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1章

8話 似ているようで違うもの

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「カリナさんに代わって、私が担当します」

 治癒師の準備をと焦っていた受付嬢が裏に行き、世話になるとは。なんともおかしな話だ。代行として来た受付嬢は、アンナと名乗った。金髪碧眼へきがんといった特徴は私の国でよく見かける女性だ。

「報告書を読みましたが、これは本当のことなのでしょうか?」
「ああ。証拠がいるというなら、実物を見せるのが一番いいだろう。だが、匂いには気を付けてくれ」

 書類を確認し、疑った目で私を見ている。現場にいなかった以上疑うのは仕方がないことだが、もう少し冒険者というものを信頼してもいいと思うのだが。

「匂い?」
「涙が出るほど強烈だ。まさか知らないなんてことは言うまいな」

 今まで冒険者たちがいろいろな魔物やモンスターについての報告してきたはずだ。その中にはブルもいるはず。

「トキシン・ブルを狩って皮を剥ぎ、食したのは貴方が初めてです」
「……そうか。それはすまないことを言ったな」

 私が初めてか。疑いの目をかけてしまったことは申し訳ない。言ったことでなんとも複雑な気持ちになってしまった。とりあえず今はその感情は置いておこう。今は報告が最優先だ。

「例の皮だ」

 勢いよく出せば、相手が驚くからな。すでに一人被害者がいるわけだし。今度はゆっくりと出そう。

「ああ!」

 出した途端、鼻を抑え、目に涙が浮かべながら顔を背けるアンナ。結局はどう出そうと鼻の奥が痛くなることに変わりはないようだ。

「た、確かにブルの毛皮のようですね」

 それを早く直してくださいと言わんばかりの目で訴えている。直したところですぐ消えたりはしないのだがな。

「失礼しました」

 慣れたのか、それとも諦めたのか、息を整えて私の顔を見る。

「見た限り、顔色に変化はないですが、後で治癒師の所へ行ってください。体調の変化が今ないとしても」
「分かった」

 彼女が書いていたことと、私の言葉を照らし合わせて最終確認している。全てが終わったのか、紙を束ね始めた。

「嘘は無いようですね。ともかく依頼任務お疲れ様でした」
「ああ」

 無事終わり、お金を受け取った後、今日の宿を探すためギルドを出ようとすると、何か言い忘れていたのか呼び止めてきた。

「アーロさん。先程聞けませんでしたが、後ろの方は?」

 アレシアの存在をすっかり存在を忘れていた。しくった。私としたことが。とりあえず紐を外すとしよう。というよりいつから服を掴んでいたんだ。もうギルドに着いたから用はないと思うのだが。

「ブルを狩るために森の近くを通っていたのだが、そこで会ってな」
「アレシアさん、何故森の中に?」
「仲間と一緒に行っていたんですけど、置いて行かれてしまって」

 俯いて表情は分からないが、涙声になっている。今になって負の感情が湧き上がってきたのだろうか?

「そのパーティーの方は今どちらに?」
「分からないです」

 アンナが心配そうに聞いている。

 何故、そこまでこだわる? 置いて行かれたということは、魔物のエサにされかけたということなのに、話し合えばまた仲間になれるとでも思っているのか。

 そんなことありえないだろうに。

「捨てたやつらのことなんか放っておけ。それと忘れることだな」
「そんなこと」

 出来ない、か? いつまでも同じことを考えていることの方が自分を更に苦しめるというのに。

「すぐにはできませんよ……」
「負の感情があるなら、別の方法でそいつらにやり返せばいい。復讐しろとは言わん。幸い、ここは実力社会だ。同じ力で共に行動していたのならば、追い越して見下せ。忘れる方法なら1つ知っている」

 黙って俯いたが、後はアレシアがどうするかだ。私では方法を教えてやることしかできない。

 状況は違うが、かつての私と彼女は同じだ。

 軍に入ってまもない頃、私を抜いて15人ほどいたメンバーが一週間で全員辞めた。理由は今でもわかっていない。何も知らない。武器だって初めて見る物ばかりで、ろくに使えない。
 そんな中ででも任務はやらなければならなかった。

 何度も恨んだし、居なくなったことを自分の所為だと責め、毎日枕を濡らして泣いた。それでも本部は止めることはしなかった。居なくなった分を新人である私に全て任せ、奴隷のようにこき使い、数多の任務をこなしていくうちに、出ていったやつらのことなんか思い出さなくもなった。

「しばらく考えるといい。もし、手伝ってほしいことがあるなら言え」

 アレシアをギルドへ置いていく。私がいてもどうしようもない。
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