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前編
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メアリーへの対応は翌日のうちに終わった。
僕は世間と言う奴を何も知らなかったから、その対応の多くはカールに学んだ。
無力。
こんな無力な僕ではソフィラの婚約者は相応しくない。
婚約解消をして、彼女を自由にしなければ……。
生徒のほとんどが授業に出ている昼時。
酒場でメアリーの嘘を聞いた翌日。
僕とカールはメアリーの寮の部屋へと乗り込んだ。
メアリーへの対応は、初手で失敗していた。
酒場で養子縁組解除を告げた事。
怒りのまま本人に告げてしまったため……本人はその日のうちに逃げる準備をしたのだ。 あれほど多くのものをソフィラからとって行ったのに、その多くは売却済なんだとカールから聞かされた。
「もっと、早くに教えてくれたらよかったのに」
捕獲してロープでくくったメアリーを僕らは見ていた。
泥棒とか横領とか、そう言うので警備兵に訴えようかと思ったけれど、それだと秘密の恋人をしている第三王子が介入してしまうかもしれないと、個人的に処理する事にした。 メアリーの素行は良くはなかったらしく、敵は多いと言うのは都合が良かった。
そして……反省した。
人に興味を持たなかった事で迷惑をかけてしまったから。
秘密で処分をしよう。
内緒で片付けよう。
養子縁組の解除はしていないけど……。
少しぐらい前後するくらいは問題ないよね?
「オマエもソフィラもソレで良いってしてたのに、なんで俺が注意しないといけないんだ?」
そう言われれば反論しようもない。 でも、文句は言う。
「冷たい」
「しらね。 それよりメアリーちゃんに対して、今後どうする訳よ」
「少しでも現金化できるものは、現金化してソフィラに返したいと思ってる」
「でも、金になりそうなのって、オマエが買ってやった楽器だけぐらいじゃないのか?」
色々と持ちだしているような話は聞いたが、部屋にはそれらしい物は無かった。
「ソフィラから巻き上げたものはどうしたの?」
冷ややかに見下すような視線でメアリーに聞く。
「それは……」
「何? 僕はもうかなり怒っているんだけど」
そう言えば、ウィルはバチバチと放電し、メアリーは小さく悲鳴を上げた。
「王子に……王子に渡しました……私は、私は悪くない!! 王子が、王子がそうしろと言ったんです!!」
「なんでソコで王子が出て来るの?? 言い訳? 嘘? まぁ、何でもいいかぁ……君って自分に都合が良ければ、幾らでも嘘をつける人だし。 信用に値しないからね」
別にどうでもよかった。
物を奪っている事より、名誉を傷つけた事を怒っていたから。
「本当です!! そりゃぁ……発表会に必要なドレスや装飾品は借りましたけど。 他は……」
「借りた?」
「貰いましたけど……それだって発表会が終われば王子が持って行ったんです。 私が王子に逆らうなんて出来る訳ないでしょう。 だから私は悪くない!!」
「と言うか……身分的に愛人にすらなれないんだから、無駄だよ。 近寄るべきじゃなかった」
「違う!! 王子は愛していると言っていたわ。 兄様とソフィラの妹なら、王子妃にすらなれる資格はあるって!!」
「別にどうでもいいよ……」
「私は第三王子の恋人なのよ!!」
「僕の妹だから、ソフィラとは家族だから、今度は第三王子の恋人だから? もうそんなのはいいよ。 それよりも、使い込んだかねの清算だね。 楽器だけど、なるべく高く買い取ってもらって……あとは……」
「やめて!! それが無いと私は……」
何? とは問わなかった。 メアリーは余り熱心に授業を受けていないのは知っている。 音楽の才能がない事や、授業には余り出ていない事等の報告も受けていた。 楽器は彼女に不要だったし、むしろ必要でないから対してダメージにもならないと言うのが残念に思えた。
嫌な思いを沢山させてやりたいのになぁ……。
「あと売れるものは……メアリー本人くらい? 高く売れるといいんだけど……良い人知っている?」
「まぁ、それなりに知ってるかなぁ。 メアリーちゃんは、見た目は綺麗だから無能でもソコソコの値段がつくんじゃないかなぁ?」
「ちょ、ちょっと待って……。 やめてよ、冗談でしょう。 ごめん、ごめんって兄様許して」
ずっと黙って睨んでいたメアリーが騒ぎ出す。
「そんな風に呼ばないでよ。 僕はとても後悔をしているんだ。 あの日、君を助けてしまった事を。 放っておけば良かった……」
「ご、ごめんなさい。 ぐ、グランビル家での生活が、楽しくて、嬉しくて、兄様が特別だと言うのが……自分の特別のように思えて」
「僕は、魔術の勉強は好きでしていたけど、人の勉強はしてこなかったから分からないんだ。 君のソレはどういう感情なの? 後悔? 後悔なら……良く分かる……だけど……君のソレは後悔とは違うような気がする。 何を謝っているのかわからないし」
「ぇ、あ……ソフィラ様へのプレゼントを奪ってごめんなさい」
「僕に言われても」
「た、高い楽器を買ってもらってゴメンなさい」
「別に、ちゃんと勉強してくれれば文句は無かったんだ」
「傲慢でごめんなさい」
「君から傲慢を抜いたら、それはもはや別人って気がする。 ねぇ……何を謝っているの?」
「お願い、お願い、お願いだから私を捨てないで!!」
「大丈夫だよ。 君は捨てるんじゃなくて、売るんですから。 君が盗んだ分の返済に少しはなればいんだけど」
僕は……いつからか後悔ばかりするようになった。
だけど、隣国で売られると言う妹だった存在への後悔と言えば、彼女を救った事。 救わなければ良かった……。 だけど、それがなければ、僕とソフィラはどんな夫婦になっているのだろう? 想像したくもない……。
ソフィラに対して後悔ばかりが積り積もって、色んな事が分からない。
「どうすれば、ソフィラが生活しやすいかなぁ?」
僕はカールに聞いた。
「メアリーが流した噂を打ち消すかなぁ?」
カールはそう言うけれど……メアリーの売却金を手にしたころ、既に噂の塗り替えは難しくなっていた。
僕は世間と言う奴を何も知らなかったから、その対応の多くはカールに学んだ。
無力。
こんな無力な僕ではソフィラの婚約者は相応しくない。
婚約解消をして、彼女を自由にしなければ……。
生徒のほとんどが授業に出ている昼時。
酒場でメアリーの嘘を聞いた翌日。
僕とカールはメアリーの寮の部屋へと乗り込んだ。
メアリーへの対応は、初手で失敗していた。
酒場で養子縁組解除を告げた事。
怒りのまま本人に告げてしまったため……本人はその日のうちに逃げる準備をしたのだ。 あれほど多くのものをソフィラからとって行ったのに、その多くは売却済なんだとカールから聞かされた。
「もっと、早くに教えてくれたらよかったのに」
捕獲してロープでくくったメアリーを僕らは見ていた。
泥棒とか横領とか、そう言うので警備兵に訴えようかと思ったけれど、それだと秘密の恋人をしている第三王子が介入してしまうかもしれないと、個人的に処理する事にした。 メアリーの素行は良くはなかったらしく、敵は多いと言うのは都合が良かった。
そして……反省した。
人に興味を持たなかった事で迷惑をかけてしまったから。
秘密で処分をしよう。
内緒で片付けよう。
養子縁組の解除はしていないけど……。
少しぐらい前後するくらいは問題ないよね?
「オマエもソフィラもソレで良いってしてたのに、なんで俺が注意しないといけないんだ?」
そう言われれば反論しようもない。 でも、文句は言う。
「冷たい」
「しらね。 それよりメアリーちゃんに対して、今後どうする訳よ」
「少しでも現金化できるものは、現金化してソフィラに返したいと思ってる」
「でも、金になりそうなのって、オマエが買ってやった楽器だけぐらいじゃないのか?」
色々と持ちだしているような話は聞いたが、部屋にはそれらしい物は無かった。
「ソフィラから巻き上げたものはどうしたの?」
冷ややかに見下すような視線でメアリーに聞く。
「それは……」
「何? 僕はもうかなり怒っているんだけど」
そう言えば、ウィルはバチバチと放電し、メアリーは小さく悲鳴を上げた。
「王子に……王子に渡しました……私は、私は悪くない!! 王子が、王子がそうしろと言ったんです!!」
「なんでソコで王子が出て来るの?? 言い訳? 嘘? まぁ、何でもいいかぁ……君って自分に都合が良ければ、幾らでも嘘をつける人だし。 信用に値しないからね」
別にどうでもよかった。
物を奪っている事より、名誉を傷つけた事を怒っていたから。
「本当です!! そりゃぁ……発表会に必要なドレスや装飾品は借りましたけど。 他は……」
「借りた?」
「貰いましたけど……それだって発表会が終われば王子が持って行ったんです。 私が王子に逆らうなんて出来る訳ないでしょう。 だから私は悪くない!!」
「と言うか……身分的に愛人にすらなれないんだから、無駄だよ。 近寄るべきじゃなかった」
「違う!! 王子は愛していると言っていたわ。 兄様とソフィラの妹なら、王子妃にすらなれる資格はあるって!!」
「別にどうでもいいよ……」
「私は第三王子の恋人なのよ!!」
「僕の妹だから、ソフィラとは家族だから、今度は第三王子の恋人だから? もうそんなのはいいよ。 それよりも、使い込んだかねの清算だね。 楽器だけど、なるべく高く買い取ってもらって……あとは……」
「やめて!! それが無いと私は……」
何? とは問わなかった。 メアリーは余り熱心に授業を受けていないのは知っている。 音楽の才能がない事や、授業には余り出ていない事等の報告も受けていた。 楽器は彼女に不要だったし、むしろ必要でないから対してダメージにもならないと言うのが残念に思えた。
嫌な思いを沢山させてやりたいのになぁ……。
「あと売れるものは……メアリー本人くらい? 高く売れるといいんだけど……良い人知っている?」
「まぁ、それなりに知ってるかなぁ。 メアリーちゃんは、見た目は綺麗だから無能でもソコソコの値段がつくんじゃないかなぁ?」
「ちょ、ちょっと待って……。 やめてよ、冗談でしょう。 ごめん、ごめんって兄様許して」
ずっと黙って睨んでいたメアリーが騒ぎ出す。
「そんな風に呼ばないでよ。 僕はとても後悔をしているんだ。 あの日、君を助けてしまった事を。 放っておけば良かった……」
「ご、ごめんなさい。 ぐ、グランビル家での生活が、楽しくて、嬉しくて、兄様が特別だと言うのが……自分の特別のように思えて」
「僕は、魔術の勉強は好きでしていたけど、人の勉強はしてこなかったから分からないんだ。 君のソレはどういう感情なの? 後悔? 後悔なら……良く分かる……だけど……君のソレは後悔とは違うような気がする。 何を謝っているのかわからないし」
「ぇ、あ……ソフィラ様へのプレゼントを奪ってごめんなさい」
「僕に言われても」
「た、高い楽器を買ってもらってゴメンなさい」
「別に、ちゃんと勉強してくれれば文句は無かったんだ」
「傲慢でごめんなさい」
「君から傲慢を抜いたら、それはもはや別人って気がする。 ねぇ……何を謝っているの?」
「お願い、お願い、お願いだから私を捨てないで!!」
「大丈夫だよ。 君は捨てるんじゃなくて、売るんですから。 君が盗んだ分の返済に少しはなればいんだけど」
僕は……いつからか後悔ばかりするようになった。
だけど、隣国で売られると言う妹だった存在への後悔と言えば、彼女を救った事。 救わなければ良かった……。 だけど、それがなければ、僕とソフィラはどんな夫婦になっているのだろう? 想像したくもない……。
ソフィラに対して後悔ばかりが積り積もって、色んな事が分からない。
「どうすれば、ソフィラが生活しやすいかなぁ?」
僕はカールに聞いた。
「メアリーが流した噂を打ち消すかなぁ?」
カールはそう言うけれど……メアリーの売却金を手にしたころ、既に噂の塗り替えは難しくなっていた。
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