人類の中“では”最強の軍人、異世界を調査する

yasaca

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3章

43話 酔いと醜態

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「監督官ってことは、私が受けた依頼のことも知っているということか?」
「もちろん。アーロ、すごい悩んでたでしょ。話すべきなのかどうかって」
「……わかっていたか」
「そりゃね。その判断は間違ってないよ。もし、内容を他の人に話してたらダメだったし」
「そこがわからないのだが、それほど厳しい条件の依頼を何故ブロンズの私に? 他の者ではダメなのか?」

 殺しや討伐を専門として生きてきた私がいるように、捕縛専門の者もいるはずだ。
 まったくしたことないってわけではないが、怪我もなく捕まえるというのは難しいことだ。

「あたしでもわかんないんだよね。アーロとプラス誰かって依頼に書かれていたし」
「そんなことが書かれていたのか」
「もしかして見てない?」
「ああ」
「うん、まぁ見なくてもそこまで内容に変化はないよ」

 そういうと私に体重をかけてきた。

 ふと外を見るといつのまにか吹雪は止み、光が指している。
 今なら焚火ができるかもしれない。風を見ながら組み立てていこう。
 なにか羽織るものはあっただろうか? 
 いくら丈夫だからと言っても、極寒の中を裸で出るのは死にに行くようなものだからな。

「少しどいてくれると助かるのだが」
「このままがいいなぁ」

 ヘイリーの背中がじんわりと暖かくなっているからなのか、離れようとしなかった。
 強制的に離すことはできるのだがな。

「あ、ちょっと!」
「腹空いているだろ。食事の準備する」

 代わりとなる布を持っていただろうか? 
 横にずらした後文句を言ってきたが、無視して鞄の中を探る。
 ずっとこのままだと次は飢えで死にそうだしな。
 何とか見つけた布は薄かったが、仕方ない。これを体に巻いてから肉を焼いて、濡れた服を乾かそう。

 煙を心配したが、洞窟内に入ることはなかった。
 ひとまずはそれで安心だ。次は食料だ。

「ほら。肉焼けたぞ」
「それってアイスベアーの?」
「美味いぞ」

 トキシン・ブルの肉は鼻の奥を刺激するような匂いがしていたが、この肉は芳醇な香りが漂ってくる。
 肉を食べながらワインの味を楽しむとは、なんとも言えない幸福感を感じる。
 しかも、焼く前からではなく、焼いた後から香るのだからおかしなものだ。

「アーロってなんか、かわっているねー」
「それは自分も自覚している」
「あ、これおいしー」

 先程から口調が柔らかくなっているなと思ったら、酔っているな。
 最初会った時に、エールを一気に飲み干してから来ていたから、強いのかと思っていたのだが。
 これ、そこまで強いか? それだったら、普段酒を口にしない私の方が先に潰れるはず。

 ワインを飲んだのだって18の時以来だしな。
 知らないうちに強くなっていた? いや、そんなことあってたまるか。

「あーろ、しよ」
「断る」
「からだが、あつい、の」
「寝なさい」

 私の首に腕を回してきて耳元でささやいているが、そんな気は一切起きない。
 するなら彼女とする方がいい。

 それに、彼女以外としたら怒られそうだし、しばらくの間、口も聞いてくれない状態が続いたら、私の精神が崩壊する。確実に。

 しかし、一口食べてこうなるか。気を付けておいた方がいいかもな。
 もし、アレシアに食べさせたときどうなるか分からんしな。

「見張りしておく」
「やだー」

 これは、アレだな。朝目覚めた時に記憶が飛んでいるか、醜態しゅうたいさらして顔を真っ赤にするかのどちらかになるだろうな。さてさて、どちらだろうな。

 ヘイリーの肉の食いかけをどうするべきか。
 捨てる? いや、勿体ないな。なら魔物に食わせるか? いや、それは止めておこう。

 これがどれくらいの強さなのか分からんうちに、やるのは危険すぎる。
 酔っぱらってこちらに攻撃してきたらたまったもんじゃない。
 なら、私が食べるしかないのか? 
 1個食べ終わった時は酔いを感じなかったが、2個目で酔わないとも限らないしな。
 試して食べてみるか。

「……さすがに酔ってきたか」

 2個目を口にしたときに、すぐに顔がほんのりと熱くなったのを感じた。1個で十分だったようだ。
 捨てるのも勿体ないから、これは食べてしまおう。


「昨日あたし、なにしてたんだっけ?」
「酔っぱらった後すぐ寝たぞ」
「そう?」

 あれから事件も何もなく、朝になった。
 幸いと言っていいのか、ヘイリーは何も覚えていなかったようだ。

「服、乾いてるぞ」
「ありがとー」

 いそいそと着替え始めるヘイリーをよそ眼に、あれは思い出さない方がいいかもな、と心の中に留めておこうと思った。

 彼女が着替え終わったらこの洞窟からも出て、街へと降りよう。
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