115 / 129
9章
111.転じる 01
しおりを挟む
時塔皎一の前の席に座る藤原法一。
2人は食事をしながら、静かに語りあう。
「晃の様子を、どう見ていますか?」
暗黙の了解のように、前置きがなく交わされる言葉。
皎一が言ったのは、柑子市と言う特殊な場に上手く溶け込めるかと言う事。
「そちらにも報告入っているでしょう」
「子供が、家族を殺す。 そんな状況を晃がどう受け止めるか心配でね」
「子供ほど意味もなく残酷であれる存在は無いと言うのに……、それに関わる人間が少ないなら、制御の効かない未熟な感情が親に向かうのも自然のもの。 ソレが例え殺意であっても……。 そもそも子供達にとって、親は全てであり、世界。 親子と言うものは最も多発的な殺人関係でもあるのではないでしょうか?」
「真っ当に育てたのでしょう。 彼の両親は」
「驚きです」
「今回、親良に晃を連れて行くように言った理由は?」
権限自体は親良にある。 だが、それを勧めたのは藤原だった。
「子供時代の自分を思い出すきっかけになればと思ったのですよ」
「余り乱暴な事をしないで下さい」
「これは、愛ですよ」
藤原の言葉に時塔皎一は肩を竦めた。
「君に愛された者は……苦労する」
健康的と言うべきだろうか? 晃と親良は朝も早い時間に目を覚まし、ランニングをし、シャワーを浴び、朝食に出向くところだった。
「もっと、ダラダラと寝ているタイプだと思っていた」
「失礼ですねぇ……。 一応、肉体労働担当なんで、訓練はかかしていませんよ。 戻ったら制圧訓練の相手でもしてください」
「遊びでなく、真面目にするなら」
「望むところです」
「それで、今日は……このまま帰るのか?」
「その予定でしたが、誰かさんが張り切ったせいで捜査協力が求められたんですよ」
そう親良は笑う。
「それは、なんか、悪かった?」
「いえ、色々と丁度いいです」
そう言えば晃は分かりやすく嫌そうな顔をした。
「安心してください。 晃が望む通りどんな形で終わりを迎えても玲央を保護する事は決定しました。 あの子は柑子市の子だと見られたんです」
「だが、丁度いいと言うことは……状況を操作しようと言う事だろう?」
「どうでしょうね。 俺だって全容が見えている訳ではありませんし、それに玲央がどういう結末を望むかも不明です」
招かれ、捜査本部に向かえば奇妙な表情を向けられた。 それも仕方がないと言うものだ、世間では柑子市の特殊性は一般化されていない。 そんな中で2人は紹介された。
「特殊犯罪の専門家として2人を招きました」
「オマエ等が、この一家惨殺事件の原因がこの家の娘、田宮千沙にあると言った奴等か?」
ボードに書かれた操作状況を見れば、晃が出した結果とは全く違うように見えるものが、そこに書かれていた。
「「連続誘拐事件?」」
晃と親良が声を合わせていう。
「ネットを通じて、子供が助けを求めるサイトがある」
「子供のSOS窓口相談とかではなく?」
「そうだ」
彼等が説明した内容はこうだ。
例えるならイジメや虐待には悪気が伴わないものもある。
『泣くのが可愛らしいから』
『オマエだって笑っていただろう』
『俺はあそんでやっていただけだ』
だが、それをされた側にとってはイジメだ。
逆に親として当たり前な言動、或いは社会的ルールに反する行動に対して、ソレはダメだ、間違っていると注意とする場合も、伝え方、受け止め方によっては、否定されたことで子供は親に愛されていないのだと悲観的になる事もある。
その場合、相談を受けたとしても子供が望むような対応はなされないのは当然と言えるだろう。 だが……子供達の間で1つの噂があった。 子供達のために大人に制裁を加えてくれる正義の味方がいるのだと……。
「救済者と名乗る者達は、金持ちの子供の悩みを聞き、寄り添い、そして親子関係の改善を持ちかける。 その際に要求するのは、社会的地位を脅かすほどの秘密だ。 子供達は自分達が提供した情報の価値を知らないんだがな。 だから、世間では連続性のある誘拐事件であるにも関わらず表に出ず、そしてそいつらは毎回大金と子供達による信頼を獲得している。 子供達にとっては、警察よりもよほど信頼できる大人な訳だ」
ようするに普段は誘拐を訴える大人も子供もいないため、逮捕に至らない相手だが、今回殺人事件にまで発展した事で追い詰める事ができると言う事らしい。
「あと、昨日、オマエ達が指紋鑑定を訴えて来た紙だが、田宮千沙の指紋が発見できた。 子供の悪戯だな。 兄弟を疎ましく思うこと等よくある事だ。 特に、こういう拗れた家庭ではな」
カラカイ、馬鹿にするような口ぶりにも、晃は気にせず頷き、そして言葉は続く。
「ですね。 それで、競艇場で彼等を見かけた情報を得たあとの捜査状況はどうなっているのですか? 顔の確認ぐらいはできているんですよね?」
「それが……」
彼等が確認した状況と言うのが、玲央が多くの大人達に抱っこされており、カメラでは誰が玲央を誘拐したのか分からないと言う状況だったらしく、晃は映像を見せて欲しいと願い出た。
「あぁ、なるほど……主犯は変わらないが、実行犯が常に変化しているタイプの連続誘拐事件なのか……。 なら、実行に携わった者達は模倣犯として捕まっているかもしれない」
そう晃は淡々と告げるが……明らかに怒っていた。
声に含まれる怒気を理解できない刑事たちは唖然として晃を見つめて停止するから、親良はニッコリ笑い告げるのだ。
「各地への問い合わせをお願いしますね」
そして親良はボソリと晃の側で囁いた。
「何が分かったのですか?」
2人は食事をしながら、静かに語りあう。
「晃の様子を、どう見ていますか?」
暗黙の了解のように、前置きがなく交わされる言葉。
皎一が言ったのは、柑子市と言う特殊な場に上手く溶け込めるかと言う事。
「そちらにも報告入っているでしょう」
「子供が、家族を殺す。 そんな状況を晃がどう受け止めるか心配でね」
「子供ほど意味もなく残酷であれる存在は無いと言うのに……、それに関わる人間が少ないなら、制御の効かない未熟な感情が親に向かうのも自然のもの。 ソレが例え殺意であっても……。 そもそも子供達にとって、親は全てであり、世界。 親子と言うものは最も多発的な殺人関係でもあるのではないでしょうか?」
「真っ当に育てたのでしょう。 彼の両親は」
「驚きです」
「今回、親良に晃を連れて行くように言った理由は?」
権限自体は親良にある。 だが、それを勧めたのは藤原だった。
「子供時代の自分を思い出すきっかけになればと思ったのですよ」
「余り乱暴な事をしないで下さい」
「これは、愛ですよ」
藤原の言葉に時塔皎一は肩を竦めた。
「君に愛された者は……苦労する」
健康的と言うべきだろうか? 晃と親良は朝も早い時間に目を覚まし、ランニングをし、シャワーを浴び、朝食に出向くところだった。
「もっと、ダラダラと寝ているタイプだと思っていた」
「失礼ですねぇ……。 一応、肉体労働担当なんで、訓練はかかしていませんよ。 戻ったら制圧訓練の相手でもしてください」
「遊びでなく、真面目にするなら」
「望むところです」
「それで、今日は……このまま帰るのか?」
「その予定でしたが、誰かさんが張り切ったせいで捜査協力が求められたんですよ」
そう親良は笑う。
「それは、なんか、悪かった?」
「いえ、色々と丁度いいです」
そう言えば晃は分かりやすく嫌そうな顔をした。
「安心してください。 晃が望む通りどんな形で終わりを迎えても玲央を保護する事は決定しました。 あの子は柑子市の子だと見られたんです」
「だが、丁度いいと言うことは……状況を操作しようと言う事だろう?」
「どうでしょうね。 俺だって全容が見えている訳ではありませんし、それに玲央がどういう結末を望むかも不明です」
招かれ、捜査本部に向かえば奇妙な表情を向けられた。 それも仕方がないと言うものだ、世間では柑子市の特殊性は一般化されていない。 そんな中で2人は紹介された。
「特殊犯罪の専門家として2人を招きました」
「オマエ等が、この一家惨殺事件の原因がこの家の娘、田宮千沙にあると言った奴等か?」
ボードに書かれた操作状況を見れば、晃が出した結果とは全く違うように見えるものが、そこに書かれていた。
「「連続誘拐事件?」」
晃と親良が声を合わせていう。
「ネットを通じて、子供が助けを求めるサイトがある」
「子供のSOS窓口相談とかではなく?」
「そうだ」
彼等が説明した内容はこうだ。
例えるならイジメや虐待には悪気が伴わないものもある。
『泣くのが可愛らしいから』
『オマエだって笑っていただろう』
『俺はあそんでやっていただけだ』
だが、それをされた側にとってはイジメだ。
逆に親として当たり前な言動、或いは社会的ルールに反する行動に対して、ソレはダメだ、間違っていると注意とする場合も、伝え方、受け止め方によっては、否定されたことで子供は親に愛されていないのだと悲観的になる事もある。
その場合、相談を受けたとしても子供が望むような対応はなされないのは当然と言えるだろう。 だが……子供達の間で1つの噂があった。 子供達のために大人に制裁を加えてくれる正義の味方がいるのだと……。
「救済者と名乗る者達は、金持ちの子供の悩みを聞き、寄り添い、そして親子関係の改善を持ちかける。 その際に要求するのは、社会的地位を脅かすほどの秘密だ。 子供達は自分達が提供した情報の価値を知らないんだがな。 だから、世間では連続性のある誘拐事件であるにも関わらず表に出ず、そしてそいつらは毎回大金と子供達による信頼を獲得している。 子供達にとっては、警察よりもよほど信頼できる大人な訳だ」
ようするに普段は誘拐を訴える大人も子供もいないため、逮捕に至らない相手だが、今回殺人事件にまで発展した事で追い詰める事ができると言う事らしい。
「あと、昨日、オマエ達が指紋鑑定を訴えて来た紙だが、田宮千沙の指紋が発見できた。 子供の悪戯だな。 兄弟を疎ましく思うこと等よくある事だ。 特に、こういう拗れた家庭ではな」
カラカイ、馬鹿にするような口ぶりにも、晃は気にせず頷き、そして言葉は続く。
「ですね。 それで、競艇場で彼等を見かけた情報を得たあとの捜査状況はどうなっているのですか? 顔の確認ぐらいはできているんですよね?」
「それが……」
彼等が確認した状況と言うのが、玲央が多くの大人達に抱っこされており、カメラでは誰が玲央を誘拐したのか分からないと言う状況だったらしく、晃は映像を見せて欲しいと願い出た。
「あぁ、なるほど……主犯は変わらないが、実行犯が常に変化しているタイプの連続誘拐事件なのか……。 なら、実行に携わった者達は模倣犯として捕まっているかもしれない」
そう晃は淡々と告げるが……明らかに怒っていた。
声に含まれる怒気を理解できない刑事たちは唖然として晃を見つめて停止するから、親良はニッコリ笑い告げるのだ。
「各地への問い合わせをお願いしますね」
そして親良はボソリと晃の側で囁いた。
「何が分かったのですか?」
0
お気に入りに追加
175
あなたにおすすめの小説
呪詛人形
斉木 京
ホラー
大学生のユウコは意中のタイチに近づくため、親友のミナに仲を取り持つように頼んだ。
だが皮肉にも、その事でタイチとミナは付き合う事になってしまう。
逆恨みしたユウコはインターネットのあるサイトで、贈った相手を確実に破滅させるという人形を偶然見つける。
ユウコは人形を購入し、ミナに送り付けるが・・・
#この『村』を探して下さい
案内人
ホラー
『この村を探して下さい』。これは、とある某匿名掲示板で見つけた書き込みです。全ては、ここから始まりました。
この物語は私の手によって脚色されています。読んでも発狂しません。
貴方は『■■■』の正体が見破れますか?
(いいね🧡 + リツイート🔁)× 1分しか生きられない呪い
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ホラー
――1日生き残る為に必要な数は1,440個。アナタは呪いから逃げ切れるか?
Twitterに潜むその『呪い』に罹った人間は、(いいね🧡 + リツイート🔁)× 1分までしか生きられない。
1日生き延びるのに必要ないいね🧡の数は、実に1,440個。
呪いに罹った※※高校2年4組の生徒たちが次々と悲惨な怪死を遂げていく中、主人公の少年・物部かるたは『呪い』から逃げ切れるのか?
承認欲求 = 生存欲求。いいね🧡の為なら何だってやる。
血迷った少年少女たちが繰り広げる、哀れで滑稽な悲劇をどうぞご覧あれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる