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1章
4話 異常な主人公
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少女と私の場所は多少離れている。距離でいうと、189cmある私が大股で歩いて3歩先といったところだ。ここからでは様子は見えないが、静かになったところを予想すると、失神でもしたのだろう。
「あ、あの、お騒がせしました」
「気にするなと言いたいところだが、君は何故あの場所に?」
森の近くで焚火の準備をしていると、意識が戻った少女がアレシアと名乗った。少女が持つには不似合いの槍を背負っている。服装からして冒険者のようだが。
「……恥ずかしい話なんですけど、道に迷ってしまって、どうにかして帰ろうとしたらブルがいて帰れずに」
「それで、逃げていったブルを見て逃げようとしたところに知らない音が聞こえ、逃げれずにその場に留まったと」
「はい」
両手の人差し指を合わせ、縦に動かしている。
「とにかく、明日になったらギルドへ戻れ。夜はモンスターがより攻撃的になる」
「あ、あなたは?」
「私は依頼を完遂するまで帰らん」
解体したブルの肉を木の棒で突き刺し、火で焼く。ちょうどいいのはミディアムぐらいだろうか。前焼いたとき、焼きすぎて硬くなってしまったからな。
肉が焼けた匂いや火で魔物達が近寄ってくるかもしれんが、それ同様に涙が出るほどの強烈な匂いに躊躇して襲ってはこないだろう。
「飯は?」
「ないです」
「ならこれを食え」
半分感覚に近いが、ちょうどいい火加減だと思う。まな板があれば、半分に切って確認できるのだが、どこかに置いてきてしまったらしい。
「それって」
「トキシン・ブルの肉だ。猛毒となる肝臓はすでに除去している」
「でも」
不安か。それはそうだろうな。こいつを食べようとするのは私のような変わり者か、先程の雑食の鳥だけだろう。
「なら、少し待っていろ」
確かこの近くにキノコが生えていたはずだ。それならば食べられるだろう。もちろん、毒なしだ。念のため、剥いだ皮を羽織って探しにいくか。
匂いがこのあたりに充満しているとはいえ、襲われないなんて保証はない。
「これは毒キノコだからダメだな。これは、大丈夫だ」
キノコを選別しながら思ったのだが、何故私が見知らぬ他人の面倒を見なければならないのだろうか。つい先程、パーティーから離れたばかりだというのに。
一人のほうが楽だと知っているのに。
「水は持っているか」
「は、はい」
彼女は慌ただしく、自分のバックの中を探している。少しだけ鞄の中身が見えたが、物が圧倒的に少なかった。それに冒険者とは思えないほどの軽装備だ。
今日会ったばかりの他人だが、この先、この少女はやっていけるのだろうかと不安になる。
「これでいいですか?」
「ああ」
考えれば考えるほど、頭が混乱する。何故他人に対して、ここまで不安に駆られなければならないのだろうか。雑念が頭の中を駆け巡っている。考えても何も答えは出ない。……嗚呼、ダメだ。一度この考え方に囚われてしまうと、他のことに集中できなくなる。エンドレスになるならば、今は考えることを止めて食事の方に優先しよう。
これ以上考えていてもどうにもならん。
渡された水を、簡易的な鍋に入れていく。少し足りなかったが、ないよりはマシだろう。きのこを入れ、潰しながら混ぜていく。味は知らん。食えるのならば、とくに問題ない。
「少し時間がかかるが」
「多少でしたら待ちます」
そういう彼女のお腹から音が聞こえた。それに気づき、頬を赤くしている。別に恥ずかしがることでもないだろう。腹が鳴るのは人として普通のことだ。
「ご、ごめんなさい」
「謝る必要はない。腹が減っているのだろう? これなら食えるはずだ」
キノコスープが入った木のお椀とスプーンを差し出すと、遠慮がちに受け取って食べ始めた。さて、私もそろそろ食べるとしよう。ずいぶん遅くなってしまった。夕方ごろに食べるというルーティンから外れてしまったが、一日ぐらいは大丈夫だろう。
「そういえば、あなたの名前聞いていませんでした」
「アーロ。アーロ・ガルシア」
「アーロさんは一人で冒険を?」
「ああ」
先程、席を外した時に焼けてしまったのか、肉が少し焦げている。食えなくはないが、噛むのに一苦労だ。
肉には何も味付けはしていないし、する必要がない。周りがわさびの匂いで充満しているから、それが薬味とやらの味付けになって、わざわざ探さなくても平気になる。
たまに鼻に来るが、それさえ我慢すれば大したことはない。
「そういう君は一人で冒険者を?」
「元々はパーティーを組んでいたんですけど、約立たずだって言われて森の中に置いて行かれました。でも、私のクラスが低いせいでもあるんです。もう少し高かったら……」
「それは大変だったな」
彼女がいうように、この世界にあるクラスというものは厄介だ。
私がいた世界にランクという制度があったが、それは対象の危険度を示すためのもの。ここでは冒険者としての実力のことをクラスと呼んでいる。それのせいで上にいる冒険者が下の者を見下すという事件が頻繁に起きたりするのだ。
「それを食い終わったら今日は寝ろ」
「アーロさんはどうするですか?」
「私は見張りをする」
一人であったなら問題はないが、もう一人がいるとなると誰かが見張りをしなければならなくなる。
「じゃあ、交代制でしましょ」
「必要ない。それに、ここからギルドへの道は長い。明日の為に体力を温存しとく方が大事だ」
「でも……」
「それに、もしモンスターが来た時、対処出来るのか?」
失礼だが、その装備と先程のことも相まって、十分に戦えるとは思えない。他人を信用していないわけではない。ただ、今までの経験上、それで戦えたやつを見たことがないのだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「ああ、おやすみ」
きれいに食べ終わったスープを私に渡して、自分の鞄を枕にして寝た。数秒も立たないうちに寝息が聞こえてくる。寝つきがいい証拠だ。
「銃の点検。残弾数。火の管理。皿洗い」
これが私が起きている間にいつもしていること。通常ならば全て終わった後に寝るのだが、今日は見張りをすると言ってしまった後だ。起きていることする。
終わった後は特にすることはない。何も問題が起きなければ朝まで軽い運動でもしておこう。
「あ、あの、お騒がせしました」
「気にするなと言いたいところだが、君は何故あの場所に?」
森の近くで焚火の準備をしていると、意識が戻った少女がアレシアと名乗った。少女が持つには不似合いの槍を背負っている。服装からして冒険者のようだが。
「……恥ずかしい話なんですけど、道に迷ってしまって、どうにかして帰ろうとしたらブルがいて帰れずに」
「それで、逃げていったブルを見て逃げようとしたところに知らない音が聞こえ、逃げれずにその場に留まったと」
「はい」
両手の人差し指を合わせ、縦に動かしている。
「とにかく、明日になったらギルドへ戻れ。夜はモンスターがより攻撃的になる」
「あ、あなたは?」
「私は依頼を完遂するまで帰らん」
解体したブルの肉を木の棒で突き刺し、火で焼く。ちょうどいいのはミディアムぐらいだろうか。前焼いたとき、焼きすぎて硬くなってしまったからな。
肉が焼けた匂いや火で魔物達が近寄ってくるかもしれんが、それ同様に涙が出るほどの強烈な匂いに躊躇して襲ってはこないだろう。
「飯は?」
「ないです」
「ならこれを食え」
半分感覚に近いが、ちょうどいい火加減だと思う。まな板があれば、半分に切って確認できるのだが、どこかに置いてきてしまったらしい。
「それって」
「トキシン・ブルの肉だ。猛毒となる肝臓はすでに除去している」
「でも」
不安か。それはそうだろうな。こいつを食べようとするのは私のような変わり者か、先程の雑食の鳥だけだろう。
「なら、少し待っていろ」
確かこの近くにキノコが生えていたはずだ。それならば食べられるだろう。もちろん、毒なしだ。念のため、剥いだ皮を羽織って探しにいくか。
匂いがこのあたりに充満しているとはいえ、襲われないなんて保証はない。
「これは毒キノコだからダメだな。これは、大丈夫だ」
キノコを選別しながら思ったのだが、何故私が見知らぬ他人の面倒を見なければならないのだろうか。つい先程、パーティーから離れたばかりだというのに。
一人のほうが楽だと知っているのに。
「水は持っているか」
「は、はい」
彼女は慌ただしく、自分のバックの中を探している。少しだけ鞄の中身が見えたが、物が圧倒的に少なかった。それに冒険者とは思えないほどの軽装備だ。
今日会ったばかりの他人だが、この先、この少女はやっていけるのだろうかと不安になる。
「これでいいですか?」
「ああ」
考えれば考えるほど、頭が混乱する。何故他人に対して、ここまで不安に駆られなければならないのだろうか。雑念が頭の中を駆け巡っている。考えても何も答えは出ない。……嗚呼、ダメだ。一度この考え方に囚われてしまうと、他のことに集中できなくなる。エンドレスになるならば、今は考えることを止めて食事の方に優先しよう。
これ以上考えていてもどうにもならん。
渡された水を、簡易的な鍋に入れていく。少し足りなかったが、ないよりはマシだろう。きのこを入れ、潰しながら混ぜていく。味は知らん。食えるのならば、とくに問題ない。
「少し時間がかかるが」
「多少でしたら待ちます」
そういう彼女のお腹から音が聞こえた。それに気づき、頬を赤くしている。別に恥ずかしがることでもないだろう。腹が鳴るのは人として普通のことだ。
「ご、ごめんなさい」
「謝る必要はない。腹が減っているのだろう? これなら食えるはずだ」
キノコスープが入った木のお椀とスプーンを差し出すと、遠慮がちに受け取って食べ始めた。さて、私もそろそろ食べるとしよう。ずいぶん遅くなってしまった。夕方ごろに食べるというルーティンから外れてしまったが、一日ぐらいは大丈夫だろう。
「そういえば、あなたの名前聞いていませんでした」
「アーロ。アーロ・ガルシア」
「アーロさんは一人で冒険を?」
「ああ」
先程、席を外した時に焼けてしまったのか、肉が少し焦げている。食えなくはないが、噛むのに一苦労だ。
肉には何も味付けはしていないし、する必要がない。周りがわさびの匂いで充満しているから、それが薬味とやらの味付けになって、わざわざ探さなくても平気になる。
たまに鼻に来るが、それさえ我慢すれば大したことはない。
「そういう君は一人で冒険者を?」
「元々はパーティーを組んでいたんですけど、約立たずだって言われて森の中に置いて行かれました。でも、私のクラスが低いせいでもあるんです。もう少し高かったら……」
「それは大変だったな」
彼女がいうように、この世界にあるクラスというものは厄介だ。
私がいた世界にランクという制度があったが、それは対象の危険度を示すためのもの。ここでは冒険者としての実力のことをクラスと呼んでいる。それのせいで上にいる冒険者が下の者を見下すという事件が頻繁に起きたりするのだ。
「それを食い終わったら今日は寝ろ」
「アーロさんはどうするですか?」
「私は見張りをする」
一人であったなら問題はないが、もう一人がいるとなると誰かが見張りをしなければならなくなる。
「じゃあ、交代制でしましょ」
「必要ない。それに、ここからギルドへの道は長い。明日の為に体力を温存しとく方が大事だ」
「でも……」
「それに、もしモンスターが来た時、対処出来るのか?」
失礼だが、その装備と先程のことも相まって、十分に戦えるとは思えない。他人を信用していないわけではない。ただ、今までの経験上、それで戦えたやつを見たことがないのだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「ああ、おやすみ」
きれいに食べ終わったスープを私に渡して、自分の鞄を枕にして寝た。数秒も立たないうちに寝息が聞こえてくる。寝つきがいい証拠だ。
「銃の点検。残弾数。火の管理。皿洗い」
これが私が起きている間にいつもしていること。通常ならば全て終わった後に寝るのだが、今日は見張りをすると言ってしまった後だ。起きていることする。
終わった後は特にすることはない。何も問題が起きなければ朝まで軽い運動でもしておこう。
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