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9章

112.転じる 02

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 データベースにアクセスをかけ、電話をかける刑事達。

 騒々しく人が行きかう中で、親良は晃を抱え込み、自分の肩に顔を当てさせ、その表情を隠しながら頼んだ。

「気分が悪くなったらしい。 少し休ませて欲しいんだが……」

 そう言って通された場所が、取調室と言うのはどうなのだろうか? 親良は晃に対し

「顔が酷い事になっていますよ。 落ち着くまで机に突っ伏していてください」

そう言い残した親良は、飲み物を買うために自販機へと向かった。

「どうしたんだ?」

 問いかけて来たのは昨日2人を案内した木崎と言う男だった。

 日頃、親良は笑みを絶やさぬよう心がけているが、瞳を細め見下し、軽蔑と言うような感情を露わに向けていた。

 親良の態度に身に覚えのある木崎は、返事を返さないままで愛想笑いを浮かべる。 彼の何が親良の気分を害したかと言えば、昨日制服警官として2人の前に現れた木崎と浅間が、今日はスーツ姿で2人の前に居た事だ。

 怪しい余所者を迎えるにあたって、身分を偽り様子を見せていたと言う態度が気に入らないと親良は口元に笑みをたたえたまま、キツイ視線を向けていた。

「信頼できない相手に漏らせる情報等ありませんよ。 相方の体調が改善し次第俺達は帰らせていただきます。 何しろ俺達は、善意ある一般市民であり、警察機関に所属する者ではありませんからね」

「だがなぁ、国民には捜査に協力する義務がある」

「信頼関係を最初から結ぼうとはしない人間の何処を信用して、情報を提供できるわけがないでしょう……だから、貴方方は連続誘拐事件の被害者の誰からも情報を得る事が出来ないんですよ。 誘拐犯であったとしても家族関係を改善させている犯人の方が、信頼される訳ですよね」



「本当に、ごめんなさい!! だから僕は試すような事は止めて下さいって言ったんですよ!! いくら科学技術が進もうと、世の中、科学では検証できないものがあるんですから」

 警察が良く使う手段。
 飴と鞭? 押して引いて?

 自販機の前で飲み物を買おうとすれば、木崎が1000円札を入れた。 何種類かの飲み物を買い込み、どうもと親良は視線で語る。

 初歩的なやり方に親良はやはり冷ややかに笑い、そして表情を和ませた。 結局のところ不愉快なんで帰ります!! と、勝手に出来ないのが残念だ……と、親良は引き時とする事にした。

「晃のはアレは、単純に与えられた情報から分析した最も高い可能性を語っているだけですよ。 材料が足りなければ判断にズレが出てきます。 そうですね……例えば、連続誘拐事件……知っていると知らないでは、色々変わるのも仕方がありませんよね。 アナタ方の身勝手な感情で自体がどう動こうと、庶民である我々には関係ありません。 ですけど、警察職員が、多くの国民から反感を得ていると言う事実を理解された方がよろしいのではありませんか?」

 親良が嫌味っぽく攻め続ければ、流石に木崎も頭をかきながら困りはじめた。

「あ~、すまんかった……」

「アナタのように信頼できない人がいるから、晃は気分を悪くするんですよ。 うちの子はあぁ見えてとても繊細なんですから」

 ここまで行くと冗談である。
 笑って見せる親良に、木崎は苦笑いをしてもう一度謝罪をした。

「申し訳ない。 ところで、彼はどうしたんだ? 具合が悪いようだが?」

「体調ではありませんよ。 ですが、残念な事に彼が何に気づいたかは俺には分かりません。 物分かりの良い大人を、宥めてくるので少しだけ時間を頂けますか?」

「ぇ、あぁ……」

 そして一緒に入ってこようとした取調室の扉を閉め、テーブルの前に果汁系炭酸、スポーツ飲料、コーヒー、紅茶、水を並べる。

 晃が手の取ったのは炭酸で、

「珍しいですね」

「糖分が欲しい」

「なるほど、好きなだけ飲んでください!」

「いらねぇよ。 そんなに」

 顔を上げた時には、もう怒りは収まっている風を演じるぐらいには落ち着いたかと親良は苦笑いをする。

 いや、だって、目が全然怒ったままなんですよねぇ~。 と言うか……晃のこういう反応は見たことがないので、判断しかねると言うか……、親良は心の中で必死を並べ立てていた。

「それで……どうしたんですか?」

「あいつは、全部知った上で挑発し迎えを待っている。 あの家を見ている限り、玲央は知識欲旺盛で、頭の回転が速いだけの子供だった!! どこで、変わったんだ?!」

「変わったって……どういう事ですか?」

 家族を殺した。

「行動の意味が途中から変わったんだ」

「なぜ、そう思うんです」

「あいつは、自分を誘拐した人間を何らかの方法で処理している」

「すみません。 順序だてて言ってもらえますか?」

「なぜ、競馬ではなく競艇場なのか? 子供が少なく目立ちやすいからだ……。 そして、事件の前後に姿を見せている。 カメラに映るたびに、違った大人に抱っこされていた。 そのたびに彼はカメラへと視線を向けている」

 親良は無言だった。

 ノック音が響く。

 親良は晃へと視線を向ければ、晃はノックをした人間を招き入れた。

「どうぞ」

「悪いが聞かせてもらった」

「えぇ、今も……複数の人間が、コッチを見ているよな。 まぁ、それはいい」

「それでだ……玲央と言う子供は助けを求めていたんじゃないのか?」

「なら、これだけの大人にかかわっているんだ。 警察に連絡させればいい」

「誘拐犯が側にいたとか?」

 木崎が困惑したまま問えば、晃は吐きだすように笑った。

「誘拐犯……? 彼を保護している者は、確かにいますね。 事件前後2日間にわたる競艇場への来訪。 彼といる大人は常に変化している。 だが男が1人そいつだけが常に側にいる。 そいつが玲央を保護している」

「犯人ではなく、保護?」

 困惑した様子で、木崎は問いかけるのだった。
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