愛を語れない関係【完結】

迷い人

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後編

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 植物に祝福を与える日々を送り、感情を押し殺してきたソフィラにとっての楽しい思い出と言えば、メアリーが参加する前までのウィルとのお茶会だと語られれば、子猫……いやウィルは複雑な気分になった。

 そんな子猫の表情を巧みに読み取ったソフィラは、慌てて言い訳をした。

「ぇ、違う違う別にウィル様が好きだった~とかではなくてね。 ほら、その日だけは可愛いお菓子が食べ放題だったから!! お茶や果物を提供して、定期的に屋敷にケーキは持ってきて貰っていたのですが……。 使用人達が子供達に食べさせてやりたいって……。 花の乙女なんだから譲ってくれますよね!! って、どう思います?」

「うにゃい」

 長く語っても通じないので一言子猫は酷いと告げながら、ウィルにとっては後悔がまた新しく積み重ねられた。

 ソフィラが寝落ちした後、そっと屋敷を抜け出した子猫とペリカンモドキ、ウィルはカールにボソリと告げた。

「相手は子供だったんだ……もっと優しくするべきだった」

「オマエには無理だろう」

「なんでだよ」

「魔術馬鹿で鈍感だから」

 イラっとして、しがみ付いている背中に軽く爪を立てた。

「ちょ、おま!! 落とすぞ、止めろ、危ないだろう!!」

 そして話し出すペリカンモドキことカール。

 別に落とされても飛べるから問題ないが、話が出来なくなるのが困ると思って爪を引っ込めた。

「別に楽しく生きようとしなくてもさぁ、美味しいご飯食べたら嬉しいでしょう? それに、こう……なんだろう、えっとね、自分がやりたいと思っている事が成功すれば嬉しいし、本を読んで面白かったり、音楽を聴いて綺麗だと思ったり、こう色々あるでしょう?! なんなのあの子!!」

「分かったから興奮して爪をだすな!! 後、今更なんだかねぇ~。 アレが、アンタの婚約者だ」

 そしてモドキことカールは護衛として見守っていたソフィラの事を話した。

「彼女の使用人は庶民だ。 食事を同席する訳にはいかないし、ソフィラには一緒に食事をしましょう。 一人は寂しいから。 と言うような事は言えるような子じゃなかった」

「それも、感情を抑え込んだ影響なの?」

「いや、ドチラかと言えば、両親が生きて居た頃、貴族としてシッカリと育てられた結果じゃないかなぁ? まぁ……俺らは戦場や酒場、身分さとか関係なく楽しそうな場所をフラフラして同席したし、会話に混ざったりもしていたけどな、なっ!!」

「う~ん、アレは楽しかったかと言われると、僕は研究の方が有意義だと思う」

「照れ屋さんだな」

「違うから!!」

「おい、本当、背中に爪を立てるな。 口の中に放り込むぞ!!」

「……」

 小さなふにゃふにゃとした子猫の身体がぺたっと背中にはりつき、なんとなく……拗ねた。

「なんで、ソフィラは……」

「学園に入学したけど、領地巡りで通う事は無かっただろうからなぁ……。 多分、ウィルが思って居るより何も出来ない子だと思う。 一応、うちの団の先代団長は領地巡りの護衛の際に文字や数学を教えていたけど。 ソフィラが団長や団員に気を許し始めた頃、陛下から護衛の際には目につかぬよう隠密でと言う勅命がされたんだよ。 頼るものが出来れば仕事に集中できなくなるって」

「そんなの……寂しいじゃないか……」

「だな。 ウィルはもっと俺に感謝しても良いと思うぞ」

「えぇええええええ」

「それは、どういう意味だ?」

 そうペリカンモドキなカールは笑う。

「まぁ、何だ……俺が言いたいのは、ソフィラが新しい人生を生きたいと言うが、正直言って難しいと思う。 そもそも彼女自身に生活能力が無い!!」

「彼女の魔法は日常的に必要とされるから、目的の無い旅に出て、旅先で働いて、報酬をもらう日々を送ってもいいんじゃないのかな? それこそ良い感じの領主に世話になってもいいだろうし」

 魔法は素質として与えられた力。
 魔術は現象を発現させるために作られたもの。

 ウィルが破壊系の力しかないと思われているのは、業務上求められるのは、魔術ではなく破壊魔法だから。

「ソフィラの力は国の利益と共にあるのに、陛下が彼女を手放す訳ないだろう? 力を使いながら旅をしていたら、速攻連れ戻されるし、領主が匿えば、その領主が命の危機にさらされる。 自由を得たいなら力は隠した方がいい」

「なら、食堂とかで仕事を貰う。 野菜を市場に卸す」

「オマエ……変な事を良く知っているな。 それならいけるかも? ただ……陛下の追ってが無ければだ」

「それって、カールが追手になるって事? カールだって陛下に不満を持っているんだから、陛下の味方をしないよね!!」

「いや、確かに不満は不満だけど。 うちは実家がソコソコシッカリしているし、俺も贅沢する方じゃないから仕事も適当にして、まぁソコソコ楽しく過ごしているし不満はあるけど、変化を求めるほどじゃないかな。 それに放っておくと何日も部屋に引きこもって出てこない弟分もいるし、王都勤めをやめて実家に戻るほどのアレでもないだろう」

「今は僕が引きこもっているのは関係ないでしょう!!」

「寝食忘れて研究は止めろって言ってんの」

「ご飯は食べているよ……。 ほら、まとめて作って保存空間に放り込んであるし。 って、問題は僕の話じゃないでしょうが……あぁ、もう何の話をしていたのか忘れたよ。 そう、そうだった……僕は、ソフィラの願いを叶えて上げたいんだ……」

「やめた方がいい。 ソフィラが願う通り金を手に入れても何時かはソレが尽きる。 陛下から逃げたとしても、生きていくために祝福の力を使えば、それで捕捉されて連れ戻され、もっと酷い扱いを受けるだけだ。 それにウィルだって困るだろう。 婚約者として何とかしろと言われているんだから」

「それは……ソレは、アレだよ。 陛下は何とかしろの何とかの説明はしていなかったし、ソフィラが幸せになれるように何とかしろと言っていたのかもしれないだろう」

「そんな訳あるか!!」

「以外と善人かもしれない!」

「無いな」

「……僕はね……今までの謝罪の意味を込めて、この姿で側に居ようかと思っているんだ。 ソフィラが逃げれば、僕は婚約者として追わなければいけない訳だし、陛下の命令には反してはいない」

「それで姿をくらますのか? 家族が人質に取られたらどうする?」

「家族に何かしたら、報復をする」

「はぁ……分かった。 なら……ウィルは、魔導師のウィルとして謝罪の金を渡しておけ。 楽器とメアリーを売った金を返すって言っていただろう? 明日にでも盛大に派手そうな魔法をぶち込んで、こう仕事しています的なアピールを周囲にして、どさくさに紛れて金を渡すんだ」

「そう言えば、騎士団の方にはソフィラを何とかしろって言う命令は出ていないの?」

「出てはいるけど、今は使用人からの事情聴取と、屋敷の茨の見張りで止められている。 何しろ使用人救出時に茨の鞭で打たれて、かなりの怪我人が出ているからな」

「人型で行くと、そんなに狂暴なの?」

「まぁ、平気でしょ。 ウィルなら」

「僕、魔法を放つ時、何時だって君が側にいたんだけど……明日は……いないよね? 流石に……」

「俺は、ソフィラの前に顔出すなって命じられているからな。 陛下の命令に背けば、おまえのためにもならないから、一人で頑張れ」

 ペリカンモドキは笑うのだった。
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