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終章
121.死と生 01
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藤原の案内の元、晃は彼の車に乗り込んだ。
「それで、何があった?」
車のアクセルが踏まれる事すら待たずに晃が聞けば、藤原はゆったりと笑って見せる。
「随分と、落ち着きがない」
「誰のせいだ?」
「誰のせいだと思う?」
優雅な声色と同じように車がスムーズに進みだす。
「ココまで、わざわざ出向いて来た理由はなんだ?」
「晃とドライブをしたかったからと言ったら、どう答えます?」
「ふざけているのか?」
何時も以上に訳の分からない問答が繰り返されると、晃は不快を露わに眉間を寄せた。
「私は何時だって。 君に対して誠意的で紳士的だったと思うが? それほど、蜜月を邪魔されたのが気に入らないのかな?」
「あぁ、気に入らないな」
言えば、藤原は遠慮なく笑った。
「君と一緒に行きたいところがある」
「いい加減にしろ」
「大真面目なんだが。 そんなに不安定では、雫君にも悪影響を与えるのではないのかな?」
そう言って……赤ワインを渡してきた。
「飲めと?」
「晃には、余裕が必要なようですからね」
沈黙のまま、
理由も分からないまま、
晃は瓶のままワインを飲んだ。
赤い液が唇から零れるのを、藤原が指先で拭おうとして……晃は睨み、手を払った。
「つれない人だ」
「イラつかせるからだろう」
決して酔うような量でもないのに、晃の思考が夢現と揺れ始めていた。 だが……雫はおらず、声は届かない……。
話を聞かなければと、目を覚まそうとしたが目を覚ます事もできない。
「晃、起きて下さい」
藤原の声で目覚め、不快そうな顔を見せつけた。
「おはよう」
晃の座っている助手席側のドアが開かれていた。
「ここは、何処だ?」
藤原は答える事無く、晃に手を伸ばし、肩をかし、車から降りさせる。 そこは、時塔の屋敷ではなく、今も深い山の中だった。
「それで、俺を迎えに来た用とはなんだ?」
藤原は晃を無視して、歩きだす。
いい加減にしろ!! そう言って手を払おうとしたが、思ったように力が入らなかった。 イライラを伝える事が出来ない晃に、藤原は勝手に語りだす。
「かつて雫には様々な実験が行われました。 皎一君が、当時の地位を持って、雫の独占を断罪した上で、財産と地位を持って彼女を保護したその日まで。 それは、不死を試すものばかりではなく、その不死性がどうすれば停滞するか? どうすれば麻痺するか? 痛みが感じないか? 様々な実験がなされたのですよ」
「で……ソレを俺にも利用したと?」
「えぇ、雫と同じ経験をしているのですから、喜んではいかがですか?」
連れていかれた先は、個人の所有を思わせる展望台だった。
藤原はビニールシートを敷いた床の上に晃を寝かせる。 もし、こういう訳の分からない状況でなければ……一緒にいる相手が雫であれば、天井を割って眺める星空も美しいと思ったのだろう。
「で?」
晃は短く聞いた。
「雫が処分される事になりました」
寝かされた晃を覗き込むように藤原は告げた。
「どういう事だ!!」
飛び掛からんばかりの晃の勢い。
だが、それは言葉だけで身体を伴うものではなかった。
藤原は淡々とした調子で、何時ものように優雅に心地よいだろう声色で言葉を続ける。
「茨田杉子が撮影していたアナタの記録が、幹部数名に送られていたのですよ。 雫以外に不死性を持った者がいたと。 雫の不死性は人に分ける事が可能なのだと。 知れてしまったんですよ」
藤原は静かに笑い……晃は黙り込んだ。 声に出す言葉が思いつかなかったのだ。
雫を失う不安……。
玲央を境界として変化した晃の人格とも言うべきものが、人と化け物の双方が狼狽えていた。 その様子を藤原は監察するかのように見つめ、晃が藤原を見れば、優しく晃に笑いかけた。
「晃、君のミスだ。 君が好きなようにさせていたからね。 全て君が招いた結果だよ。 雫は殺される。 今までにない残酷さを持って、その肉は凌辱されるだろうね。 晃の未熟さゆえに、雫は自分の死を死ともしらず、その身の呪いが尽きるまで切られ、かき回され……犯されながら死を迎えるのだろう」
「ふざけているのか?」
「いいや、コレは事実だ。 もう、彼女の肉体は回収された後だ」
「雫は、何処にいる!!」
薬を飲まされ、自由を奪われていた。
それでも晃は身を起こした。
怒りに身が震えた。
そして……もう一方で泣いていた。
俺のせいだ……。
「さぁね、私ではわからないな。 私の地位はそこまで高くはないからね。 そして、皎一君に分かるような場所に、彼等が雫を隠す事はないだろう。 あの人は、自分の地位と財産をなげうって彼女を保護した。 そんな相手に油断するような人間が、高い地位につけるはずはない。 それで、君はどうするんだ。 晃……」
「雫は……俺のものだ」
「あぁ、そうだ……雫は君のものだ……その魂は、今も君と共にある……。 それでいいのでは?」
カラカウような声だった。
良い訳が無いと知りながらかけられた声。
晃は今も、怒り、泣いていた。
「許せませんか?」
「「許せない」」
同時に存在するはずもない、人と化け物が答えているようだと藤原は思った。
「あぁ、許せる訳がない。 その肉も血も、骨も、皮も、髪も、爪も……全て俺のものだ。 返さぬなら……殺そう。 いや、殺してくれと願っても、雫の肉に与えると言っている死の苦痛を代わりに受けさせよう」
晃の化け物としての部分が……泣いて終わる訳などない。 藤原は優しく微笑みを向ける。
「では、どうする? 居場所も分からないのに」
「どう……」
晃は黙り込むしかなかった。
玲央と出会い……晃は人の道から反れていたはずだった。
それにもかかわらず、晃は静かに涙を流す。
「それで、何があった?」
車のアクセルが踏まれる事すら待たずに晃が聞けば、藤原はゆったりと笑って見せる。
「随分と、落ち着きがない」
「誰のせいだ?」
「誰のせいだと思う?」
優雅な声色と同じように車がスムーズに進みだす。
「ココまで、わざわざ出向いて来た理由はなんだ?」
「晃とドライブをしたかったからと言ったら、どう答えます?」
「ふざけているのか?」
何時も以上に訳の分からない問答が繰り返されると、晃は不快を露わに眉間を寄せた。
「私は何時だって。 君に対して誠意的で紳士的だったと思うが? それほど、蜜月を邪魔されたのが気に入らないのかな?」
「あぁ、気に入らないな」
言えば、藤原は遠慮なく笑った。
「君と一緒に行きたいところがある」
「いい加減にしろ」
「大真面目なんだが。 そんなに不安定では、雫君にも悪影響を与えるのではないのかな?」
そう言って……赤ワインを渡してきた。
「飲めと?」
「晃には、余裕が必要なようですからね」
沈黙のまま、
理由も分からないまま、
晃は瓶のままワインを飲んだ。
赤い液が唇から零れるのを、藤原が指先で拭おうとして……晃は睨み、手を払った。
「つれない人だ」
「イラつかせるからだろう」
決して酔うような量でもないのに、晃の思考が夢現と揺れ始めていた。 だが……雫はおらず、声は届かない……。
話を聞かなければと、目を覚まそうとしたが目を覚ます事もできない。
「晃、起きて下さい」
藤原の声で目覚め、不快そうな顔を見せつけた。
「おはよう」
晃の座っている助手席側のドアが開かれていた。
「ここは、何処だ?」
藤原は答える事無く、晃に手を伸ばし、肩をかし、車から降りさせる。 そこは、時塔の屋敷ではなく、今も深い山の中だった。
「それで、俺を迎えに来た用とはなんだ?」
藤原は晃を無視して、歩きだす。
いい加減にしろ!! そう言って手を払おうとしたが、思ったように力が入らなかった。 イライラを伝える事が出来ない晃に、藤原は勝手に語りだす。
「かつて雫には様々な実験が行われました。 皎一君が、当時の地位を持って、雫の独占を断罪した上で、財産と地位を持って彼女を保護したその日まで。 それは、不死を試すものばかりではなく、その不死性がどうすれば停滞するか? どうすれば麻痺するか? 痛みが感じないか? 様々な実験がなされたのですよ」
「で……ソレを俺にも利用したと?」
「えぇ、雫と同じ経験をしているのですから、喜んではいかがですか?」
連れていかれた先は、個人の所有を思わせる展望台だった。
藤原はビニールシートを敷いた床の上に晃を寝かせる。 もし、こういう訳の分からない状況でなければ……一緒にいる相手が雫であれば、天井を割って眺める星空も美しいと思ったのだろう。
「で?」
晃は短く聞いた。
「雫が処分される事になりました」
寝かされた晃を覗き込むように藤原は告げた。
「どういう事だ!!」
飛び掛からんばかりの晃の勢い。
だが、それは言葉だけで身体を伴うものではなかった。
藤原は淡々とした調子で、何時ものように優雅に心地よいだろう声色で言葉を続ける。
「茨田杉子が撮影していたアナタの記録が、幹部数名に送られていたのですよ。 雫以外に不死性を持った者がいたと。 雫の不死性は人に分ける事が可能なのだと。 知れてしまったんですよ」
藤原は静かに笑い……晃は黙り込んだ。 声に出す言葉が思いつかなかったのだ。
雫を失う不安……。
玲央を境界として変化した晃の人格とも言うべきものが、人と化け物の双方が狼狽えていた。 その様子を藤原は監察するかのように見つめ、晃が藤原を見れば、優しく晃に笑いかけた。
「晃、君のミスだ。 君が好きなようにさせていたからね。 全て君が招いた結果だよ。 雫は殺される。 今までにない残酷さを持って、その肉は凌辱されるだろうね。 晃の未熟さゆえに、雫は自分の死を死ともしらず、その身の呪いが尽きるまで切られ、かき回され……犯されながら死を迎えるのだろう」
「ふざけているのか?」
「いいや、コレは事実だ。 もう、彼女の肉体は回収された後だ」
「雫は、何処にいる!!」
薬を飲まされ、自由を奪われていた。
それでも晃は身を起こした。
怒りに身が震えた。
そして……もう一方で泣いていた。
俺のせいだ……。
「さぁね、私ではわからないな。 私の地位はそこまで高くはないからね。 そして、皎一君に分かるような場所に、彼等が雫を隠す事はないだろう。 あの人は、自分の地位と財産をなげうって彼女を保護した。 そんな相手に油断するような人間が、高い地位につけるはずはない。 それで、君はどうするんだ。 晃……」
「雫は……俺のものだ」
「あぁ、そうだ……雫は君のものだ……その魂は、今も君と共にある……。 それでいいのでは?」
カラカウような声だった。
良い訳が無いと知りながらかけられた声。
晃は今も、怒り、泣いていた。
「許せませんか?」
「「許せない」」
同時に存在するはずもない、人と化け物が答えているようだと藤原は思った。
「あぁ、許せる訳がない。 その肉も血も、骨も、皮も、髪も、爪も……全て俺のものだ。 返さぬなら……殺そう。 いや、殺してくれと願っても、雫の肉に与えると言っている死の苦痛を代わりに受けさせよう」
晃の化け物としての部分が……泣いて終わる訳などない。 藤原は優しく微笑みを向ける。
「では、どうする? 居場所も分からないのに」
「どう……」
晃は黙り込むしかなかった。
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