんて。
 最初の頃よりも多少耐えられるようになってきたが、威圧感に変化はないから同一人物なのだろう。疑わしいが。

――疑ったままで構わぬ。その姿を見るのでさえ余興になる。

「頭の中筒抜けなうえに、遊び道具にされちゃたまったもんではない」

――我には関係のないことよ。

 言いたいことだけ言って、重圧とまた共に消えた。というより、何故私は敵対するものと普通に会話しているんだ……。最終的には魔王やつを倒さねばならないのに。これもやつの作戦なのだろうか? 私が人であるがゆえに、情を沸かせて達成させないようにしているのか?

「アーロ、大丈夫?」
「ああ、心配ない」

 未だに頭の上にいるシルフが不安そうに声をかけてくる。そういえば、報告しようとしていたんだった。

「アーロさん」
「カリナか。言ってもいいか?」
「はい、どうぞ」

 スナイパーライフルで目を撃ったこと、どこからしたかなどを報告した。
 何か後ろから野次が聞こえたが知らんな。参加していないやつに非難される謂れはない。

「ありがとうございます。報酬はまた後ほど。それと、この後用事ありますか?」
「朝食を食べた後、鍛冶屋に行くつもりだが」
「そこへは後から行ってもらってもよろしいですか? 少しお話がありまして」

 眉を下げながら真剣な顔で私を見ている。なにやら重大なことのようだ。
 ドヴェルグの親父さんの所へ行くのは、後でもいいだろう。

「分かった。昼前には終わりそうか?」
「順調にいけば、ですが」

 もしかしたら衛兵たちの話がギルドにも伝わったのかもしれない。
 そのことでだったら昼前に終わる可能性は低い。
 だが、目を逸らすわけにもいかない。

「朝食を少し取ってからでいいか? 話している間にお腹を鳴らしたくないのでな」
「あ、はい! そのことは伝えておきます」

 会釈すると、小走りでギルド方面へ向かっていった。

「三人とも、朝飯食べに行くぞ」
「あ、そうだった!」
「行きましょ!」
「僕、お腹空いてたんだよね」

 それぞれの反応を返し、ヘイリーは後ろ向きに歩き、アレシアは私の隣にいながらその歩き方に驚き、シルフは相変わらず私の頭の上で二人の動きを見ながら楽しそうに笑っている。
 時折、髪が引っ張られて痛くなるが、幸せな痛みだと思っておこう。
 
 それにしても、一か月前とはずいぶんと変わった。
 ここに来る前は淡々と仕事をこなし、来た後は、最初は仲の良かったリカロたちとの関係が悪くなり始めた。
 それが、今はこれほどになるとは。

 私自身もだが、問題はまだ解決していない。
 ただ今はこの幸せを享受しておきたい。
 この後どうなるかは分からない。死ぬかもしれない。この二人と別れなくてはならないかもしれない。
 そう思うと、気持ちが少しずつ暗くなってくる。

 まだまだ私は弱いな……。完全に無くさなければ。
 だが、壊すことは出来ない。愛しい人に怒られてしまう。

 そういえば、首に痕を残してもらっていたんだったな。それを触りながら落ち着こう。幾分かは楽になる。
 

 心を壊さず、人ではない存在に。


「アーロ」
「……シルフか。驚いた」
「大丈夫みたいだね」
「ああ、ありがとな」

 近い存在なうえに、加護を与えた本人だからなのか、すぐに分かって声をかけてきたが、何事もないと判断すると前と隣にいる二人の会話に混じった。
 その隣にいるアレシアが不思議そうに見上げていたが、誤魔化すように頭を乱暴に撫でた。
 
 何でもないぞ、と。

「わっ」と驚きながら、好きに撫でられている。「あ、ずるい!」と言ってヘイリーが近づいてくるが、今日は特別だ。それに、先程とは変わって今の私は気分がいい。

「アーロって結構乱暴なんだね」
「この手を止めてもいいんだぞ、ヘイリー?」
「あ、止めないで!」

 頭の上に置いたままにしている私に焦り、どうにか撫でてもらおうとしている。
 年は聞いていないから分からないが、もし10代なのであれば、満面な笑みを浮かべる年相応の反応なのだろうな。

「よし、これで終わりだ。飯食うぞ」

 まだ不満足なのか、頬を膨らませながら共にギルドの中へ入った。
 何か食べるものを分け与えるか。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...