人類の中“では”最強の軍人、異世界を調査する

yasaca

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4章

58話 自分を識る修行

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 ヘイリーを一人置いて、三人で裏の練習場に行くと、多種多様な冒険者がいた。あまり関わることがなかったが、活気があっていいものだ。見渡してみると、人の姿で動物の耳がついている者がいたり、ドヴェルグがいたりしたがエルフはいなかった。親近感があるとしたらあの者達なんだがな。

「お待たせ!」

 急いできたのか、頬にエールの泡がついている。それを言うと、豪快に腕で拭い、アレシアの元へ向かった。広く使うだろうと考えたのか、場所を確保して待っていた。

「じゃあ、よろしくね」
「はい! よろしくお願いします!」

 勢いよく頭を下げている。ヘイリーは実戦形式でやるみたいだが、手加減をするだろうか。そこは私が心配するものではないだろう。勝手にしてくれると思っておこう。
 槍の基本なんてものは私も知らない。だから、今ヘイリーが教えている方法を見て私も覚えておこう。いつ、どこで使うかは分からなくても、いつか使うことが来るだろうから。

「なんか落ち着いてるね」
「それはいつものことだろ」
「今まで君と接してきた以上にだよ」

 隣に座りながら話しかけるシルフのその顔は、穏やかな表情だった。それは精神的に落ち着いているということでいいのか? それなら今の自分でもわかるが。

「何かしてもらったの?」
「特別なことはなにも。ただ、印をつけてもらっただけだ」
「そっか」

 どこに何をとは言わなくても分かったのか、それ以上は聞いてこなかった。
 それからはアレシアとヘイリーの特訓を楽しそうに見ている。
 
 この世界は今、人類滅亡の危機に瀕してはいるが、平和だった。
 向こうでも英国に魔物がいることは、全世界に知られている。
 今までなら抑え込むことは出来ていたが、一人だといつか限界が来る。誰かに頼るのも悪いものではない。だが、戦えるまでに期間を要する。その間に魔物たちは力をつけるだろう。

 
 そうさせない為に、私が今ここにいる。魔王を倒すために。


 いつまでもこんな平和な空間が、この世界に続いてほしいと自然に思える。元の世界でもこうなってほしいとすらも。
 殴り合いをしている人間の喧嘩がかわいく思えてくる今の私は、どこかおかしいのだろうな。

「心穏やかって感情の中に、複雑な思い? 決意も混じっているね」
「よくわかったな」

 先程まで「二人ともがんばれー」と応援していたシルフが、私の顔を見てにっこりと笑った。

「アーロが、何をどう思っているかまでは分からないけど、感情だけは分かるんだ」

「君がただの人だったら分からなかったけどね」と言いながら寝ころび、見上げている。

「二度とあんなことが起きないようにするには力をつけなくてはな」
「……そうだね。まずは、君自身を識ることじゃないかな?」

 奥深くを覗き込むような視線に目を逸らしたくなるが、ここで逃げてはいけない。
 しかし、識る、か。今までそういうことはしたことがなかったな。この機会に理解するのも悪くはないな。
 瞑想でもすれば分かるだろうか。

 今の私は何で役に立てる? シルフから授かった加護で何が出来る? 
 役に立つのなら、魔物の知識や銃の扱いだ。今後そこを強化していけばいいだろう。
 
 なら、加護は? どうやって鍛える? 何をどうすればいいのか、まるで分からない。
 これこそ、”識る”なのだろうな。
 
 今出来ることは、視界を更に良くすることぐらいだ。暴走した時、使っていた間どうだっただろうか? 
 ぼやけがなくなっていたのは確実だ。それ以外に分かったことは、邪魔をしていたのがシルフだとわかったこと。何故疑いもなく断言し、そこに向かったのだろうか。

「……頭が痛くなりそうだ」

 そんな簡単にわかる問題ではないだろう。それが出来たらここまで苦労しない。

「そういえば、シルフ。アレシアを助けに向かうとき、風が知らせてくれるって言っていたよな」
「そうだね」
「具体的にどんな感じでなんだ?」

 少しはヒントになるだろう。

「具体的にかー。風に色が着いてそこまでの道を知らしめてくれたってことかな」
「風に色?」

 見えないが感じることの出来る風に、色がつくことなんてことあるのか?

「うん。アーロは人の雰囲気を感じたりしたことある?」
「怒っていたら話しかけずらいとか、そういうのか?」
「それと一緒で、風にも色が着くことがあるんだよ。僕みたいな風の精霊が、表情を顔に出すくらいだもん。微量だけど同じようにあるんだよ」

 それは初めて知った。何気に感じていた風に表情があるなんて。固定概念がここで崩れてしまった。
 空気に話しかけたら、周りから変だと思われるな。ならば、心の中で対話の様な事をしてみるか。
 しかし、どうやって会話するんだ?

「……さっぱり分からん」
「最初はそんなものだよ」

 ケラケラと笑うシルフに、眉間に皺がよっているのを自分でも分かる。

「ヒントとしては、周りにオーブがあると思うことだね」
「オーブ?」

 あの丸い玉か? それが目の前にあると? オーブというと幽霊と関係があるが、それとは違うのか?

「……アーロが珍しく混乱してる」
「意味が分からんからな……」

 何に対しても笑っていたシルフが驚いた顔をしている。その表情を見るのは初めてだな。
 今日は珍しい事だらけだ。
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