人類の中“では”最強の軍人、異世界を調査する

yasaca

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1章

6話 任務完了

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 アレシアと別れ、森を横断してからずいぶんと歩き、ようやく目的の場所に着くことが出来た。あれから二日経った。今の時間は昼直前。遅くなったが、本来の仕事に取り掛かるとしよう。

 対象となるガルグイユは沼地にいることが多い。普段は隠れ、不用意に沼に入った獲物を狙って捕食する。その為、地上からおびき出すのは非常に困難だが、幸いこちらには対象が好むエサがある。それを使って一頭倒すとしよう。ただ、エサで誘き出したとしても、どのガルグイユが出てくるか分からないのだ。
 対処の仕方は知っていても、最初に狙うべき対象が出てくるとは思えない。完全にランダムだ。

「ここで悩んでいても仕方がない」

 弾丸とも呼べない銀の塊をトキシン・ブルの中央に入れ込み、それを対象がいるであろう場所の真上に投げる。そうしたら、どれか一頭が長い首を沼から出し、食おうとするはずだ。
 相手は噛むことをせず、ブルの肉を丸呑みするだろう。そうして、銀が獲物の中で溶け、それに耐えきれず暴れ始める。その結果、怒り、潜っているガルグイユが一斉に出てくる。
 そこからリーダーを狙う。

「来たな」

 沼から泡が噴き出している。出てくる証拠だ。今は撃たず、時が来るまで待つことにしよう。

「何故、そこにいる?」

 木の枝に座るために飛び乗り、準備をしていると視界の端に何かがいた。確認するために下を見るとすぐ真下にアレシアがいた。こことギルドの方向は真反対なんだが。

「迷ってしまって……」

 申し訳なさそうに俯きながら、木の下にいる。

「私はまっすぐ行けと言ったはずだ」
「横道にそれず、行ったんです。でも、戻ってきちゃって」
「森の外は見えてたはずだぞ」

 邪魔な物など一切なく、あの場所にいても外の景色は見えるほどだったはずだ。それなのに何故迷う。

「本当なんです。まっすぐ歩いていたのに、途中で道が無くなっちゃって」
「そんなわけないだろ」

 途中で無くなるなんてありえん。木が動くわけでもあるまいし。

「まぁいい。とりあえず、近場の木に登れ。これから洪水が起きる可能性がある」
「洪水ですか?」
「ああ。これから獲物を狩るからな。それと静かにしていろよ」

 元の世界と同じガルグイユなら、攻撃されたことで水や火で反撃してくるだろう。洪水が起きた時、木が耐えてくれればいいのだが。もし、水に巻き込まれ、木が折れたら打つ手がなくなる。

「怒ったな」

 ということは肉を食ったガルグイユが死んだということ。となれば、後は集中して敵を倒すのみ。
 おっと、そうだ。こいつを渡しておかなければ。

「アレシア。これで両方の耳を挟むように付けておけ」
「これは?」
「音を軽減する物だ」

 首を傾げながら指示通りに耳に付けた。アレシアに渡したものはイヤーマフだ。
 普段なら必要のないものだが、ここぞといった場面で集中する時に、私がいつも使っているものだ。サプレッサーで音を軽減しても、それなりに大きい音が出る。その為、彼女に渡した。

 この世界の者たちは銃の大きい音に慣れていないからな。

「私の声が聞こえるか?」
「?なにか言いました? よく聞き取れなくて」

 イヤーマフを外して聞き返してきたが、問題ない。そのままつけていろと指示し、ガルグイユに集中する。

 白い対象が沼から顔を出した。あれが群れのリーダーか。なんとも分かりやすい。深呼吸をして、森と同化するように自分の存在を消す。そうすることでばれにくい。

 風向きは西。風速1ノット。風の影響なし。

「……命中。そのまま任務続行」

 風速変化。多少の変更あり。4ノット。先程から息を止めて3秒経過。再度呼吸をし、続行。


「計10頭。討伐完了」

 何も起きず、任務が完了した。洪水が起きるかもと心配したのは杞憂だったようだ。そういえば何かアレシアが途中で言っていたような気がしたが。声が聞こえずらいだろうから、外せという指示を出した後、興奮した目で私を見てくる。

「先程何か言ったか?」
「アーロさんすごいですね! あのガーゴイルを一人で討伐するなんて!」
「ただ、対象の特徴を知っていただけだ。そう褒めるものではない」

 興奮がいまだ冷めていないのか、ずっと褒めている。
 彼女は無視して、証拠の頭を取るとしよう。10頭分となると大変だが、それ相応の報酬が貰えるのだ。頑張ったかいがある。

「それをどうするんです? もしかして食べるとか?」
「……君は私をなんだと思っているんだ。狂人ではないぞ」

 突如として変なことをいう。馬鹿にしているならまだしも、純粋な目で見られては怒る気にもなれん。せっかく満悦な気分でいたというのに、一気に冷めた。

「これをギルドに証拠として持っていく」
「あ……そ、そうですよね。私ったら変なこと言っちゃって」
「とにかくそこから降りたらどうだ」

 顔を赤らめ、木の上で気恥ずかしそうに動いている。そんなことしていると

「きゃあ!」

 予想通り落ちたな。受け止める気はないが。

「汚れを取ったらギルドに戻るぞ。一人で行っても迷うだろ」
「お願いします……」
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