人類の中“では”最強の軍人、異世界を調査する

yasaca

文字の大きさ
上 下
7 / 80
1章

6話 任務完了

しおりを挟む
 アレシアと別れ、森を横断してからずいぶんと歩き、ようやく目的の場所に着くことが出来た。あれから二日経った。今の時間は昼直前。遅くなったが、本来の仕事に取り掛かるとしよう。

 対象となるガルグイユは沼地にいることが多い。普段は隠れ、不用意に沼に入った獲物を狙って捕食する。その為、地上からおびき出すのは非常に困難だが、幸いこちらには対象が好むエサがある。それを使って一頭倒すとしよう。ただ、エサで誘き出したとしても、どのガルグイユが出てくるか分からないのだ。
 対処の仕方は知っていても、最初に狙うべき対象が出てくるとは思えない。完全にランダムだ。

「ここで悩んでいても仕方がない」

 弾丸とも呼べない銀の塊をトキシン・ブルの中央に入れ込み、それを対象がいるであろう場所の真上に投げる。そうしたら、どれか一頭が長い首を沼から出し、食おうとするはずだ。
 相手は噛むことをせず、ブルの肉を丸呑みするだろう。そうして、銀が獲物の中で溶け、それに耐えきれず暴れ始める。その結果、怒り、潜っているガルグイユが一斉に出てくる。
 そこからリーダーを狙う。

「来たな」

 沼から泡が噴き出している。出てくる証拠だ。今は撃たず、時が来るまで待つことにしよう。

「何故、そこにいる?」

 木の枝に座るために飛び乗り、準備をしていると視界の端に何かがいた。確認するために下を見るとすぐ真下にアレシアがいた。こことギルドの方向は真反対なんだが。

「迷ってしまって……」

 申し訳なさそうに俯きながら、木の下にいる。

「私はまっすぐ行けと言ったはずだ」
「横道にそれず、行ったんです。でも、戻ってきちゃって」
「森の外は見えてたはずだぞ」

 邪魔な物など一切なく、あの場所にいても外の景色は見えるほどだったはずだ。それなのに何故迷う。

「本当なんです。まっすぐ歩いていたのに、途中で道が無くなっちゃって」
「そんなわけないだろ」

 途中で無くなるなんてありえん。木が動くわけでもあるまいし。

「まぁいい。とりあえず、近場の木に登れ。これから洪水が起きる可能性がある」
「洪水ですか?」
「ああ。これから獲物を狩るからな。それと静かにしていろよ」

 元の世界と同じガルグイユなら、攻撃されたことで水や火で反撃してくるだろう。洪水が起きた時、木が耐えてくれればいいのだが。もし、水に巻き込まれ、木が折れたら打つ手がなくなる。

「怒ったな」

 ということは肉を食ったガルグイユが死んだということ。となれば、後は集中して敵を倒すのみ。
 おっと、そうだ。こいつを渡しておかなければ。

「アレシア。これで両方の耳を挟むように付けておけ」
「これは?」
「音を軽減する物だ」

 首を傾げながら指示通りに耳に付けた。アレシアに渡したものはイヤーマフだ。
 普段なら必要のないものだが、ここぞといった場面で集中する時に、私がいつも使っているものだ。サプレッサーで音を軽減しても、それなりに大きい音が出る。その為、彼女に渡した。

 この世界の者たちは銃の大きい音に慣れていないからな。

「私の声が聞こえるか?」
「?なにか言いました? よく聞き取れなくて」

 イヤーマフを外して聞き返してきたが、問題ない。そのままつけていろと指示し、ガルグイユに集中する。

 白い対象が沼から顔を出した。あれが群れのリーダーか。なんとも分かりやすい。深呼吸をして、森と同化するように自分の存在を消す。そうすることでばれにくい。

 風向きは西。風速1ノット。風の影響なし。

「……命中。そのまま任務続行」

 風速変化。多少の変更あり。4ノット。先程から息を止めて3秒経過。再度呼吸をし、続行。


「計10頭。討伐完了」

 何も起きず、任務が完了した。洪水が起きるかもと心配したのは杞憂だったようだ。そういえば何かアレシアが途中で言っていたような気がしたが。声が聞こえずらいだろうから、外せという指示を出した後、興奮した目で私を見てくる。

「先程何か言ったか?」
「アーロさんすごいですね! あのガーゴイルを一人で討伐するなんて!」
「ただ、対象の特徴を知っていただけだ。そう褒めるものではない」

 興奮がいまだ冷めていないのか、ずっと褒めている。
 彼女は無視して、証拠の頭を取るとしよう。10頭分となると大変だが、それ相応の報酬が貰えるのだ。頑張ったかいがある。

「それをどうするんです? もしかして食べるとか?」
「……君は私をなんだと思っているんだ。狂人ではないぞ」

 突如として変なことをいう。馬鹿にしているならまだしも、純粋な目で見られては怒る気にもなれん。せっかく満悦な気分でいたというのに、一気に冷めた。

「これをギルドに証拠として持っていく」
「あ……そ、そうですよね。私ったら変なこと言っちゃって」
「とにかくそこから降りたらどうだ」

 顔を赤らめ、木の上で気恥ずかしそうに動いている。そんなことしていると

「きゃあ!」

 予想通り落ちたな。受け止める気はないが。

「汚れを取ったらギルドに戻るぞ。一人で行っても迷うだろ」
「お願いします……」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

処理中です...