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3章
42話 想い人
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「へ、変な気に起こさないでよ」
徐々に寒くなってきたのを感じたのか、胸などを布で隠している上から腕や手で、見えないようにしながら近づいてくる。
そうやっていたとしてもどうとでも思わんのだが。
「安心しろ。ある女性にしか興味がない」
胡坐をかいている私の膝の上に座ってきた。
正直、ハイエルフの彼女以外に目移りすることはない。
彼女と会ってから7年。日を追うごとに、目や髪、体、話し方。すべてに魅了されていった。
彼女がいない生活などありえないと思うほどに。
今すぐにでも会いたい。体から香る甘い匂いを嗅いで、赤ん坊の様に柔らかい肌を触っていたい。
「ある女性って?」
「ハイエルフだ」
「え、あの、ハイエルフ? 高貴で人を見下すっていう」
「そのエルフに気に入られているし、私も気に入っている。いや、気に入っているというのは嘘になる。どちらかが欠ければ、どちらも瓦解する歯車の様な間柄になっている、が正しいな」
初めて会ってから2年後。
一度私が死んだとき、絶望という文字が顔に張り付いていたような表情をしていたし、彼女が倒れた時は、任務にも生活にも支障をきたすほど何も出来なくなってしまっていた。
それほどの存在にお互いなってきている。
「会いたいの?」
「そりゃあな。だが、今は依頼の途中だ。仕事とプライベートは分けなければ」
それは彼女自身も分かっている。
だから何も言わず、ひたすら私が無事に返ってくるのをいつまでも待っててくれている。
それだけで、どれだけ安心するか。
「聞きたいことがあったのだが、人探し、本当に手伝ってくれるのか?」
「もちろん。約束はちゃんと守るよ」
安心してとサムズアップして、にこやかに笑った。
「しかし、よく手伝おうと思ったな。新人にも等しい私に」
「それね。君のことをもっと知るためだったんだよ。最初会った時に、武器見せないと舐められるよって言ったらどう返答するのかとか、アイスベアーとどれくらい戦えるかっていうね。今回の吹雪は想定外だったけど」
「それで、見てどう思った?」
「うん。試験は……」
言いかけたところでヘイリーが慌てて口を手で塞いだ。
ちょっと待て。どういうことだ。
「今の発言……。もしかしてヘイリーが監視役か? どういうことか詳しく教えてもらおうか」
「あちゃー」
「どうりでおかしいと思っていた。君みたいに強い奴が、アイアンクラスなわけがない。それに、あんな場所で私1人探すにしても早すぎる。まるで最初からついてきていたかのような」
もし、私を追跡していたのなら気配で分かったはずだ。
それなのに、一切そんなのは感じられなかった。
モンスターと長年戦い続け、獣と同じ感覚を持っている私でもだ。
それほどの感知能力をすり抜けるなんてのは、よほどのことなのだろう。
仮に気配を消せる魔石とやらがあったとして、そこまで消せるのだろうか?
それを見たこともないし、着けたこともないから何とも言えんが。
「正直に言うね。君の試験監督官として、今回の見させてもらったよ。通常だったらこんな事しないんだけど、君のその武器と気配。あまりにも未知数すぎて、昇級させていいのかどうかを迷ったギルド本部が、あたしに依頼してきたの」
「なるほど。それで」
「本当はもっと後に言うつもりだったんだけど……」
誤って言ってしまったから、今言おうということか。
それにしても、たかが1人のために2つのギルドを動かすとは。
「では改めて。あたしはヘイリー。東の街の冒険者で、クラスはオリハルコン」
「最上級じゃないか。そんな人物がわざわざ」
「君がそれぐらいに値する力を持っているってこと。ギルド入隊試験の時のこと覚えてる?」
「ああ、覚えているとも」
リカロに誘われて受けたやつか。
試験監督は両刃剣。こちらはナイフのみだった。監督をするだけの力はあったように思える。
苦戦はしなかったが、相当な場数を踏んでいるのだなということは分かった。
あの人のクラスはどれくらいなのかは分からないが、その強さは人の範疇内で、だ。
モンスターと比べるのなら、まだまだだと思う。それは私にもいえることだが。
「その時に、試験監督からギルドに言われてたの。『あの新人、最初からオリハルコン相当の実力を持ってやがる。俺じゃ太刀打ちできねぇ』って。それから君にばれない様に、ずっと見ていたんだよギルドは。暴れやしないだろうか。依頼をしっかりとこなしてくれるだろうか? って。でも、それは大丈夫だったみたい」
「それほど前から?」
「うん。知っていると思うけど、冒険者は信用と信頼があってこそのもの。力はあったとしても、他がダメなら昇級試験は受けられないの」
試験に合格した後、説明をしていたな。聞いていた時に何ら問題はないと思っていた。
今までと同じく、モンスターを討伐してギルドに報告するということに変化はない。そこに薬草採取だの、人助けなどが加わっただけなのだから、と。
「そうだったのか」
「まだ試験は終わってないからなんとも言えないけどね」
突然そんな男が来れば、そういう対応をせざるを得ないというのは、なんとなくだが私にも分かる。入念に準備して、漏らさないように裏で対処する。私でも同じことをするだろう。
徐々に寒くなってきたのを感じたのか、胸などを布で隠している上から腕や手で、見えないようにしながら近づいてくる。
そうやっていたとしてもどうとでも思わんのだが。
「安心しろ。ある女性にしか興味がない」
胡坐をかいている私の膝の上に座ってきた。
正直、ハイエルフの彼女以外に目移りすることはない。
彼女と会ってから7年。日を追うごとに、目や髪、体、話し方。すべてに魅了されていった。
彼女がいない生活などありえないと思うほどに。
今すぐにでも会いたい。体から香る甘い匂いを嗅いで、赤ん坊の様に柔らかい肌を触っていたい。
「ある女性って?」
「ハイエルフだ」
「え、あの、ハイエルフ? 高貴で人を見下すっていう」
「そのエルフに気に入られているし、私も気に入っている。いや、気に入っているというのは嘘になる。どちらかが欠ければ、どちらも瓦解する歯車の様な間柄になっている、が正しいな」
初めて会ってから2年後。
一度私が死んだとき、絶望という文字が顔に張り付いていたような表情をしていたし、彼女が倒れた時は、任務にも生活にも支障をきたすほど何も出来なくなってしまっていた。
それほどの存在にお互いなってきている。
「会いたいの?」
「そりゃあな。だが、今は依頼の途中だ。仕事とプライベートは分けなければ」
それは彼女自身も分かっている。
だから何も言わず、ひたすら私が無事に返ってくるのをいつまでも待っててくれている。
それだけで、どれだけ安心するか。
「聞きたいことがあったのだが、人探し、本当に手伝ってくれるのか?」
「もちろん。約束はちゃんと守るよ」
安心してとサムズアップして、にこやかに笑った。
「しかし、よく手伝おうと思ったな。新人にも等しい私に」
「それね。君のことをもっと知るためだったんだよ。最初会った時に、武器見せないと舐められるよって言ったらどう返答するのかとか、アイスベアーとどれくらい戦えるかっていうね。今回の吹雪は想定外だったけど」
「それで、見てどう思った?」
「うん。試験は……」
言いかけたところでヘイリーが慌てて口を手で塞いだ。
ちょっと待て。どういうことだ。
「今の発言……。もしかしてヘイリーが監視役か? どういうことか詳しく教えてもらおうか」
「あちゃー」
「どうりでおかしいと思っていた。君みたいに強い奴が、アイアンクラスなわけがない。それに、あんな場所で私1人探すにしても早すぎる。まるで最初からついてきていたかのような」
もし、私を追跡していたのなら気配で分かったはずだ。
それなのに、一切そんなのは感じられなかった。
モンスターと長年戦い続け、獣と同じ感覚を持っている私でもだ。
それほどの感知能力をすり抜けるなんてのは、よほどのことなのだろう。
仮に気配を消せる魔石とやらがあったとして、そこまで消せるのだろうか?
それを見たこともないし、着けたこともないから何とも言えんが。
「正直に言うね。君の試験監督官として、今回の見させてもらったよ。通常だったらこんな事しないんだけど、君のその武器と気配。あまりにも未知数すぎて、昇級させていいのかどうかを迷ったギルド本部が、あたしに依頼してきたの」
「なるほど。それで」
「本当はもっと後に言うつもりだったんだけど……」
誤って言ってしまったから、今言おうということか。
それにしても、たかが1人のために2つのギルドを動かすとは。
「では改めて。あたしはヘイリー。東の街の冒険者で、クラスはオリハルコン」
「最上級じゃないか。そんな人物がわざわざ」
「君がそれぐらいに値する力を持っているってこと。ギルド入隊試験の時のこと覚えてる?」
「ああ、覚えているとも」
リカロに誘われて受けたやつか。
試験監督は両刃剣。こちらはナイフのみだった。監督をするだけの力はあったように思える。
苦戦はしなかったが、相当な場数を踏んでいるのだなということは分かった。
あの人のクラスはどれくらいなのかは分からないが、その強さは人の範疇内で、だ。
モンスターと比べるのなら、まだまだだと思う。それは私にもいえることだが。
「その時に、試験監督からギルドに言われてたの。『あの新人、最初からオリハルコン相当の実力を持ってやがる。俺じゃ太刀打ちできねぇ』って。それから君にばれない様に、ずっと見ていたんだよギルドは。暴れやしないだろうか。依頼をしっかりとこなしてくれるだろうか? って。でも、それは大丈夫だったみたい」
「それほど前から?」
「うん。知っていると思うけど、冒険者は信用と信頼があってこそのもの。力はあったとしても、他がダメなら昇級試験は受けられないの」
試験に合格した後、説明をしていたな。聞いていた時に何ら問題はないと思っていた。
今までと同じく、モンスターを討伐してギルドに報告するということに変化はない。そこに薬草採取だの、人助けなどが加わっただけなのだから、と。
「そうだったのか」
「まだ試験は終わってないからなんとも言えないけどね」
突然そんな男が来れば、そういう対応をせざるを得ないというのは、なんとなくだが私にも分かる。入念に準備して、漏らさないように裏で対処する。私でも同じことをするだろう。
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