人類の中“では”最強の軍人、異世界を調査する

yasaca

文字の大きさ
上 下
33 / 80
3章

32話 主人公の秘密 《後編》

しおりを挟む
「そのあとは、知っているんだったか?」
「いえ。最初会った時、アーロさんが1人でいたということしか」

 昔を、といっても一か月も経っていないのだが、目線を左に向けながら思い出して、うんうんと頷いている。

「ああ、そうだった。そして、最初受けた依頼は、黒く飛び回る奴だった。私は特に嫌悪感はなかったが、リカロたちは嫌がって、いきなり自分が1人で退治するという事態にもなったな」
「ちょ、ちょっと待ってください……」
「想像はするなよ」

 注意した途端、どこかへ行ったアレシア。
 嗚咽した声が遠くで聞こえたから吐いたのだろう。
 シルフは吐くことはなかったが、明らかに嫌な顔をしていた。

 こういうところでも違いが見つかるのはいいな。


 いろんな意味で。


「続き話しても大丈夫か? 無理そうなら寝るといい」
「だ、大丈夫です……」

 顔が真っ青にしながら戻ってきたが、無理はしない方がいい。
 彼女の様子を見ながら話すとしよう。

「それからリカロ達とどんどん依頼をこなすようになった。のだが、半月を過ぎたころからサボり始めるようになったんだ。私が知識を持っているということに胡坐をかいて、調べることもしなくなってな。1人に頼るなとさんざん言ったが、聞きはしない。それで愛想がついて自ら辞めることを決心した。そしてその辞めた日に君と会ったわけだ」
「何か、導かれているみたいですね」
「神という存在がもしいるのならば、そうかもな」

 顔を少しだけ赤くしていた。
 残念ながら私は信じていない。
 もし、いるのだとしたらとっくの昔に神頼みしている。

「んで、それは?」
「銃といわれているものだ。二人は鍛冶屋で鉄の筒を見たことはあるか? それの未来の姿がこれというわけだ」

 今日も使うことはなかったが、毎日怠らず点検をしなくては。
 いざ、使おうと思ったときに使えないのでは意味がないからな。

「それってなんなの?」
「二人からすればただの筒にしか見えないだろうが、これも立派な武器だ。この穴の中に弾と呼ばれる金属で作ったものを入れ、火薬を爆発させて飛ばすんだ」

 排莢口を指差して教えてはいるが、今でもたまに怖く感じる。
 昔は指を挟むこともあったな。懐かしい話だ。

「どれくらいの威力なの?」
「当たる場所によって変化するから何とも言えないが、少なくとも、頭に当たれば一撃で死ぬほど、だな」
「い、一撃」

 ゴブリンに囚われていた1人の女性が驚いて声を上げた。
 私の話に夢中になっていた2人が、目を見開いて一斉に見たことで、恥ずかしさで布に顔をうずめてしまった。

「調子はどうだ? って聞くのはおかしいか。それ食べられそうか?」
「ええ、なんとか」
「なら食べるといい」

 もう1人の方は疲れ切っているのかぐっすりと寝ている。
 もしかしたら途中で起きるかもしれない。
 その時のために今日は寝ずに見張りをしよう。

「当たる場所とは?」
「脳、心臓、肺、胃、肝臓なんかだな。これが脳と心臓に当たれば人は即死する。だが、他の所に当たって死なない者もいることは確かだ」

 致命傷となる場所を1つずつ指をさして知らせ、1つの弾丸を手に取り、見せた。

「そんな小さなもので本当に死ぬの?」
「これ単体では死なないだろうな。そうだな。分かりやすく例えるならば、ブルの突進力と同じくらいの速さでこいつが飛んでいくとでも思ってくれればいい。その速さのまま人に向かって撃てば……。後はどうなるか想像できるな?」

 これも下手に扱えないな。仕舞っておこう。
 想像してしまったのか、聞いていた3人が震えている。
 そうしろと言ったのは私なのだがな。m/sなど言っても分からんだろうし。

「それが未来の武器?」
「ああ。今ある剣や魔法の杖、ハンマーなんかは無くなり、ほぼこれだけとなっている」
「わ、私のこの槍は?」
「競技としては残っているが、実戦では使われない」

 期待した目で見ていたが、ないとわかると肩を落として見るからに落ち込んだ。完全に無くなったというわけではないから、まだいい方だろう?

「競技ってなんなの?」
「模擬戦闘といったところだな。使われはするが、殺し合うためではなく、ただ勝ち負けを決めるものといった方がもっとわかりやすいだろう」

 私の言葉に希望が見えたといわんばかりに目を輝かせて、顔を勢いよく上げた。
 少しずつアレシアがどういう反応をするかを予想するのが楽しくなってきた気がする。

 本人には言わんが。


「なるほどねー。確かにそれだと平和そう」
「まぁ、そうだな」

 未来を想像しているのだろうが、私の世界では魔法というものはなかったからこれが使われていただけだ。が、こっちの未来がどうなるかは分からんぞ。

「ここが僕の一番聞きたかったところ。なんで木の中に入れたのか、だよ」
「わ、私も!」
「どういうこと?」

 三者三様の言葉が返ってくる。
 1人は意識が朦朧としていたから分からないのは仕方ない。
 それも話すべきかと口を開いたら、代わりに説明していた。
 少し疲れてしまっていたし、休憩しよう。

 その間に冷えてしまった肉も食べるか。


「な、なんで皆怖がらないの……」

 説明された一人が私を見ながら怯えている。それが当たり前の感覚だ。
 が、鈍っていたアレシアが「あ!」と、いいながら今更驚いた顔をしている。
 少し遅いのではないか?

「そういえばそうですよ! なんで驚かなかったんだろう」
「私といると常に驚くことが多いから自然と受け入れたのではないか?」
「なるほど」

 納得した顔をされたが、そこで頷かないでくれ。
 結構適当に言ったのだが。
 だが、言い得て妙だと思うのは何故だろうか。
 自分で言った言葉なのにしっくりとくる理由だった気がする。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

処理中です...