人類の中“では”最強の軍人、異世界を調査する

yasaca

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2章

27話 喧嘩

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 呆けた状態から正気に戻り、部屋を出ていく看護婦。
 ここにはアレシアと私しかいない。何も話さず、しばらく無言が続く。

「これから三日。君の付き添いが出来ない。その間どうするんだ?」

 戦っている時以外の静かな空間は、苦手だ。
 あの二人は時には必要だと言うが、私にはいらない時間だと思っている。
 それならば鍛錬した方がいいとすらも。

「あ、えっと……ここにいます」
「槍の練習は?」
「しません」
「冒険の時に鍛えるからいいと?」
「はい」

 その自信、危険すぎる。いつか自分の身を滅ぼす思考だぞ。

「アレシア。少し驕りが過ぎるぞ」
「そんなことないです」
「いや、私にはそう見える。私がいるから次も平気だなんて思っちゃいないだろうな?」

 肩が跳ね上がった。図星か。

「確かに今までは私が対処してきた。だが、もし私が依頼の途中で死んだら? 重傷を負ったら? その時はどうするつもりなんだ?」
「そんなこと」
「ありえないなんてない。いいか。この世に無敵な奴などいない。不老不死な人間もな。そんなのものは神様ぐらいだ。私は異常ではあるが、神でもなければ不老不死でもない。いつかは死ぬ」

 すでに体験しているはずだぞ。恐怖で何も出来なくなるということを。

「アレシア。自分を鍛えろ。そして、本番に慣れろ」
「鍛えなくてもいいです!」

 何故、頑として自分の考えを変えない。

「いいだと? 私は言ったよな? 今回は無事でも、次で死ぬ可能性だってある、と。今の君はそれに片足突っ込んでいる状態だ。その考えのまま行けば、必ず死ぬぞ」
「でも、また助けてくれるんですよね」
「いや、助けない。君が考えを改めない限りはな」
「え……」

 予想外の答えが来て、驚いているか。冷たいが、これくらいしないと分からんだろうな。
 強硬手段を取るしかない。

 それで、戦線を離脱しようが続けようが彼女次第だ。

「私が退院したら、ゴブリンがいる洞窟へ行く。そこで自力で戦うといい。私は、自分に向かってきた奴だけを殺す。君がどうなろうと助けはしない。本番で鍛えるのだろう? ならそれをするといい」

 十中八九失敗するだろうな。
 運が悪ければそこで死ぬ。良くても慰み者だろう。
 どちらにしても最悪な結果になる。最終的には助けるかもしれんが、そこまで待つ気ですらいる。

 こういう奴には言葉でどれだけ言おうと聞きはしない。

「練習をしないということは、自信があるのだろう? せっかくの機会だ。それを見せてもらおうか」
「あ、あの」
「なんだ。自信がないのか?」
「えっと……」
「言っとくが、ここで謝っても私は考えを改める気はない」

 そういうと、自信なさげに下を見た。
 今アレシアがどう思っているかは分からん。

「戦いというものは非情なものだ。あまり知らないだろうから教えてやる。戦場ではおごっているやつから死んでいくものだ。自分は大丈夫。誰かが助けてくれる。そんな甘い考えでいるなら」
「も、もういいです……! 分かりましたから!」
「いいや、真に分かっちゃいない。……アレシア、この空間嫌だろ。だから私の話を遮った。違うか?」
「そ、それは」

 表情に出ているんだよ、嫌そうな顔が。
 私だってこんな空気は嫌いだ。気分悪いし、吐き気がする。
 だが、仕方ないことだ。彼女を死なせないためにも。時には叱ることも大事だということ。

 彼女の年は分からんが、面倒を見ると言ったのだから、最後まで責任を持たなくてはならない。


 私はもう、大人なのだから。


「何か怒っている声が聞こえたからここに来たんだけど、どうしたの?」
「……何でもない」
「ふーん」

 嫌われるかもしれん。が、必要なことだ。今の彼女には。
 だが、正直言うと、今シルフが来てくれて助かったと思っている。
 この空間にはちょっと耐えられない。

「アレシア……?」

 無言でどこかへ行った。
 少し言い過ぎてしまったのだろうか。わからん。いったいどうすれば良かったんだ。
 優しい言葉じゃ効き目がない。だが、怒号でも逆効果だろう。

 見本となる人がいないということが、これほど大変だったとは。

「放っておくほうがいいのだろうか? それとも、追いかけたほうが?」

 もやもやとした気持ちの中に何故か、不安がある。
 何故こんな気分になっているんだ? 分からない。


 誰か教えてくれ。
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