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3章

34話 怪物へとなった瞬間

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「どうする? 二度目の死に方を聞くか?」
「……はい」

 空気が重い。
 目の前にあるというのに、その空気が上手く吸えない。
 気管が狭まっているような感覚がする。

「二度目は、木の枝に心臓をくり貫かれて死んだ、と聞いた」
「聞いた?」

 一度目は朧気ながらも自覚があったが、二度目は一瞬だった。
 だから誰かの言葉から聞いて知っているだけだ。
 その時に少しでも意識があれば、苦しんでいたと思う。

「一瞬だったから覚えていない。それで、あとから助けてくれた人から口伝で聞いたんだ。心臓をくり貫かれていた、と」
「助けてくれた人はどなたなんですか?」
「ハイエルフだ」

 本当はハイエルフのそのまた上、女王なんだが、そこは黙っておくべきだろう。
 彼女にも口止めをされているし、話そうとしたら今度こそ心臓が止まりかねん。

「ハイエルフとは、その時より少し前に会ったことがあってな。偶然見つけて、その縁で私を蘇生してくれたんだ。ただ、1人の人間の心臓を作るとなると代償は大きくなる。生き続けたいなら、忠誠を誓ってほしいと言われた。一生では返せないほどの恩を貰った私は、恩返しという名の忠誠をその人に誓ったんだ」
「それで、心臓に枝が絡みついていても、動いているということなんですね」
「ああ」

 どれくらいの時間を掛けて話したのだろうか?
 今の時間帯は分からないが、少なくともあれだけ燃えていた火が消えているということは、相当な時間話していたのだろう。

「そこで最初に辿り着くわけだ。何故、木の中に入れたのか。それは、私が人と木の間の存在だからだ、と」
「なるほどねー」

 疑問が晴れたことですっきりとした顔をしている。

「質問はあるか?」
「あ、あの……その後、メデューサを倒したんですか?」
「ああ」

 さんざん弄ばれたことを相手にし返すように、奪われたところを引きちぎって引きちぎって、最後に首を落とした。
 そこからだ。私が怪物へとなっていったのは。

「話は終わりだ。明日のために皆、寝ろ」
「君はどうするの?」
「私は見張りをする」

 このまま寝付けるほど、冷静ではなかった。
 語ったことでその時の気持ちと焦りが湧き上がってくる。
 こんな状態で寝てしまっては、悪夢をみるだけだ。

 ならば、起きていたほうが楽だ。別のことを考えることが出来る。
 せっかくこちらに来たのだ。これからのことを考えたほう断然いい。

「あの、アーロさん」
「寝ていなかったのか?」

 皆が寝始めたころ、静かに私の隣に来て座った。
 暗闇で顔は見えないが、何か聞きたそうな声をしている。

「あの時、水を欲しがっていたのもそれのせいなんですか?」
「……そうだな。人として栄養を取りたい時もあれば、木として栄養を取りたいときもある。あの時は木だった。困ったものだよ。どちらの性質も持っていると」

 おそらくだが、船酔いと興奮した状態で戦闘した後の疲れが重なって、あんな風になったのだろう。
 3年前もそうだった。船には乗っていなかったが、まったく同じ状況だ。
 幸いなのは、あの時とは違って誰も傷つけることなく抑えることが出来たこと。

 それだけで成長したと思う。
 前は自分の心の中にあるものがどういうものか、よくわかっていなかったから。


 だから、仲間たちを傷つけてしまった。


「さぁ、寝ろ。明日に響くぞ」
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」

 私に体を預け、数分したら寝息を立て始めた。
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