人類の中“では”最強の軍人、異世界を調査する

yasaca

文字の大きさ
上 下
1 / 80
1章

1話 脱退

しおりを挟む
 安宿やすやどの室内で向かい合うように、私とパーティメンバーがいる。あちらはベッドに3人で腰掛け、私は手荷物を足元に置いた状態で立っている。今からあることを告げるために、荷物を昨夜まとめていたのだ。

「ここで共に活動するのは無理だ。辞める」

 この世界に転移してきてから1ヶ月。私は今日、『天使エングルの加護』というパーティーから抜ける。
 原因はメンバーとの性格の不一致だ。他にもいろいろとあるのだが、1番の要因は先程言った通り、性格の不一致。メンバーに対し、危ないところを何度か注意していたのだが、半月もしたら文句を言うようになった。うるさいだの余計なことをいうなだのと。それに我慢が出来ず、今日付けで辞めることにした。

「好きにしろよ。お前じゃどうせ生き残れないだろ」
「アーロ、あんたは真面目すぎて疲れるのよ」

 私に向かって指を差し、眉間にしわを寄せながらにらむリーダーで剣士であるリカロ。リーダーの腕に胸を当てながら同じく見てくるムエタイ使いのディーネ。

 特にリカロがひどかった。剣士は最前線で戦う者。それゆえに命の危険が常に伴うものだ。

 ずっと黙っているが、リカロを挟むようにディーネとは反対側に座っている仲間のサーナに防御魔法をかけてもらっていたとはいえ、考えなしに斬り捨てて行くのだ。命知らず過ぎる。
 もし魔法が切れたらどうするつもりだったんだ。

 ディーネに関しては、戦闘に参加しないのに女性だからという理由で私の分の上乗せで金だけ貰っていた。おかげで私が今持っているお金は、この世界で一番安い食料でさえ買えないほどだ。

 最初そのことを知った時はディーネとリカロを殴ってやろうかと思ったのだが、しなかった。自分のこぶしが凶器になりえることを知っているからだ。辞めるきっかけのひとつになった今ではもうどうでもいいがな。

 それ以上語るとストレスで自分がおかしくなる。

「命知らずな君たちに言われる筋合いはない。それに、君は不真面目すぎる」

 私が反対にリカロとディーネにそれぞれに目線を向けると、リカロは更に深く眉間にしわを寄せた。が、所詮しょせん相手は子供で私よりも年下。ただにらんでいるだけじゃ恐怖など感じるわけがない。

「これから先、何があろうと手助けなどしない」

 リカロが反抗心はんこうしんで私を睨んでいるならば、これ以上自分に関わるなら殺される覚悟でいろ、という意思を込めて元メンバーをにらみかえした。それを無意識で感じたのか、全員の肩が跳ね上がり、ディーネは震えている。それを見て、少しだけ気分が晴れたがもうどうでもいい。


 仲間ではないのだから。


 こいつらから借りたものは1つもない。昨夜まとめた自分の荷物を持ってギルドに向かうとしよう。生活する為に。
 怒り任せにドアは閉めなかったが、木で出来ているレバー型のドアノブがバキッと音を立てて潰れた。
 




 賠償ばいしょうはあいつらにしてもらうか。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...