13 / 80
1章
12話 戦闘相談
しおりを挟む
話が一段落ついたとき、突然周りから拍手された。
しまった。ここが出店の中心部分だったことを忘れていた。
最近こういうことが多くなっている。気を付けなければ。
「感動しちまったよ、兄ちゃん」
「惚れたわ」
「かっこいい所を見せられちゃ、こっちも何かしてやりたくなるな」
褒め慣れてないせいか、頬が熱くなっている気がする。
気のせいかなのか耳も熱い。
顔に出ていないか心配になってきた。
「アーロさん、顔真っ赤です」
くすくすと笑うアレシアに、さらに顔が熱くなってきたが、泣いているよりかはいいだろう。
受け売りだとしても、役に立てたと思う。
「さっき、お金がないって聞こえてね。なら、うちのものを貰っておくれな」
「いやいや、うちの商品を!」
「俺の所のを持っていけ!」
自分の店から飛び出してきて、私の周りを囲み始めた。
こういうことに慣れていないせいか、少しだけ目が回る。
「有り難いが、それほど多くは持てないし、日持ちするものでなければ途中で腐らせてしまう」
「なら、これがぴったりだね」
ふくよかな女性が、何やら菓子パンの様なものを渡してきた。
見た目はクッキーなのだが、中央が膨らみ、そこからさわやかな匂いが漂ってくる。
この匂い、嗅いだことがある。どこだったか。
「どうだい?」
「有り難く頂戴する。金が入ったら、またここに来るとしよう」
「そんなのいいって!」
勢いよく背中を叩かれたが、せき込むほどではなかった。
「アレシア。話を戻すが、今のうちに日持ちするものを買ってくるといい。私はそこで待っていよう」
少し歩けば、出店の近くに噴水が設置されている。
そこに腰掛けながら戻ってくるのを待つ。
「い、一緒に来てください」
裾を掴み、先程のように俯いていた。
状況は同じだが、今度は声が上擦っていた。
「不安なら一緒に行くが」
「ふ、不安です」
「ならば行こう」
腕を掴まれ、いろいろなところを回った。
肉屋に小物屋、何故ここにあるのかわからんが、簡素な服屋もあった。
いろいろと相談していきながら選んだが、結局アレシアも私が受け取った物と同じやつを貰った。
買いたそうなものがあったが、金が足りなかったようだ。
あれから街を出て、草原へと向かった。
この先に目的の場所がある。ワイバーンが住み着く沼が。
「再確認だ。薬草の選別は君に任せる。ワイバーン討伐は私が援護する。それでいいな?」
「はい」
力強く頷いた。
さて、彼女が逃げてしまうことを想定して、これからは撃たなくては。初めての経験だ。
いつもは一人で静かにやればよかったが、今度はアレシアがいる。
敵に当て、彼女に当たらないようにするにはどうするべきだ?
彼女の思考を読む? いや、ただの人間にそんなことできるわけがない。
ならば、彼女の足の動きを見る? ダメだな。足を見ることに囚われ、自分が死ぬ。
言葉で落ち着かせるようにする? 無駄だ。相手が焦っていればいるほど他人の声は聞こえなくなる。
なら、どうする? 答えは1つだ。
彼女の背中を守りながら戦うしかない。
「アレシア。これからの戦いで怖くなったら逃げていい。だが、あまり遠くへは走っていくな。こいつが届く範囲には限界がある。これから沼へと行くが、逃げるならば沼周辺で逃げてほしい」
遠距離用のスナイパーライフルや突撃用のアサルトライフル。
どちらも威力はあるが、距離に限界がある。
射程外に行かれるとその強さも効果が薄くなる。
「え……で、でも、アーロさんだけ戦わせるのは」
「気にするな。怖いと言っている者に、無理矢理戦わせる気はない。それに、私と君はパーティーを組んでまだ一日しか立っていない。連携して戦いたいところだが、難しいと考えている。君がどういう戦い方をするのかそれすらもわからない」
「わ、私は槍を……」
「槍を?」
「持って、その場で回ります」
「そうか」
なるほど。彼らが彼女を置いていったのはこういうことか。
あまりにも戦闘に慣れていない。
自分の背負っている槍を取って構えたが、筋力が足りていないのかよろめいている。
よろめかなくても、若干重心が右に片寄っている。
「アレシア。その場で回るだけが槍の戦い方ではない。槍は刺突用の武器だ。構えて、相手と距離を作る。これ以上近づかせないように空間を強制的に作るんだ。それと筋力をあげろ。それ、重いだろ」
「な、なんでわかったんですか? これ、初めて鍛冶屋さんで買ったときに一番軽いって言われてたのに」
驚いた顔をしている。
専門ではない私でも分かるのは、過去に人と戦ってきたからだ。
名は忘れたが、師範である者が何を思ったのか、人を殺し始めたという知らせを受けて、その男と戦ったことがある。
遠距離で始末しようにも、勘が鋭く、避けられたことがあった。
そして、隠れている場所まで見つけられて近距離で戦ったのだが、師範と言われるだけはあって、距離が取りづらかったのを覚えている。
ただ、勉強にはなった。
槍を使わないとしても、距離の作り方と足の動き、そして呼吸。
どれもが参考になるものだった。
しまった。ここが出店の中心部分だったことを忘れていた。
最近こういうことが多くなっている。気を付けなければ。
「感動しちまったよ、兄ちゃん」
「惚れたわ」
「かっこいい所を見せられちゃ、こっちも何かしてやりたくなるな」
褒め慣れてないせいか、頬が熱くなっている気がする。
気のせいかなのか耳も熱い。
顔に出ていないか心配になってきた。
「アーロさん、顔真っ赤です」
くすくすと笑うアレシアに、さらに顔が熱くなってきたが、泣いているよりかはいいだろう。
受け売りだとしても、役に立てたと思う。
「さっき、お金がないって聞こえてね。なら、うちのものを貰っておくれな」
「いやいや、うちの商品を!」
「俺の所のを持っていけ!」
自分の店から飛び出してきて、私の周りを囲み始めた。
こういうことに慣れていないせいか、少しだけ目が回る。
「有り難いが、それほど多くは持てないし、日持ちするものでなければ途中で腐らせてしまう」
「なら、これがぴったりだね」
ふくよかな女性が、何やら菓子パンの様なものを渡してきた。
見た目はクッキーなのだが、中央が膨らみ、そこからさわやかな匂いが漂ってくる。
この匂い、嗅いだことがある。どこだったか。
「どうだい?」
「有り難く頂戴する。金が入ったら、またここに来るとしよう」
「そんなのいいって!」
勢いよく背中を叩かれたが、せき込むほどではなかった。
「アレシア。話を戻すが、今のうちに日持ちするものを買ってくるといい。私はそこで待っていよう」
少し歩けば、出店の近くに噴水が設置されている。
そこに腰掛けながら戻ってくるのを待つ。
「い、一緒に来てください」
裾を掴み、先程のように俯いていた。
状況は同じだが、今度は声が上擦っていた。
「不安なら一緒に行くが」
「ふ、不安です」
「ならば行こう」
腕を掴まれ、いろいろなところを回った。
肉屋に小物屋、何故ここにあるのかわからんが、簡素な服屋もあった。
いろいろと相談していきながら選んだが、結局アレシアも私が受け取った物と同じやつを貰った。
買いたそうなものがあったが、金が足りなかったようだ。
あれから街を出て、草原へと向かった。
この先に目的の場所がある。ワイバーンが住み着く沼が。
「再確認だ。薬草の選別は君に任せる。ワイバーン討伐は私が援護する。それでいいな?」
「はい」
力強く頷いた。
さて、彼女が逃げてしまうことを想定して、これからは撃たなくては。初めての経験だ。
いつもは一人で静かにやればよかったが、今度はアレシアがいる。
敵に当て、彼女に当たらないようにするにはどうするべきだ?
彼女の思考を読む? いや、ただの人間にそんなことできるわけがない。
ならば、彼女の足の動きを見る? ダメだな。足を見ることに囚われ、自分が死ぬ。
言葉で落ち着かせるようにする? 無駄だ。相手が焦っていればいるほど他人の声は聞こえなくなる。
なら、どうする? 答えは1つだ。
彼女の背中を守りながら戦うしかない。
「アレシア。これからの戦いで怖くなったら逃げていい。だが、あまり遠くへは走っていくな。こいつが届く範囲には限界がある。これから沼へと行くが、逃げるならば沼周辺で逃げてほしい」
遠距離用のスナイパーライフルや突撃用のアサルトライフル。
どちらも威力はあるが、距離に限界がある。
射程外に行かれるとその強さも効果が薄くなる。
「え……で、でも、アーロさんだけ戦わせるのは」
「気にするな。怖いと言っている者に、無理矢理戦わせる気はない。それに、私と君はパーティーを組んでまだ一日しか立っていない。連携して戦いたいところだが、難しいと考えている。君がどういう戦い方をするのかそれすらもわからない」
「わ、私は槍を……」
「槍を?」
「持って、その場で回ります」
「そうか」
なるほど。彼らが彼女を置いていったのはこういうことか。
あまりにも戦闘に慣れていない。
自分の背負っている槍を取って構えたが、筋力が足りていないのかよろめいている。
よろめかなくても、若干重心が右に片寄っている。
「アレシア。その場で回るだけが槍の戦い方ではない。槍は刺突用の武器だ。構えて、相手と距離を作る。これ以上近づかせないように空間を強制的に作るんだ。それと筋力をあげろ。それ、重いだろ」
「な、なんでわかったんですか? これ、初めて鍛冶屋さんで買ったときに一番軽いって言われてたのに」
驚いた顔をしている。
専門ではない私でも分かるのは、過去に人と戦ってきたからだ。
名は忘れたが、師範である者が何を思ったのか、人を殺し始めたという知らせを受けて、その男と戦ったことがある。
遠距離で始末しようにも、勘が鋭く、避けられたことがあった。
そして、隠れている場所まで見つけられて近距離で戦ったのだが、師範と言われるだけはあって、距離が取りづらかったのを覚えている。
ただ、勉強にはなった。
槍を使わないとしても、距離の作り方と足の動き、そして呼吸。
どれもが参考になるものだった。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる