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ほろ酔い加減の歌声をたどれば、玄冥のための禁止地区の大輪の花が咲き誇る大木の枝に少女が一人腰を下ろしていた。
美しい白い髪は柔らかそうに揺らめき、花と共に風に舞う。
その背には白い羽根が生えており、鳥の獣人だと分かった。
緩くフワリとした薄地の着物は、まだ彼女が少女だと告げている。 木々の上である荷も構わずくるくる回り、歌を歌う。
幼い小鳥は、そう長く起きているのは無理なのだろう。
やがて大きな欠伸をするとウトウトとした様子で瞼が落ちていく、そして満開の花々は風に揺れ少女を隠してしまった。
今まで玄冥は祭りにも、自分以外、いや自分にすら興味を持った事が無かった。 何しろ彼は闇を好み、孤独を好み、人を避けて山や海に籠ってしまう。 彼を思う父王や兄達が居なければそのまま世捨て人として生きるのでは? とすら言われている。
玄冥は自分の衝動を理解できないままに小鳥を眺めながら、その小鳥に触れてみたいと言う欲求に戸惑ってしまう。
「どう、しよう……」
ここは第四皇子が所有する禁則地だとつげ、見つかれば大変だが俺と居れば大丈夫だと言えば共に居てくれるだろうか? それとも、怖いと逃げられてしまうだろうか?
「逃げられるのは……イヤだな」
そうなるだろうと思っていても、
期待等してはいけないと思っていても、
それでもショックを受けてしまうだろう。
風に揺れる花の中に隠れながら、小鳥をのぞき見える少しだけ高い場所にある木の枝に舞い降りる。
おや、竜の皇子殿。
木々がさわさわと揺れ動いた。
胸がドキッと高くなり、玄冥はシーと大木に訴える。
花をつけた大木は、オヤオヤと笑うように小さく揺れた。
すやすやと穏やかな寝息を立てる小鳥は、純白の髪も、翼も肌も、花の色を写し取りピンク色に色づいているのが……なんとも愛らしい。
愛らしくて愛おしくて……その頬に触れたいと思った。
ドキドキと強く奏でる心臓の音が、外にまで聞こえているのでは? と、心配になる……。 その柔らかな頬に触れて良いだろうか?
欲求、鳥の香りに眩暈がしそうになる。
触れて……いいだろうか?
触れそうになって玄冥は手を引っ込めた。 俺の硬い手が彼女の頬を傷つけてしまうのではないかと思えば躊躇いを覚え、結局、ソバで眺める事しかできなかった。
なんとも愛しい子。
何時もなら苛立ちばかりの祭りの日々、だが、今日ばかりは違っていて、時間を忘れて少女を眺めていた。 そんな玄冥にじれったさを感じたのだろうか? 老いた大木が大きく枝を揺らした。
「ぁ……」
少女が落ちそうになって、慌てて手を伸ばし……抱きしめた。
泣きそうな気分になった……
「あぁ……」
壊さぬようにそっと抱き締める。
腕の中の柔らかなぬくもりふわふわとして温かい、なんとも愛しい生き物だろうか? 幸福に泣きそうで、今の俺はとても情けない顔をしていただろう。
開かれる瞳は空の色。
「だぁれ?」
甘えた声が返されて、玄冥は戸惑った。 名を聞かれた事等、記憶している限り存在しない。 黒鋼のような髪、瞳、角、爪、唇、他の獣種と比べて大きな身体、ソレは彼が彼である事を示していたから。
膝の上に彼女は乗り、落ちないように腕の中に身を預けた少女。 大きな身体を持ち竜の特徴を露わにする青年を恐れるでもなく当たり前のように玄冥の腕の中に納まりながら、彼を見上げていた。
「玄冥と言う」
「私は風華。 玄冥様? 玄冥様はどうして泣いているの? 悲しい事があったの?」
そう言って小さな手が、頬に触れてきた。 柔らかな手は心地よくて何度も頬を往復する。
「お願い、泣かないで……」
零れ落ちる涙に少女は口づけを落とした。
美しい白い髪は柔らかそうに揺らめき、花と共に風に舞う。
その背には白い羽根が生えており、鳥の獣人だと分かった。
緩くフワリとした薄地の着物は、まだ彼女が少女だと告げている。 木々の上である荷も構わずくるくる回り、歌を歌う。
幼い小鳥は、そう長く起きているのは無理なのだろう。
やがて大きな欠伸をするとウトウトとした様子で瞼が落ちていく、そして満開の花々は風に揺れ少女を隠してしまった。
今まで玄冥は祭りにも、自分以外、いや自分にすら興味を持った事が無かった。 何しろ彼は闇を好み、孤独を好み、人を避けて山や海に籠ってしまう。 彼を思う父王や兄達が居なければそのまま世捨て人として生きるのでは? とすら言われている。
玄冥は自分の衝動を理解できないままに小鳥を眺めながら、その小鳥に触れてみたいと言う欲求に戸惑ってしまう。
「どう、しよう……」
ここは第四皇子が所有する禁則地だとつげ、見つかれば大変だが俺と居れば大丈夫だと言えば共に居てくれるだろうか? それとも、怖いと逃げられてしまうだろうか?
「逃げられるのは……イヤだな」
そうなるだろうと思っていても、
期待等してはいけないと思っていても、
それでもショックを受けてしまうだろう。
風に揺れる花の中に隠れながら、小鳥をのぞき見える少しだけ高い場所にある木の枝に舞い降りる。
おや、竜の皇子殿。
木々がさわさわと揺れ動いた。
胸がドキッと高くなり、玄冥はシーと大木に訴える。
花をつけた大木は、オヤオヤと笑うように小さく揺れた。
すやすやと穏やかな寝息を立てる小鳥は、純白の髪も、翼も肌も、花の色を写し取りピンク色に色づいているのが……なんとも愛らしい。
愛らしくて愛おしくて……その頬に触れたいと思った。
ドキドキと強く奏でる心臓の音が、外にまで聞こえているのでは? と、心配になる……。 その柔らかな頬に触れて良いだろうか?
欲求、鳥の香りに眩暈がしそうになる。
触れて……いいだろうか?
触れそうになって玄冥は手を引っ込めた。 俺の硬い手が彼女の頬を傷つけてしまうのではないかと思えば躊躇いを覚え、結局、ソバで眺める事しかできなかった。
なんとも愛しい子。
何時もなら苛立ちばかりの祭りの日々、だが、今日ばかりは違っていて、時間を忘れて少女を眺めていた。 そんな玄冥にじれったさを感じたのだろうか? 老いた大木が大きく枝を揺らした。
「ぁ……」
少女が落ちそうになって、慌てて手を伸ばし……抱きしめた。
泣きそうな気分になった……
「あぁ……」
壊さぬようにそっと抱き締める。
腕の中の柔らかなぬくもりふわふわとして温かい、なんとも愛しい生き物だろうか? 幸福に泣きそうで、今の俺はとても情けない顔をしていただろう。
開かれる瞳は空の色。
「だぁれ?」
甘えた声が返されて、玄冥は戸惑った。 名を聞かれた事等、記憶している限り存在しない。 黒鋼のような髪、瞳、角、爪、唇、他の獣種と比べて大きな身体、ソレは彼が彼である事を示していたから。
膝の上に彼女は乗り、落ちないように腕の中に身を預けた少女。 大きな身体を持ち竜の特徴を露わにする青年を恐れるでもなく当たり前のように玄冥の腕の中に納まりながら、彼を見上げていた。
「玄冥と言う」
「私は風華。 玄冥様? 玄冥様はどうして泣いているの? 悲しい事があったの?」
そう言って小さな手が、頬に触れてきた。 柔らかな手は心地よくて何度も頬を往復する。
「お願い、泣かないで……」
零れ落ちる涙に少女は口づけを落とした。
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