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 翌春を迎えた。
 だが……玄冥が待ちわびた小鳥は来なかった。

 戦であれば、我先にと先んずる第四皇子は、滅多に人前に現れる事はない。 春の祭りには1度も顔を出した事が無かった。 だが、その年は違った……。

 竜王の第四皇子は荒ぶる気持ちが抑えきれず。 高まる体温で空気を震わせ、大地を歩むごとに土を舞い上げた。 兄達は玄冥を必死に抑えようとするが、恋する相手が出来てからの玄冥はと言えば、己を鍛えるのに余念は無く、その武人としての力だけなら、王国1位ではないかと言わしめるほどとなった。

 竜皇子達が戦えば、花の全てが一瞬で散るだろう。

「弟よ、まずは理由を聞くべきだろう。 どうだ、小鳥の父親を読んで理由を聞いてみるのは?」

「……ならば、俺が出向いて伺いましょう」

「いや、それでは春が台無しになる。 とにかく大人しくココで待つがいい」

 そして、迎えられた風華の父、風月と言えば、毛が逆立ち気を失わんばかりになりながらも必死に耐えた。

「ソナタの娘が祭りに来ていないようだが?」

 荒ぶる第四皇子に変わって聞いたのは、もっとも穏やかな第二皇子。 それでもカヨワイ岩森の長は恐ろしくてたまらず、毛を逆立て怯えて気絶寸前だった。

「娘の風華はどうした?」

 声を荒げれば、ヒィッと言う悲鳴を上げて早口で告げる。

「あの子は、今年発情期を迎えました。 人前に連れ出せばその香りに多くの人々を惑わすでしょう。 ですので……今年はあの子の従姉妹を伴ってまいりました。 娘の歌がお好きだったのであれば、きっと従姉妹たちの歌も気に入るでしょう」

「そうじゃない!! 違うんだ!! 俺は風華がいい。 風華に会いたい……彼女は、夫となる者を得たのか? 愛し合うものが出来たのか?」

 荒ぶる思いに玄冥の胸は押しつぶされそうになっていた。

「どうなんだ!!」

「娘は、発情期を迎え村に留まっているだけです。 好きな者が居るとは聞いておらず、あの子の夫もまだ決まってはおりません。 夫候補が幾人も名乗り出ているため決めかねているところなのです」

 兄弟たちは一瞬の安堵を見せ、そして……次の言葉に頭を抱えた。 そして、何より、本人はソレどころではなかった。

 不安に震えていた。

「あの子を貰う」

 妻として迎えさせてほしい。

でも無ければ、

 夫の候補に名乗り出たい。

 でも無かった。

 玄冥の中では決まっており、駆け引きも反論も受け付ける気等欠片も見られない。 貧乏な小さな村の長としてココは駆け引きをするべきだ……。 だが、

 怖い……。

 村の事など放り出して今すぐにでも逃げ出したかったのだ。



 ごめんよ……。
 不甲斐ない父を、長を許しておくれ……。

 風岩の長は誤解していた。
 自分が恐怖に怯えているのだから、彼の娘も恐怖に震えるものだと……。



 我慢できなかった。
 静止する声も聞こえなかった。

 玄冥は、大きな羽根を広げ窓から飛び出し……そして、中空で巨大な竜の姿を取った。 春の祭りに来ていた者達は、戦でも起こったのかと怯え震えた。

 王宮に集う獣人達の多くは、風華の父親のように力弱い者達だから……。

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