上 下
27 / 80
2章

26話 二度目の休日

しおりを挟む
「船酔いと栄養失調だね」

 あれから気を失ったらしい。
 話を聞くと、豪快に後ろに倒れたとのことだった。その時に打ち所が悪く、頭から血も出たとか。
 どうりで頭痛が続いているわけだ。

 ここにきてからこんなことばかりな気がする。
 休めと言われているのだろうか?

「あれからちゃんと休養していたかい?」
「休養という休養はしていない気がする」

 違約金の話をしてからそのまま依頼に向かったし、その後にストレスがかかるようなこともあったからそれが重なって酔ったのかもしれんな。
 そうだと思おう。

「なら、今日から三日ちゃんと休むこと。というより、ここに入院だよ」
「それじゃ……」
「それ以上動くと生活に支障をきたすよ。依頼にもね」
「それは、困るな」
「休むんだよ。いいね」
「分かった」

 治癒師とはいっても医者であることに変わりはない。
 ここでの私の立場は低い。素直に従う方が懸命だな。
 外を歩くのもダメそうだな。仕方ない。ベッドの上で出来ることを探そう。

「ア゛ーロさ゛ーん゛」
「待て、そのまま近づくな。鼻をかんでから近づいてくれ」
「む゛りです゛ー!」
「うっ」

 涙と鼻水でいっぱいの顔のまま、勢いよく私の胸に飛び込んできたせいで、鳩尾が……! 
 鍛えていたおかげで気絶はしなかったが、急所を石頭で図突かれるとさすがの私でも痛い。

「死んでしまったのかと!」
「……今ので、死にかけた」
「死んじゃダメです!」
「ゆ、揺らすな……!」

 まだまだ怖がりとはいえ、重い槍を持っているだけの力はあるようだ。
 アレシアよりも倍ある私の体を揺らしているのだから。
 なんて悠長に語ってはいるが、また吐きそうだ。

 とりあえず、誰か助けてくれ……。


「病人を激しく揺すってはいけませんよ、アレシアさん」
「すみません……」

 あれだけ騒げばそりゃ来るよな。
 止めてくれたから良かったものの、来なかったら確実に吐いていた。

「調子はどうですか?」
「若干目が回っているが、しばらくしたら落ち着くと思う。それよりも、水が飲みたい」

 異様に喉が渇く。あの時のように暴走しなければいいのだが。

「すぐ持ってきますね」
「出来れば、木のたらいいっぱいの水を」
「そんなに飲むんですか?」
「それでも足りないくらいだ」

 話せば話すほど喉が渇いていく。これ以上は喉を痛めるな。


「これくらいで足りますか?」

 しばらくして、波々と注がれたたらいを零さないように持ってきてくれた。

「ケホケホッ。あり、がとう。それで一時の間、渇きが、癒せ、る」
「そんなに喉乾いてたんですか?」
「ああ」

 零さないように飲もう。
 杯で飲めばいいのだが、それを待つ時間すら惜しい。
 これから直接飲むのは初めてだが、上手くいくだろうか。

「なんだ」
「凄い勢いで減りますね……」

 アレシアと看護婦が驚いている。そうだろうとは思う。
 人が一度に飲める量は、コップ一杯150~250ml程度だ。
 それの1.5倍の量を一気に飲んでいるのだから驚くのは当然だ。

 異常なのは自覚しているが、だからって、一歩引いて見るのはどうかと思う。

「っはぁ……」
「苦しくないんですか」
「いや、まったく」

 ようやく喉が潤い始めてきた。これで半日は保つ。

「昼食持ってきますね」
「ああ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...