28 / 80
2章
27話 喧嘩
しおりを挟む
呆けた状態から正気に戻り、部屋を出ていく看護婦。
ここにはアレシアと私しかいない。何も話さず、しばらく無言が続く。
「これから三日。君の付き添いが出来ない。その間どうするんだ?」
戦っている時以外の静かな空間は、苦手だ。
あの二人は時には必要だと言うが、私にはいらない時間だと思っている。
それならば鍛錬した方がいいとすらも。
「あ、えっと……ここにいます」
「槍の練習は?」
「しません」
「冒険の時に鍛えるからいいと?」
「はい」
その自信、危険すぎる。いつか自分の身を滅ぼす思考だぞ。
「アレシア。少し驕りが過ぎるぞ」
「そんなことないです」
「いや、私にはそう見える。私がいるから次も平気だなんて思っちゃいないだろうな?」
肩が跳ね上がった。図星か。
「確かに今までは私が対処してきた。だが、もし私が依頼の途中で死んだら? 重傷を負ったら? その時はどうするつもりなんだ?」
「そんなこと」
「ありえないなんてない。いいか。この世に無敵な奴などいない。不老不死な人間もな。そんなのものは神様ぐらいだ。私は異常ではあるが、神でもなければ不老不死でもない。いつかは死ぬ」
すでに体験しているはずだぞ。恐怖で何も出来なくなるということを。
「アレシア。自分を鍛えろ。そして、本番に慣れろ」
「鍛えなくてもいいです!」
何故、頑として自分の考えを変えない。
「いいだと? 私は言ったよな? 今回は無事でも、次で死ぬ可能性だってある、と。今の君はそれに片足突っ込んでいる状態だ。その考えのまま行けば、必ず死ぬぞ」
「でも、また助けてくれるんですよね」
「いや、助けない。君が考えを改めない限りはな」
「え……」
予想外の答えが来て、驚いているか。冷たいが、これくらいしないと分からんだろうな。
強硬手段を取るしかない。
それで、戦線を離脱しようが続けようが彼女次第だ。
「私が退院したら、ゴブリンがいる洞窟へ行く。そこで自力で戦うといい。私は、自分に向かってきた奴だけを殺す。君がどうなろうと助けはしない。本番で鍛えるのだろう? ならそれをするといい」
十中八九失敗するだろうな。
運が悪ければそこで死ぬ。良くても慰み者だろう。
どちらにしても最悪な結果になる。最終的には助けるかもしれんが、そこまで待つ気ですらいる。
こういう奴には言葉でどれだけ言おうと聞きはしない。
「練習をしないということは、自信があるのだろう? せっかくの機会だ。それを見せてもらおうか」
「あ、あの」
「なんだ。自信がないのか?」
「えっと……」
「言っとくが、ここで謝っても私は考えを改める気はない」
そういうと、自信なさげに下を見た。
今アレシアがどう思っているかは分からん。
「戦いというものは非情なものだ。あまり知らないだろうから教えてやる。戦場では驕っているやつから死んでいくものだ。自分は大丈夫。誰かが助けてくれる。そんな甘い考えでいるなら」
「も、もういいです……! 分かりましたから!」
「いいや、真に分かっちゃいない。……アレシア、この空間嫌だろ。だから私の話を遮った。違うか?」
「そ、それは」
表情に出ているんだよ、嫌そうな顔が。
私だってこんな空気は嫌いだ。気分悪いし、吐き気がする。
だが、仕方ないことだ。彼女を死なせないためにも。時には叱ることも大事だということ。
彼女の年は分からんが、面倒を見ると言ったのだから、最後まで責任を持たなくてはならない。
私はもう、大人なのだから。
「何か怒っている声が聞こえたからここに来たんだけど、どうしたの?」
「……何でもない」
「ふーん」
嫌われるかもしれん。が、必要なことだ。今の彼女には。
だが、正直言うと、今シルフが来てくれて助かったと思っている。
この空間にはちょっと耐えられない。
「アレシア……?」
無言でどこかへ行った。
少し言い過ぎてしまったのだろうか。わからん。いったいどうすれば良かったんだ。
優しい言葉じゃ効き目がない。だが、怒号でも逆効果だろう。
見本となる人がいないということが、これほど大変だったとは。
「放っておくほうがいいのだろうか? それとも、追いかけたほうが?」
もやもやとした気持ちの中に何故か、不安がある。
何故こんな気分になっているんだ? 分からない。
誰か教えてくれ。
ここにはアレシアと私しかいない。何も話さず、しばらく無言が続く。
「これから三日。君の付き添いが出来ない。その間どうするんだ?」
戦っている時以外の静かな空間は、苦手だ。
あの二人は時には必要だと言うが、私にはいらない時間だと思っている。
それならば鍛錬した方がいいとすらも。
「あ、えっと……ここにいます」
「槍の練習は?」
「しません」
「冒険の時に鍛えるからいいと?」
「はい」
その自信、危険すぎる。いつか自分の身を滅ぼす思考だぞ。
「アレシア。少し驕りが過ぎるぞ」
「そんなことないです」
「いや、私にはそう見える。私がいるから次も平気だなんて思っちゃいないだろうな?」
肩が跳ね上がった。図星か。
「確かに今までは私が対処してきた。だが、もし私が依頼の途中で死んだら? 重傷を負ったら? その時はどうするつもりなんだ?」
「そんなこと」
「ありえないなんてない。いいか。この世に無敵な奴などいない。不老不死な人間もな。そんなのものは神様ぐらいだ。私は異常ではあるが、神でもなければ不老不死でもない。いつかは死ぬ」
すでに体験しているはずだぞ。恐怖で何も出来なくなるということを。
「アレシア。自分を鍛えろ。そして、本番に慣れろ」
「鍛えなくてもいいです!」
何故、頑として自分の考えを変えない。
「いいだと? 私は言ったよな? 今回は無事でも、次で死ぬ可能性だってある、と。今の君はそれに片足突っ込んでいる状態だ。その考えのまま行けば、必ず死ぬぞ」
「でも、また助けてくれるんですよね」
「いや、助けない。君が考えを改めない限りはな」
「え……」
予想外の答えが来て、驚いているか。冷たいが、これくらいしないと分からんだろうな。
強硬手段を取るしかない。
それで、戦線を離脱しようが続けようが彼女次第だ。
「私が退院したら、ゴブリンがいる洞窟へ行く。そこで自力で戦うといい。私は、自分に向かってきた奴だけを殺す。君がどうなろうと助けはしない。本番で鍛えるのだろう? ならそれをするといい」
十中八九失敗するだろうな。
運が悪ければそこで死ぬ。良くても慰み者だろう。
どちらにしても最悪な結果になる。最終的には助けるかもしれんが、そこまで待つ気ですらいる。
こういう奴には言葉でどれだけ言おうと聞きはしない。
「練習をしないということは、自信があるのだろう? せっかくの機会だ。それを見せてもらおうか」
「あ、あの」
「なんだ。自信がないのか?」
「えっと……」
「言っとくが、ここで謝っても私は考えを改める気はない」
そういうと、自信なさげに下を見た。
今アレシアがどう思っているかは分からん。
「戦いというものは非情なものだ。あまり知らないだろうから教えてやる。戦場では驕っているやつから死んでいくものだ。自分は大丈夫。誰かが助けてくれる。そんな甘い考えでいるなら」
「も、もういいです……! 分かりましたから!」
「いいや、真に分かっちゃいない。……アレシア、この空間嫌だろ。だから私の話を遮った。違うか?」
「そ、それは」
表情に出ているんだよ、嫌そうな顔が。
私だってこんな空気は嫌いだ。気分悪いし、吐き気がする。
だが、仕方ないことだ。彼女を死なせないためにも。時には叱ることも大事だということ。
彼女の年は分からんが、面倒を見ると言ったのだから、最後まで責任を持たなくてはならない。
私はもう、大人なのだから。
「何か怒っている声が聞こえたからここに来たんだけど、どうしたの?」
「……何でもない」
「ふーん」
嫌われるかもしれん。が、必要なことだ。今の彼女には。
だが、正直言うと、今シルフが来てくれて助かったと思っている。
この空間にはちょっと耐えられない。
「アレシア……?」
無言でどこかへ行った。
少し言い過ぎてしまったのだろうか。わからん。いったいどうすれば良かったんだ。
優しい言葉じゃ効き目がない。だが、怒号でも逆効果だろう。
見本となる人がいないということが、これほど大変だったとは。
「放っておくほうがいいのだろうか? それとも、追いかけたほうが?」
もやもやとした気持ちの中に何故か、不安がある。
何故こんな気分になっているんだ? 分からない。
誰か教えてくれ。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜
シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜
幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。
魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。
そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。
「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」
唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。
「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」
シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。
これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】領地に行くと言って出掛けた夫が帰って来ません。〜愛人と失踪した様です〜
山葵
恋愛
政略結婚で結婚した夫は、式を挙げた3日後に「領地に視察に行ってくる」と言って出掛けて行った。
いつ帰るのかも告げずに出掛ける夫を私は見送った。
まさかそれが夫の姿を見る最後になるとは夢にも思わずに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる