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3章
37話 調査開始
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何日歩いたのだろう。
夜も昼も通して歩き続けていたから、日にちの感覚がおかしくなってしまった。
だが、そのおかげで早く街に付くことができた。
中に入る時、冒険者だと知らせるバンクルを見せたのだが、少し怪しまれてしまった。
ブロンズが1人で来ることはそう珍しくないとのことだったが、原因は私が持っている銃だろう。
鉄の筒だといってなんとか誤魔化したが、ここでは大きな騒ぎは起こさない方がいい。
もし起こしてしまえば、のちのち大変なことになる。
街のルールにしたがって調査をするしかあるまい。
「情報を集めるのならば、昔から酒場が相場だと決まっている」
ここの街は、私が拠点としている街よりも少しだけ荒れていた。
荒くれ者がいないこともないが、あそこと比べると、どうも治安が悪いように見える。
こういうところを見ると、あの場所で冒険者登録をしてよかったなと思う。
「エールを一杯くれ」
この時代のエールはぬるくてまずい。
元の世界で18歳になった時、お祝いとしてビールを飲んだ時は苦くて飲めたものではなかった。
だが、ここにきて初めてエールを飲んだ時は、吐いてしまうのではないかとさえ思ってしまった。
それと同時に、あの時飲んだものが懐かしく感じる。
それでも飲むのは時間を潰し、情報を探るため。
周りに冒険者だと分からせ、ここに紛れるように飲む。
「はいよ」
木の杯を机に叩きつけるように置かれ、何滴がこぼれたが、いちいち気にしてはいけない。
そんなことしても無駄なだけだ。
「食事は?」
「必要ない」
「そうかい」
1日目で対象と出会うということはないだろう。
とりあえず今日は、歩いた疲れを癒そう。
野宿になることに変わりはないだろうが、凝り固まった足をほぐすなら、場所はどこでもできる。
「そのバンクル、冒険者?」
隣に短髪の女性が座ってきた。
こういう荒れた所で女性1人だけということは相当力があるのか。
「ああ。まだ新人だが」
「その割には、結構な数の物持ってんのね」
アレシアと同じく槍使いだが、装備が全然違う。
急所となる場所を隠し、動きやすい格好をしている。
腕に付けているバンクルは私より1つ上のアイアンだが、それ以上の気配は纏っていた。
何故、偽る必要が?
「何? 興味ある?」
「いや、まったく」
エッチなどと言って体を隠したが、心底興味無い。
女性が嫌いだとか恐怖症だとかではない。
どうしても、ハイエルフである彼女と隣の女性を比べてしまうのは、悪い癖だな。
「あんた、名は? あたしはヘイリー」
「アーロ」
「よろしくね、アーロ」
強く背中を叩かれたが、特に痛くはなかった。
が、彼女の方が痛がっていた。背中にそれほど痛くなるようなものを入れていた覚えはないのだが、当たり所が悪かったのだろう。
「いったいそん中に何入れてんの。すっごい痛かったんだけど……」
「何も入れていない」
もしかしたら念のためと、着ている防弾チョッキが当たったのかもしれない。
「しかも、その袋一体何なの?」
「武器だ」
訝しげに見ているが、ここでも説明しないといけないらしい。
「吟遊詩人も兼任してる?」
「いや。……君は鉄の筒を見たことは?」
「ああ、あれでしょ? 弾を撃ち出すってやつ。東の街でドワーフが作ってたの見たことあるよ」
「それの進化版だ」
さほど興味無さそうに銃を見ている。触ろうとしてきたから止めたら、不満そうに眉をひそめた。
少しの誤りで大変なことになるから触るのは止めてほしい。
なんだったら親切に教えてやるとか言っていたが、これは見せびらかすためのものではない。
「危ないぞ」
「見せなきゃ他のやつに舐められるよ」
「舐められるのは困るが、街の人達を威嚇しないためにこうしている」
冒険者たちはこれに何が出来るんだと前言っていたが、それはこれの本当の恐ろしさを知らないだけ。
言葉で言っても分からないのは仕方ないが、知れば恐怖を感じる。
「街の人らの心配なんてする必要ないでしょ?」
「私がそうしたいだけだ」
ふーんと言って、エールを頼んでいた。
見たところアレシアよりは年齢は上っぽいが、何故冒険者になったのだろうか。
「それを使っているところ見せてよ」
「機会があればな」
会話しながら情報を探っていたが、有益な物はなかった。
まずいエールを飲み終わったのなら、街を見回りに行こう。
表でも荒れているのならば裏はもっとだろう。
そこをしばらくは重点的に探してみよう。
「ちょ、ちょっとどこ行くのよ」
「裏道に行く」
慌てて飲み干したのか、口元がエールの泡がついている。
教えてやると袖で強く拭いた。
「裏道?」
小走りで近づいてきた彼女が、私の数歩前を後ろ向きで歩きながら見てくる。
それにしても、器用なことをする。
すれ違う人は少ないが、それでも人とはぶつかったりしていなかった。
「少し人探しをしていてな」
「手伝おうか?」
「いや、いい」
よほど、この街に慣れているのか、それとも、気配で避けているのか。
探ろうとすればするほど、疑問に思える場所が出てくる。
何者なんだ、こいつは。
夜も昼も通して歩き続けていたから、日にちの感覚がおかしくなってしまった。
だが、そのおかげで早く街に付くことができた。
中に入る時、冒険者だと知らせるバンクルを見せたのだが、少し怪しまれてしまった。
ブロンズが1人で来ることはそう珍しくないとのことだったが、原因は私が持っている銃だろう。
鉄の筒だといってなんとか誤魔化したが、ここでは大きな騒ぎは起こさない方がいい。
もし起こしてしまえば、のちのち大変なことになる。
街のルールにしたがって調査をするしかあるまい。
「情報を集めるのならば、昔から酒場が相場だと決まっている」
ここの街は、私が拠点としている街よりも少しだけ荒れていた。
荒くれ者がいないこともないが、あそこと比べると、どうも治安が悪いように見える。
こういうところを見ると、あの場所で冒険者登録をしてよかったなと思う。
「エールを一杯くれ」
この時代のエールはぬるくてまずい。
元の世界で18歳になった時、お祝いとしてビールを飲んだ時は苦くて飲めたものではなかった。
だが、ここにきて初めてエールを飲んだ時は、吐いてしまうのではないかとさえ思ってしまった。
それと同時に、あの時飲んだものが懐かしく感じる。
それでも飲むのは時間を潰し、情報を探るため。
周りに冒険者だと分からせ、ここに紛れるように飲む。
「はいよ」
木の杯を机に叩きつけるように置かれ、何滴がこぼれたが、いちいち気にしてはいけない。
そんなことしても無駄なだけだ。
「食事は?」
「必要ない」
「そうかい」
1日目で対象と出会うということはないだろう。
とりあえず今日は、歩いた疲れを癒そう。
野宿になることに変わりはないだろうが、凝り固まった足をほぐすなら、場所はどこでもできる。
「そのバンクル、冒険者?」
隣に短髪の女性が座ってきた。
こういう荒れた所で女性1人だけということは相当力があるのか。
「ああ。まだ新人だが」
「その割には、結構な数の物持ってんのね」
アレシアと同じく槍使いだが、装備が全然違う。
急所となる場所を隠し、動きやすい格好をしている。
腕に付けているバンクルは私より1つ上のアイアンだが、それ以上の気配は纏っていた。
何故、偽る必要が?
「何? 興味ある?」
「いや、まったく」
エッチなどと言って体を隠したが、心底興味無い。
女性が嫌いだとか恐怖症だとかではない。
どうしても、ハイエルフである彼女と隣の女性を比べてしまうのは、悪い癖だな。
「あんた、名は? あたしはヘイリー」
「アーロ」
「よろしくね、アーロ」
強く背中を叩かれたが、特に痛くはなかった。
が、彼女の方が痛がっていた。背中にそれほど痛くなるようなものを入れていた覚えはないのだが、当たり所が悪かったのだろう。
「いったいそん中に何入れてんの。すっごい痛かったんだけど……」
「何も入れていない」
もしかしたら念のためと、着ている防弾チョッキが当たったのかもしれない。
「しかも、その袋一体何なの?」
「武器だ」
訝しげに見ているが、ここでも説明しないといけないらしい。
「吟遊詩人も兼任してる?」
「いや。……君は鉄の筒を見たことは?」
「ああ、あれでしょ? 弾を撃ち出すってやつ。東の街でドワーフが作ってたの見たことあるよ」
「それの進化版だ」
さほど興味無さそうに銃を見ている。触ろうとしてきたから止めたら、不満そうに眉をひそめた。
少しの誤りで大変なことになるから触るのは止めてほしい。
なんだったら親切に教えてやるとか言っていたが、これは見せびらかすためのものではない。
「危ないぞ」
「見せなきゃ他のやつに舐められるよ」
「舐められるのは困るが、街の人達を威嚇しないためにこうしている」
冒険者たちはこれに何が出来るんだと前言っていたが、それはこれの本当の恐ろしさを知らないだけ。
言葉で言っても分からないのは仕方ないが、知れば恐怖を感じる。
「街の人らの心配なんてする必要ないでしょ?」
「私がそうしたいだけだ」
ふーんと言って、エールを頼んでいた。
見たところアレシアよりは年齢は上っぽいが、何故冒険者になったのだろうか。
「それを使っているところ見せてよ」
「機会があればな」
会話しながら情報を探っていたが、有益な物はなかった。
まずいエールを飲み終わったのなら、街を見回りに行こう。
表でも荒れているのならば裏はもっとだろう。
そこをしばらくは重点的に探してみよう。
「ちょ、ちょっとどこ行くのよ」
「裏道に行く」
慌てて飲み干したのか、口元がエールの泡がついている。
教えてやると袖で強く拭いた。
「裏道?」
小走りで近づいてきた彼女が、私の数歩前を後ろ向きで歩きながら見てくる。
それにしても、器用なことをする。
すれ違う人は少ないが、それでも人とはぶつかったりしていなかった。
「少し人探しをしていてな」
「手伝おうか?」
「いや、いい」
よほど、この街に慣れているのか、それとも、気配で避けているのか。
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