人類の中“では”最強の軍人、異世界を調査する

yasaca

文字の大きさ
上 下
5 / 80
1章

4話 異常な主人公

しおりを挟む
  少女と私の場所は多少離れている。距離でいうと、189cmある私が大股で歩いて3歩先といったところだ。ここからでは様子は見えないが、静かになったところを予想すると、失神でもしたのだろう。


「あ、あの、お騒がせしました」
「気にするなと言いたいところだが、君は何故あの場所に?」

 森の近くで焚火の準備をしていると、意識が戻った少女がアレシアと名乗った。少女が持つには不似合いの槍を背負っている。服装からして冒険者のようだが。

「……恥ずかしい話なんですけど、道に迷ってしまって、どうにかして帰ろうとしたらブルがいて帰れずに」
「それで、逃げていったブルを見て逃げようとしたところに知らない音が聞こえ、逃げれずにその場に留まったと」
「はい」

 両手の人差し指を合わせ、縦に動かしている。

「とにかく、明日になったらギルドへ戻れ。夜はモンスターがより攻撃的になる」
「あ、あなたは?」
「私は依頼を完遂するまで帰らん」

 解体したブルの肉を木の棒で突き刺し、火で焼く。ちょうどいいのはミディアムぐらいだろうか。前焼いたとき、焼きすぎて硬くなってしまったからな。
 肉が焼けた匂いや火で魔物達が近寄ってくるかもしれんが、それ同様に涙が出るほどの強烈な匂いに躊躇ちゅうちょして襲ってはこないだろう。

「飯は?」
「ないです」
「ならこれを食え」

 半分感覚に近いが、ちょうどいい火加減だと思う。まな板があれば、半分に切って確認できるのだが、どこかに置いてきてしまったらしい。

「それって」
「トキシン・ブルの肉だ。猛毒となる肝臓はすでに除去している」
「でも」

 不安か。それはそうだろうな。こいつを食べようとするのは私のような変わり者か、先程の雑食の鳥だけだろう。

「なら、少し待っていろ」

 確かこの近くにキノコが生えていたはずだ。それならば食べられるだろう。もちろん、毒なしだ。念のため、剥いだ皮を羽織って探しにいくか。
 匂いがこのあたりに充満しているとはいえ、襲われないなんて保証はない。

「これは毒キノコだからダメだな。これは、大丈夫だ」

 キノコを選別しながら思ったのだが、何故私が見知らぬ他人の面倒を見なければならないのだろうか。つい先程、パーティーから離れたばかりだというのに。

 一人のほうが楽だと知っているのに。

「水は持っているか」
「は、はい」

 彼女は慌ただしく、自分のバックの中を探している。少しだけ鞄の中身が見えたが、物が圧倒的に少なかった。それに冒険者とは思えないほどの軽装備だ。
 今日会ったばかりの他人だが、この先、この少女はやっていけるのだろうかと不安になる。

「これでいいですか?」
「ああ」

 考えれば考えるほど、頭が混乱する。何故他人に対して、ここまで不安に駆られなければならないのだろうか。雑念が頭の中を駆け巡っている。考えても何も答えは出ない。……嗚呼、ダメだ。一度この考え方に囚われてしまうと、他のことに集中できなくなる。エンドレスになるならば、今は考えることを止めて食事の方に優先しよう。
 これ以上考えていてもどうにもならん。


 渡された水を、簡易的な鍋に入れていく。少し足りなかったが、ないよりはマシだろう。きのこを入れ、潰しながら混ぜていく。味は知らん。食えるのならば、とくに問題ない。

「少し時間がかかるが」
「多少でしたら待ちます」

 そういう彼女のお腹から音が聞こえた。それに気づき、頬を赤くしている。別に恥ずかしがることでもないだろう。腹が鳴るのは人として普通のことだ。

「ご、ごめんなさい」
「謝る必要はない。腹が減っているのだろう? これなら食えるはずだ」

 キノコスープが入った木のお椀とスプーンを差し出すと、遠慮がちに受け取って食べ始めた。さて、私もそろそろ食べるとしよう。ずいぶん遅くなってしまった。夕方ごろに食べるというルーティンから外れてしまったが、一日ぐらいは大丈夫だろう。

「そういえば、あなたの名前聞いていませんでした」
「アーロ。アーロ・ガルシア」
「アーロさんは一人で冒険を?」
「ああ」

 先程、席を外した時に焼けてしまったのか、肉が少し焦げている。食えなくはないが、噛むのに一苦労だ。
 肉には何も味付けはしていないし、する必要がない。周りがわさびの匂いで充満しているから、それが薬味とやらの味付けになって、わざわざ探さなくても平気になる。

 たまに鼻に来るが、それさえ我慢すれば大したことはない。

「そういう君は一人で冒険者を?」
「元々はパーティーを組んでいたんですけど、約立たずだって言われて森の中に置いて行かれました。でも、私のクラスが低いせいでもあるんです。もう少し高かったら……」
「それは大変だったな」

 彼女がいうように、この世界にあるクラスというものは厄介だ。
 私がいた世界にランクという制度があったが、それは対象の危険度を示すためのもの。ここでは冒険者としての実力のことをクラスと呼んでいる。それのせいで上にいる冒険者が下の者を見下すという事件が頻繁に起きたりするのだ。

「それを食い終わったら今日は寝ろ」
「アーロさんはどうするですか?」
「私は見張りをする」

 一人であったなら問題はないが、もう一人がいるとなると誰かが見張りをしなければならなくなる。

「じゃあ、交代制でしましょ」
「必要ない。それに、ここからギルドへの道は長い。明日の為に体力を温存しとく方が大事だ」
「でも……」
「それに、もしモンスターが来た時、対処出来るのか?」

 失礼だが、その装備と先程のことも相まって、十分に戦えるとは思えない。他人を信用していないわけではない。ただ、今までの経験上、それで戦えたやつを見たことがないのだ。

「じゃあ、お言葉に甘えて」
「ああ、おやすみ」

 きれいに食べ終わったスープを私に渡して、自分の鞄を枕にして寝た。数秒も立たないうちに寝息が聞こえてくる。寝つきがいい証拠だ。

「銃の点検。残弾数。火の管理。皿洗い」

 これが私が起きている間にいつもしていること。通常ならば全て終わった後に寝るのだが、今日は見張りをすると言ってしまった後だ。起きていることする。

 終わった後は特にすることはない。何も問題が起きなければ朝まで軽い運動でもしておこう。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...