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9章

110.現場 06

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 どこまでが真実か?
 どこまでが希望か?

 晃と親良はお互いを探りあうように見つめあう。

 親良には晃がどうしたいか手に取るようにわかった。
 だが、晃が親良を理解する事は出来ない。

 いや……、出来ないはずだった……彼がただ居場所を守ろうとしている、それだけなのだと……敵意を持つ必要はないのだと今は分かる。

「玲央と言う子供はどうなるんだ?」

「玲央君は子供です。 ソレが全てでしょう」

 それもそうかと納得できた。



「何か、見つかったか?!」

 突然に外から声がかけられる。

 声をかけて来たのは、チビカラスの威嚇で気分を悪くしていた木崎の方。 だが、それだけではなく入口側には人が集まり、そして……制服警官が増やされていた。

 マスコミに事件が漏れた。

 なら……解決は早い方がいい。 事件が事件だ。 興味を持つなと言う方が難しい。 なら、早期解決に限ると言うもの。

 晃は親良から視線を外し、そして木崎へと向かった。

「聞きたい事……いや、頼みかな。 あるんだが」

「なんだ?」

 木崎からは怪しい2人組を排除しようとしていた様子は失われていた。

「さっき、ポストから見つけたコレの指紋を調べるように手配してくれないか? あと……死体の無かった玲央はどうしている?」

 A4の紙を晃は渡し、木崎が見れば声を上げた。

「オマエ!! こういうものは直ぐに渡せ!!」

「喧嘩腰にこられたんで反射的なものだ。 それと、壁にあるココとテーブルに同じ傷がある。 娘の足を傷つけ、身動きできなくした何かは調べているか?」

「死体の状態は極めて悪かった。 検視の結果は余り期待しない方がいいだろう。 で、そこにあったものが、娘の動きを奪ったのか? 素材が外から持ち込まれたものなら……購入経路から犯人が絞れると言うことだな」

「あぁ、そうだ……」

 そして……晃は話をした。
 玲央の存在が殺人現場に存在していた事を隠して。

 姉の弟に向けていた嫉妬。
 姉は弟を誘拐するよう依頼した。
 彼女の周囲の金銭的動きを調べるべきだろう。

 身の危険を感じた玲央は、犯人に金をもたらした。 投資……いや、競馬、競輪、競艇が妥当か……。 園児にしか見えない男の子に犯人は警戒する事はなかったのだろう。 そして犯人は、玲央が居れば永続的に金になると分かり……、その犯人を招き入れた姉の存在、両親を恋しがる玲央、その関係性を断ち切ろうとして犯罪に及んだ。

「亡くなった姉のパソコン、金の動き、あと殺害日前後に、田宮玲央をつれた夫婦が競馬、競輪、競艇場にいなかったかの捜査を勧める」

 木崎は無言となり、頭をかいた。

「姉が、弟を捨てようとした? なんだそれは」

「弟の部屋を見れば、彼が特殊な人間であった事は容易に想像が出来るだろう」

「いや、だが……姉が弟をか? 小さな? 田宮家には家政婦が出入りしていた……玲央は父方の親戚に預けられたと言われていたらしい」

 目の前の木崎の疑問に晃は安堵した。
 晃の価値は、まだ絶対的な多数派を占めていると。

「その親戚は?」

「いや……直ぐに調べてもらえるよう手配してます」

 木崎の態度が再度軟化した。





 その日、ホテルに戻った晃たちの元に夜遅く、競艇場で田宮玲央らしき人間が見られたと連絡が入った。

 晃の望む犯人……が、見つかるまで多くの時間はかからないだろう。

「どうしますか?」

 広いツインの部屋で、それぞれのベッドに腰を下ろしていた晃と親良。

「どうとは?」

「犯人が捕まる前に、接触し……玲央と話をしますか?」

 それは、甘い誘惑のようだった。

 1人の子供が、人として生きるか? 化け物として生きるか? 晃は……玲央と言う人間に自分を重ね、そして彼が人として生きる事を強く願っていた。

 晃は気づいていない。

 玲央が殺しを認めても、殺しの事実を隠しても、それを自分の意志で計画的に実行した時点で彼はもう化け物であると言う事を……。



 そして、多くの時間を必要することなく田宮玲央と、玲央を誘拐し、玲央の家族を殺した犯人は確保される事となる。



 その日、晃は眠りの先に雫と出会った。

 目覚めのような……ソレは、眠り。
 闇の中で横になっている自分の傍らには雫がいた。

「すまなかった……混乱をしていて」

『気にしていませんよ。 晃さんの混乱は当たり前のものですから』

 晃はそっと雫に手を伸ばした。
 触れれば泡沫のように消えてしまうのではと言う恐怖。

 そんな晃の気配に気づいた雫は、晃を見つめ不思議そうに見つめた。 晃は手を降ろす事も、触れる事も出来なくなり困った様子で尋ねるのだ。

「触れていいか?」

 そう問えば、雫は笑う。
 コロコロと鈴のなるような声で。

『今更、聞くのですか?』

「そりゃぁ……聞くだろう」

 そう言いながら、頬に触れ、髪に触れ、撫でる。
 柔らかな子猫のように甘えすり寄る熱に、心が穏やかになっていく。

 自分の価値観が少しずつ変化しているのを晃は理解していた。 晃が父親から教え込まれた人の定義からずれていく事への恐怖があった。

だが、雫と寄り添う事で、そんな悩みから解放された気分になり、晃はそのまま腕の中に雫を招き入れ抱き寄せる。

 触れ合う肌が偽りの服ごしに熱を確かめ合っていた。

「雫は……今回の件どう思う?」

『ソレは私には難しすぎます。 難しい事は、難しい事が大好きな人に任せればいいと思うの』

 そう語る雫の声は戸惑い、拗ねた様子で晃は腕の中に閉じ込めるように抱きしめる。

「そうか、そうだな。 それで、良いのかもしれない……」

 晃は久々にユックリと眠りについた。
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