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9章

114.転じる 04

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 昨晩、ホテルに戻った親良は、玲央が行方不明になっている事実に、柑子市の者が関わっているかどうかを颯太と浩輔の2人に調べさせていた。

 亡き田宮幸雄は玲央が行方不明になったと同時に、ネット講師の依頼を行った知人に講師達を調べてもらっていた事実が見つかった。 だが玲央自身が直接講師と関わった形跡はなかった。

『当然の結果ですよ。 ばかばかしくて笑う気もならん……。 講師を引き受けた奴等とて子供に余計な話をして、自分の過去を掘り起こされたくないだろう』

 葛西浩輔は本当に面白くないとばかりに、吐き捨てるように言い通話を終えた。





 刑事達から離れた場所で親良は晃に問いかけた。

「玲央と柑子市に何の繋がりがあると言うのですか?」

 子供の戯れで表に出されて良い情報ではない。 いや、例え父親が柑子市で高い地位にいたからと言って、都市を出て生活をしている以上、柑子市の事を伝えるのはルール違反と言うものだ。 親良に焦りがあった。

「簡単だ」

 晃は歪に笑う。

 親良にもう少しばかり余裕があれば、そんな顔をさせなかったであろう。 だが今の親良は何処までも焦っていた……。

 玲央を確保し、余計な事を語られる前に柑子市に連れて行くべきでしょうか? 本人がそれを望んでいるのですから、玲央自身を連れ去ることは難しくはないでしょう。 ですが……玲央は……殺し過ぎています。 玲央自身を死んだ事に……ダメですね……もう情報が広がり過ぎています。

 そんな事を考えている親良の胸元から、晃が勝手に煙草の箱を取り出せば、呆れた様子で親良が顔を上げた。

「いい加減自分で買えばどうですか?」

「親良も一本どうだ?」

「元々、俺のですよ」

 そして結局、2本の煙草に火をつけるのも親良なのだ。 煙草を吸い、そして煙を吐く……それを数回繰り返した後に親良は晃に聞いた。

「晃は、どうするつもりですか?」

「どうもしない」

「はっ? あれほど親身になっていたのにですか? 俺に任せると言うのですか?」

 唖然とした……。
 そして焦る。

 今回晃を連れて行くにあたって、直接の上司ではないとは言え、藤原法一からは全て晃の意志に従いフォローするようにと告げられているのだから。

「自分と重ねていたから救いたいと思った……。 今なら、アレは違うと言い切れる。 アレは……知恵あるものと勘違いしたただの獣だ」

「アレ……ですか……。 それで、良いんですか?」

 反論がある訳ではないが、今までの晃とは別人に思え親良は戸惑わずにはいられなかった。

「親良は……どう指示を受けて来た。 好きにすればいい」

 皮肉な笑み。
 鷹揚な言い方。

 親良は困惑しつつも答える。

「俺が受けた指示は、柑子市との繋がりを抹消する事だけで、事件の解決までは命じられてはいません」

「なら、ソレでいいだろう」

「ですが、晃、アナタは言いましたよね。 玲央は柑子市からの迎えを待っていると……彼は何を知っているのか……」

 迎えと言う言葉も晃がそう思っているだけ、そう思いながらも親良は聞かずにはいられなかった。



 既に田宮家の惨殺事件はマスコミによって取り上げられている。 連続誘拐事件との関わりは伏せられていたが、分からないからこそ多くの憶測が飛び交っていた。

 とある雑誌にはこうあった。

 3か月前、田宮玲央が誘拐された。 きっと、警察に言えば殺すぞと言われた田宮幸雄は、犯人と長期間にわたる交渉を行ってきていたのだろう。 そして、その最終交渉日が玲央の誕生日。 交渉が決裂したことに腹を立てた誘拐犯が田宮一家を殺した。

 ネット上では、なぜ犯人は玲央を再び連れ去る必要があるのか? と言う疑問は、彼方此方から出ており、玲央の写真が公開されれば、幼い男児が好きな犯人なのだろうと結論づけられ、玲央が黒幕等と言う話は無かった。

 今更この事件を無かった事にする事は出来ないのだ。



「きっとガキの頭の中では、夢物語が展開されているのだろう」

 煙草の煙を吐き、晃は醜く笑う。

 晃の笑い方が不快だと親良は思ったが、それを止めさせる言葉はどうしても声にならない……。 だが、晃を否定しない言葉なら出てくる違和感に、どこまでも親良は混乱していく。

「夢物語?」

「自分のような特別な人間が、特別として生きるための楽園がある。 そこでは、特別な自分であれば何をしても許されるとでも考えているんだろう。 何しろ……アレの父親は許されていた」

「なんて、馬鹿げた話ですか。 過去の罪があるからこそ、俺達はより常に多くの価値を求められると言うのに!! 誰がそんな事を!!」

「さぁ? 知らんよ。 それより、普段はこういう人間を、どう対処している?」

「いったん柑子市に所属した上でこのような犯罪を行った場合は……処分していますね。 柑子市が求めるのは、反社会的欲求を見せびらかすのではなく、そういう人間だと知られる事無い日常生活を送る事ができる。 ソレが最低限必要とされる素質ですから……」

「なら俺は、警察に任せる事を勧める」

「柑子市が特殊だと知らされているんですよ?」

「そんなものは子供の妄想だ」

 そう言い切った晃は、ただ笑うだけだった。
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