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1章
9話 相談
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「治癒師はいるか?」
ギルドを出て左側に進むと、治療院が立っている。
そこは軽傷であろうと重症であろうと、見て治療してくれる場所だ。元の所で言う病院といったところだろう。
だが、主にここを使うのは、治癒の魔法を持っていない私のような存在か、今日の飯にありつけるかどうか分からない、金なしの冒険者のみだ。
この世界にはポーションというものもあるが、低級のものであっても高い代物で手が出しづらい。
「アーロさん。今日はどうされました?」
「自分自身はなんともないのだが、受付嬢から行けと言われてな。依頼の途中でトキシン・ブルの肉を食った」
「依頼の途中で食べた、と。……え? トキシン・ブル?」
治療しに来たという私の容体を聞きながら、紙に書き留めているその手が止まった。
「先生! 急患です!」
さすがに二度同じ反応となると、疲れてくる。今度からは言わないようにしよう。だが、それだと別の意味でも心配される。困った。
受付の者が、焦った様子で紙を持って奥へと向かっていく。慌てるのは分からんでもないが、本人が大丈夫と言っているのに、過剰に反応するのはどうなのだろうか。
それとも、私自身がブルについてまだ知らないことがあるということなのだろうか。
「中へどうぞ」
「支えなくても平気だ」
立ち眩みなどを心配しているのだろうか。背中に手を添え、一緒に行こうとする。
「君がブルの肉を食べたという」
「ああ。特にめまいなどいった症状はない」
「一応見させてもらうよ」
奥へ入り、座った途端、年老いた医師が聞いてくる。それに答えると、私のおでこに手を当てて目を閉じた。解析の魔法を使っているのだろうか。私には分からないが。
「確かになんともないみたいだ」
「なら、戻っていいか」
早く弾丸の補充をしなければ。
「ああ。何もなかったことを紙に書いてギルドに報告しておくよ」
「頼む」
急がねば。この世界の店は閉める時間が早い。ギルドに帰ってきた時には、すでに日が落ちかけていた。走って間に合えばいいが。
「親父さん。まだ、店は空いているか?」
「ギリギリだがな。弾丸の補充だろ。いくつかすでに作ってある。ほらよ」
多少の息切れはしたものの、そこまで疲れることはなく、鍛冶屋に着いた。来ることが分かっていたのか、ドヴェルグの親父さんがカウンターで待っていた。
「こっちとしては、鉄屑が無くなるのは有り難いが、ここは防具屋でもあるんだ。そっちも買ってほしいところだね」
「買いたいのは山々なんだが、補充する分で無くなってしまうのでな。もう少ししたら買えるようになる」
「そうかいそうかい。まぁ、死なねぇのが一番さ。鉄屑を処理してくれるお客さんがいなくなっちまうと大変だからな」
「気を付けておこう。それと、今回の補充分だ」
ギルドで受け取った金の半分を渡した。今日の宿代でまた消えるだろう。そうすれば、また依頼をこなさなければならなくなる。これでは試験が受けられず、いつまでたっても上に行けない。
しばらくは試験の為に銃を使うのをやめようかと思ったこともある。だが、無理だった。使いすぎて、手放せなくなってしまっているのだ。他の冒険者達のように魔法が使えない分、銃を武器にしているが、あまりにも便利すぎた。
「ではな」
「おう、気をつけてな」
「空いていない?」
「本当に申し訳ございません。今日、団体のお客様が来ていまして」
鍛冶屋から出た後、パーティーを組んでいた時に使っていた安い宿屋で部屋を取ろうとしたら、空室がないと言われた。話を聞くと、どうやら明日の祭りの為に、観光客やら商人やらが来ているとのことだった。
なんの祭典かは分からないが、普段は埋まっていない宿屋が満室となるのは珍しい。
「そうか。それならば仕方ない」
「申し訳ございません」
「私に謝る必要はない」
必死に謝ってくる受付の人を宥めた。ないのならば別の宿を探すとしよう。もしかしたら別のところが空いているかもしれない。
「ここも満室なのか?」
「はい」
若い男が申し訳なさそうに頭を下げている。仕方ない。もう少し探してみよう。
「ここもか」
「大変申し訳ございません」
自分が知っている中で安い宿屋を10件ほど探してみたが、どこも満室だった。どうしたものか。これから雨が降りそうだというのに。
「アーロさん、そこでどうされました? もう少しで雨が降っちゃいますよ?」
10件目の宿屋を出てから考えながら歩いていると、いつのまにかギルドの前まで来てしまっていた。そこに気絶から復帰した受付嬢のカリナが立っている。
「意識が戻ったのか。いや、雨に濡れないようにと安い宿屋を探していたのだが、どこも満室だったのでな。どうしたものかと悩んでいた」
悩んでいると、良いことを思いついたと言わんばかりの顔で私を見た後、にっこりと笑った。
「それでしたらギルドの中で休まれたらどうです?」
「それは大丈夫なのか?」
「はい。アーロさんのような方達の為に一時的にお貸ししているんです。ただ、毛布とかはないのですが……」
「いや、助かる。雨に濡れないなら雑魚寝でもかまわない」
思いもよらない言葉に、感謝の言葉しか出ない。これでゆっくりと休める。
「さぁ、中へ。そこにいると雨に濡れちゃいますよ」
「ああ」
ドアを開けて、中へと誘導された。ギルド内は昼とは違い、薄暗かったが、それでも月の明かりで見えなくもなかった。しばらく目を慣らしていると、自分以外にも雑魚寝している者がいた。
「意外にいるのだな」
「いつもはもっと少ないんですけどね」
「明日ある祭典とやらか」
「はい」
宿が満室になるのはその店にとっては良いことなのだろう。そのかわり冒険者たちの寝泊りする場所が無くなるのもまた事実だ。
日々命がけで戦っている私たちと、観光にきているお客たちを比べるものではないのは分かっている。
だが、それでも、少しは分けてほしいものだ。
なるべく邪魔にならなそうなところ。入り口横の窓の近くが一番か。
「アーロさん。隣いいですか?」
「ああ」
座っただけだが、今日一日の疲れが少し和らいだ気がする。月を見ながら何か食べられるものがあればいいのだが。
そう思いふけっていると、アレシアが隣に来た。悩みはまだ吹っ切れていないようだな。そわそわした雰囲気を出しながら私の隣に座った。
「あの……」
「どうした」
自信なさげに絞り出した声は、どこか不安そうだった。
「忘れる方法って聞いてもいいですか?」
「……ただただ依頼をこなす。置いて行った仲間を忘れるくらいに。それだけだ」
「なんというか……脳筋みたいですね」
いささか失礼な言い方だが、実際それが一番早かった。
「私はそれで悩みが解決した。もし、助けてほしいのならば、君に適応出来る対策を考えておこう」
「……お願いします」
「厳しいことをいうかもしれん。それでもいいか?」
「はい。もう覚悟は決めました」
不安そうに瞳がまだ揺れている。
だが、自分で決めたというなら、私はそれを手助けするだけだ。彼女にとって、相当な疲れや不満もこれから先出てくるだろう。それでも最後まで近くに居ようと思う。
「なら、明日からだ。今日は」
「寝る。ですね」
「ああ。私も点検が終わったら寝るとしよう」
思いがけず共に行動することになったが、これもまた一興だろう。
今日出来なかったメンテナンスをするため、銃袋から取り出し、損傷はないか見ていると、隣で物珍しそうに見てくる。
「これと似たようなの鍛冶屋で見ましたよ」
「あれよりも後に作られたものがこれだ。中の構造は複雑になっているが、精度がよく、威力も高い」
アレシアが見たという物は、ヨーロッパで最初に作られたキャノンロックと呼ばれるもの。
未来の物を見せたおかげなのか、ドヴェルグの親父さんの好意で薬莢と火薬、それに弾頭や雷管を纏めて作ってくれている。揃えるにも作るにも時間が掛かるものをいつも安い値段で売ってくれるのは、本当にありがたい。
本来ならば、私のようにクラスが低い者では手出しできないほど高価になるものを買わせてもらえるのだ。
感謝しかない。
「ガーゴイルを倒していた時と同じものですか?」
「いや。それはこっちのほうだ」
今回は使わなかったAK-12を点検し終わり、レミントンM24を取り出したが、隣で不思議そうに首を傾げている
「同じ物なんですか?」
「いや。これは長距離用のものだ」
「よく違いが」
納得行かない顔をしているが、同じ長物でも用途が違う。それをこと細かく説明したところで理解できずらいと思う。
「わからないなら無理に理解する必要はない」
「わ、分かりました」
「それよりも早く寝ろ」
「おやすみなさい」
私に寄りかかり、目を閉じた。
彼女がどれほど戦えるのか。役立たずと言われ、置いて行かれたと言われたようだが、何に対してそう判断されたのか。そこはまだ分からない。無理矢理聞くものでもない。その時が来たら話してくれるだろう。
ギルドを出て左側に進むと、治療院が立っている。
そこは軽傷であろうと重症であろうと、見て治療してくれる場所だ。元の所で言う病院といったところだろう。
だが、主にここを使うのは、治癒の魔法を持っていない私のような存在か、今日の飯にありつけるかどうか分からない、金なしの冒険者のみだ。
この世界にはポーションというものもあるが、低級のものであっても高い代物で手が出しづらい。
「アーロさん。今日はどうされました?」
「自分自身はなんともないのだが、受付嬢から行けと言われてな。依頼の途中でトキシン・ブルの肉を食った」
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受付の者が、焦った様子で紙を持って奥へと向かっていく。慌てるのは分からんでもないが、本人が大丈夫と言っているのに、過剰に反応するのはどうなのだろうか。
それとも、私自身がブルについてまだ知らないことがあるということなのだろうか。
「中へどうぞ」
「支えなくても平気だ」
立ち眩みなどを心配しているのだろうか。背中に手を添え、一緒に行こうとする。
「君がブルの肉を食べたという」
「ああ。特にめまいなどいった症状はない」
「一応見させてもらうよ」
奥へ入り、座った途端、年老いた医師が聞いてくる。それに答えると、私のおでこに手を当てて目を閉じた。解析の魔法を使っているのだろうか。私には分からないが。
「確かになんともないみたいだ」
「なら、戻っていいか」
早く弾丸の補充をしなければ。
「ああ。何もなかったことを紙に書いてギルドに報告しておくよ」
「頼む」
急がねば。この世界の店は閉める時間が早い。ギルドに帰ってきた時には、すでに日が落ちかけていた。走って間に合えばいいが。
「親父さん。まだ、店は空いているか?」
「ギリギリだがな。弾丸の補充だろ。いくつかすでに作ってある。ほらよ」
多少の息切れはしたものの、そこまで疲れることはなく、鍛冶屋に着いた。来ることが分かっていたのか、ドヴェルグの親父さんがカウンターで待っていた。
「こっちとしては、鉄屑が無くなるのは有り難いが、ここは防具屋でもあるんだ。そっちも買ってほしいところだね」
「買いたいのは山々なんだが、補充する分で無くなってしまうのでな。もう少ししたら買えるようになる」
「そうかいそうかい。まぁ、死なねぇのが一番さ。鉄屑を処理してくれるお客さんがいなくなっちまうと大変だからな」
「気を付けておこう。それと、今回の補充分だ」
ギルドで受け取った金の半分を渡した。今日の宿代でまた消えるだろう。そうすれば、また依頼をこなさなければならなくなる。これでは試験が受けられず、いつまでたっても上に行けない。
しばらくは試験の為に銃を使うのをやめようかと思ったこともある。だが、無理だった。使いすぎて、手放せなくなってしまっているのだ。他の冒険者達のように魔法が使えない分、銃を武器にしているが、あまりにも便利すぎた。
「ではな」
「おう、気をつけてな」
「空いていない?」
「本当に申し訳ございません。今日、団体のお客様が来ていまして」
鍛冶屋から出た後、パーティーを組んでいた時に使っていた安い宿屋で部屋を取ろうとしたら、空室がないと言われた。話を聞くと、どうやら明日の祭りの為に、観光客やら商人やらが来ているとのことだった。
なんの祭典かは分からないが、普段は埋まっていない宿屋が満室となるのは珍しい。
「そうか。それならば仕方ない」
「申し訳ございません」
「私に謝る必要はない」
必死に謝ってくる受付の人を宥めた。ないのならば別の宿を探すとしよう。もしかしたら別のところが空いているかもしれない。
「ここも満室なのか?」
「はい」
若い男が申し訳なさそうに頭を下げている。仕方ない。もう少し探してみよう。
「ここもか」
「大変申し訳ございません」
自分が知っている中で安い宿屋を10件ほど探してみたが、どこも満室だった。どうしたものか。これから雨が降りそうだというのに。
「アーロさん、そこでどうされました? もう少しで雨が降っちゃいますよ?」
10件目の宿屋を出てから考えながら歩いていると、いつのまにかギルドの前まで来てしまっていた。そこに気絶から復帰した受付嬢のカリナが立っている。
「意識が戻ったのか。いや、雨に濡れないようにと安い宿屋を探していたのだが、どこも満室だったのでな。どうしたものかと悩んでいた」
悩んでいると、良いことを思いついたと言わんばかりの顔で私を見た後、にっこりと笑った。
「それでしたらギルドの中で休まれたらどうです?」
「それは大丈夫なのか?」
「はい。アーロさんのような方達の為に一時的にお貸ししているんです。ただ、毛布とかはないのですが……」
「いや、助かる。雨に濡れないなら雑魚寝でもかまわない」
思いもよらない言葉に、感謝の言葉しか出ない。これでゆっくりと休める。
「さぁ、中へ。そこにいると雨に濡れちゃいますよ」
「ああ」
ドアを開けて、中へと誘導された。ギルド内は昼とは違い、薄暗かったが、それでも月の明かりで見えなくもなかった。しばらく目を慣らしていると、自分以外にも雑魚寝している者がいた。
「意外にいるのだな」
「いつもはもっと少ないんですけどね」
「明日ある祭典とやらか」
「はい」
宿が満室になるのはその店にとっては良いことなのだろう。そのかわり冒険者たちの寝泊りする場所が無くなるのもまた事実だ。
日々命がけで戦っている私たちと、観光にきているお客たちを比べるものではないのは分かっている。
だが、それでも、少しは分けてほしいものだ。
なるべく邪魔にならなそうなところ。入り口横の窓の近くが一番か。
「アーロさん。隣いいですか?」
「ああ」
座っただけだが、今日一日の疲れが少し和らいだ気がする。月を見ながら何か食べられるものがあればいいのだが。
そう思いふけっていると、アレシアが隣に来た。悩みはまだ吹っ切れていないようだな。そわそわした雰囲気を出しながら私の隣に座った。
「あの……」
「どうした」
自信なさげに絞り出した声は、どこか不安そうだった。
「忘れる方法って聞いてもいいですか?」
「……ただただ依頼をこなす。置いて行った仲間を忘れるくらいに。それだけだ」
「なんというか……脳筋みたいですね」
いささか失礼な言い方だが、実際それが一番早かった。
「私はそれで悩みが解決した。もし、助けてほしいのならば、君に適応出来る対策を考えておこう」
「……お願いします」
「厳しいことをいうかもしれん。それでもいいか?」
「はい。もう覚悟は決めました」
不安そうに瞳がまだ揺れている。
だが、自分で決めたというなら、私はそれを手助けするだけだ。彼女にとって、相当な疲れや不満もこれから先出てくるだろう。それでも最後まで近くに居ようと思う。
「なら、明日からだ。今日は」
「寝る。ですね」
「ああ。私も点検が終わったら寝るとしよう」
思いがけず共に行動することになったが、これもまた一興だろう。
今日出来なかったメンテナンスをするため、銃袋から取り出し、損傷はないか見ていると、隣で物珍しそうに見てくる。
「これと似たようなの鍛冶屋で見ましたよ」
「あれよりも後に作られたものがこれだ。中の構造は複雑になっているが、精度がよく、威力も高い」
アレシアが見たという物は、ヨーロッパで最初に作られたキャノンロックと呼ばれるもの。
未来の物を見せたおかげなのか、ドヴェルグの親父さんの好意で薬莢と火薬、それに弾頭や雷管を纏めて作ってくれている。揃えるにも作るにも時間が掛かるものをいつも安い値段で売ってくれるのは、本当にありがたい。
本来ならば、私のようにクラスが低い者では手出しできないほど高価になるものを買わせてもらえるのだ。
感謝しかない。
「ガーゴイルを倒していた時と同じものですか?」
「いや。それはこっちのほうだ」
今回は使わなかったAK-12を点検し終わり、レミントンM24を取り出したが、隣で不思議そうに首を傾げている
「同じ物なんですか?」
「いや。これは長距離用のものだ」
「よく違いが」
納得行かない顔をしているが、同じ長物でも用途が違う。それをこと細かく説明したところで理解できずらいと思う。
「わからないなら無理に理解する必要はない」
「わ、分かりました」
「それよりも早く寝ろ」
「おやすみなさい」
私に寄りかかり、目を閉じた。
彼女がどれほど戦えるのか。役立たずと言われ、置いて行かれたと言われたようだが、何に対してそう判断されたのか。そこはまだ分からない。無理矢理聞くものでもない。その時が来たら話してくれるだろう。
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