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2章

19話 心臓にあるもの

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「それで、ここにいるわけはなんだ?」
「君に授けたいものがあってね。便利になるよ」

 生活が楽になる? それとも、戦闘か? 何がとは詳しく言わなかった。
 だが、どうも、どこかの悪徳業者の話にしか聞こえんのは気のせいだろうか。
 そんな上手い話があるだろうか。

 それに、この精霊。
 何を思っていっているのかが分かりづらい。

「……あんたとは今回初めて会うが、それでも授けると? その見返りはなんだ」
「とんでもない。そんなのないよ。あ、でも、そうだねー。君の性格上、見返りをしなければと思っていそうだし、もしもっていうなら君の冒険にしばし同行させて欲しい、ってとこかな」

 同行するのは構わないのだが、それは見返りではない気がする。
 だが、本人が言っているのだから、これ以上は言えんな。

 それにしても、昼を過ぎたあたりから人が多くなってきたな。
 それに合わせ、目の前の精霊がフードをかぶった。

 その途端、存在感が薄くなり、意識しなければどこにいるか見失ってしまうほどに。

「いやぁ、ごめんね。あのままにしていると大変なことになるから」
「そこは気にしていないが」

 私が集中し続けてやっと分かるということは、他の者はもっと分からないということか。
 その最たる例がアレシアだ。
 シルフが顔を隠した後、何かを探しているかのようにアレシアが周りを見始めた。

「あの、アーロさん。先程の方は」
「ずっと同じ場所にいる」
「で、でも、姿見えないですよ」

 精霊がいる方を指差しても見つけらない。
 そうとうな技術なのか。それとも精霊自体の力なのか。

「うん、大丈夫みたい」
「あ!」

 声を発したことでようやく見つけることが出来たのか、その方向を見て嬉しそうに笑った。
 だが、すぐ不安そうな顔になる。

 意識すればようやく分かり、次の瞬間には分からなくなる、か。
 だが、それだと私にも同じことが言える。
 先程アレシアの方へと意識を向けたにも関わらず、精霊の存在を認識していた。

 目の前の人物が言っていた『私と近い存在』。
 もしや、自分の中にあるものを指しているのか?

「また見えなくなってしまいました……」
「少しずつ意識してみてはどうだ? もちろん疲れない程度にだが」
「やってみます!」

 アレシアは、私と違って体を使いながら感情を表に出してくれるから、本当に分かりやすい。
 だが、それは同時に危険でもある。
 ほどほどにしなければな。

「むむむ……」
「見えたか?」
「ぼんやりとですけど」

 目をしぼめて見ていたが、よくわからないのか首を傾げていた。
 それとは反対に私は先程よりも身近に感じている。
 意識したからなのか、相手の存在感が増している。

「これで分かるかい?」
「あ、はい! 見えました!」

 わざわざ見えるようにしてくれたというのか。優しいな。
 人が多くなった時、フードを被ったから、警戒心を持っていないというわけではないな。
 アレシアに対しては信じ切っているというか、なんというか。

「それで、どうするの? 授けもの、貰う?」
「いや、今はいい。しばらく同行するのを許可する。その時に判断させてもらいたい」
「うん、わかった。君がそれでいいなら」

 もう一人仲間が増えた。四大精霊が1つ、シルフを仲間に出来たのはよかったと思う。

 今思い出したのだが、シルフは移り気が多いと聞く。
 飽きられた場合、授けものを貰った後はどうなるのか。そのままなのか? それとも……。
 よく分からんな。

 隣では、認識できたのがよほど嬉しかったのか先程から頬が緩んでいる。

「アレシアもいいか?」
「はい! 私もこの方と一緒に冒険したいですし」
「なら決まりだな。それと、姿はそのままにするのか?」

 存在を認識させづらくしているとはいえ、何かの拍子にフードが外れないとも言えない。

「小さくなるよ。その方が君たちも楽でしょ?」
「私はどちらでも構わない。小さくなるのが楽だというのならそれでもいい」
「私も同じく」
「なら、少し離れたところでするね。ここだと目立ってしまうから」
「ああ」

 錬金術師パラケルススの提唱では、シルフは人間の目には見えない存在と言われている。
 他にも、力が強いと言われているが、目の前のは本当に強いのか。

 戦えないなんてことはないと信じたい。
 なにせ実力を隠しているせいか、わかりづらい。

 だが、それは実際に戦っているところを見れば分かる問題だな。


 しかし、よく精霊に遭遇するなと自分自身でも思う。

 シルフにも、元の世界のハイエルフにも。
 自分の心臓に加護が付けられた木が、停止するのを防ぐ為に動いているせいなのかもな。
 それの影響で会うのが多いのかもしれない。

 シルフは風と森を司る精霊だ。それで近い存在だといった。
 自分の中にあるものがそうさせたのかもしれない。
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