113 / 129
9章
109.現場 05
しおりを挟む
「俺には晃の気持ちは理解しきれません。 ですが晃が玲央と言う少年を救いたいと思っている事は理解できます。 彼のために何か探してください」
「何か……だって?」
現実以外に何が見つかると言うんだ!! そう声を上げないのは、窓を開け放しているから。
「冷静になれば分かるでしょう。 玲央は8歳です。 見た目だけなら小学生にも見えない子供が、この日本でどうやって生きていけるでしょうか?」
ソレだけ言い残して、親良は部屋を去って行った。 親良の目的は殺人現場ではなく情報の回収なのだからソレは当然の行為であるのだろう。
そして晃は、外を向かって深呼吸をし、固く拳を握った。
「協力者……いや主犯を見つけなければ。 そう言えば……確認をしていなかった」
使われていないポストで回収した紙を思い出し、袖の中に隠した紙を引っ張り出す。 古く湿気によれよれになった紙は、一度は開かれ、そして閉じた痕跡があった。
【君が家族と思っている人間は、君を理解する事はない。 君は愛されていない。 なぜなら君は化け物だから……だから、君は私達共にいくしかない】
その文字が……言葉となり、柑子市に招かれた子供達の前に佇む大人を想像するが、だが……違う。
コレは柑子市の事を知らない人間だ。
玲央には父親を始め理解者がいた。 そして玲央は孤独だからこそ、それを一層理解していたんだ。 だから、この紙はポストへと戻された。
晃は玲央の部屋へと向かう。
学校へ行くのを止めたのは入学の1か月後、その後は家族……父親の勧めによって彼にあった教育がなされていた。 玲央の知能は普通の家族……母親や姉、同級生、教師には理解できない者だったろうが、父親が提示した教育には彼は満足していた。
同類……彼を理解し、彼に相応しい教師があてがわれたから。
玲央の部屋はその年齢を考えれば広い。 だが、その広さは決して玲央にとって意味の無いものではなかったのだろう。 部屋には通販サイトのロゴが印刷された段ボールが山積みにされていた。 中身は書籍だった。 漫画やライトノベルではなく学術書を中心としていた。 ソレは日本語だけにとどまらない……。
これを見た母親や姉はどう思っただろうか?
『欲しいと思ったものは好きなだけ買うといい』
7歳の息子に許可を与える父。
購入する本は、理解不能な本。
『もっと子供らしいものを買うのはどうかしら?』
部屋を見回せば様々なゲーム機種本体の空箱があった。
『玲央ばかりずるい』
姉はそう言って怒っただろう。
だが、ゲームの大半は姉の元へと言ったはずだ。 だが、姉は弟ばかりが好きに買い物を許されている。 父の特別である弟を嫌っていた。 姉にとって玲央は理解不能の化け物に見えた事だろう。
『これで、良いのだろうか?』
姉が向ける嫌悪に父親は悩んだはずだ……。
玲央に相応しい居場所を知っているから。
だが、母親は嫌がった。
見た目よりも小さく、そして……弱い玲央を守らなければと言う母性が働いたから。
そして……何より玲央はそんな母を愛していたから、彼に相応しい場所を勧められても断っていたはずだ。
視線をずらせばすぐに確認できる写真。 綺麗にたたまれた赤ん坊の頃からの服。 オムライスの旗。 誕生日のケーキに使われただろう蝋燭。 綺麗なままの人形。 玲央にとっての大切なものが分かる。 そして、母親はそんな彼を心から愛し。 父親はそんな彼を心から案じた。
玲央は……誘拐された。
父親は柑子市の者が犯人だと考え、警察に訴える事を止めさせた。 妻には親戚に預けたとでも言っていたのかもしれない。
弟が居なくなっても表面上変わる事無く生活をしていたのだから、姉はさぞ……満足した事だろう。 だが……玲央は帰ってきた。
そんな景色が、晃の脳内で流れ……そして、親良の声で正気を取り戻した。
「晃、何か分かったか?」
そう問いかける親良は何処か慌てているようだった。 そんな親良に晃は嫌味っぽく言うのだ。
「親良……田宮幸雄の情報は、何も見つからなかったんだな」
「どうしてそれを……」
「……玲央が、父親の名誉のために処分したんだ……」
「それは、どういう事です?」
親良は訝し気な顔を向ける。
「全て知っていた。 知っていたからこそ抹消したんだ。 良い父親だったことにしたかったから」
「なら、なぜ家族を殺す必要があったのですか!!」
「彼は……捨てられた。 いや……姉の仲介で誘拐された。 だが、玲央自身は捨てられたと思った。 だから生まれ変わろうとした。 彼の誕生日の日に儀式を行うため戻ってきたんだ」
「何を……」
「そう、生まれ変わるための儀式だ!! だが、彼を愛していた両親は、玲央がいてもいなくても豪華な料理で彼の生まれた日を祝い……そして彼の帰りを喜んだ。 変わらぬ母の愛、父の理解。 彼は全てが嫉妬にかられた姉が原因だったことを知ったが全て手遅れだった。 なぜなら、彼が手を汚さなくても……彼の両親は殺されたから。 玲央を誘拐……いや、売ったのは彼の姉だったから。 新しい玲央の家族は、玲央を手放す気は無く、玲央に続く道、取り戻そうとする者を完全に排除したかったから。 だから、彼等を殺す必要があったんだ」
そして……晃は安堵に息をついた。
これで、新しい犯人が……出来た……。
「何か……だって?」
現実以外に何が見つかると言うんだ!! そう声を上げないのは、窓を開け放しているから。
「冷静になれば分かるでしょう。 玲央は8歳です。 見た目だけなら小学生にも見えない子供が、この日本でどうやって生きていけるでしょうか?」
ソレだけ言い残して、親良は部屋を去って行った。 親良の目的は殺人現場ではなく情報の回収なのだからソレは当然の行為であるのだろう。
そして晃は、外を向かって深呼吸をし、固く拳を握った。
「協力者……いや主犯を見つけなければ。 そう言えば……確認をしていなかった」
使われていないポストで回収した紙を思い出し、袖の中に隠した紙を引っ張り出す。 古く湿気によれよれになった紙は、一度は開かれ、そして閉じた痕跡があった。
【君が家族と思っている人間は、君を理解する事はない。 君は愛されていない。 なぜなら君は化け物だから……だから、君は私達共にいくしかない】
その文字が……言葉となり、柑子市に招かれた子供達の前に佇む大人を想像するが、だが……違う。
コレは柑子市の事を知らない人間だ。
玲央には父親を始め理解者がいた。 そして玲央は孤独だからこそ、それを一層理解していたんだ。 だから、この紙はポストへと戻された。
晃は玲央の部屋へと向かう。
学校へ行くのを止めたのは入学の1か月後、その後は家族……父親の勧めによって彼にあった教育がなされていた。 玲央の知能は普通の家族……母親や姉、同級生、教師には理解できない者だったろうが、父親が提示した教育には彼は満足していた。
同類……彼を理解し、彼に相応しい教師があてがわれたから。
玲央の部屋はその年齢を考えれば広い。 だが、その広さは決して玲央にとって意味の無いものではなかったのだろう。 部屋には通販サイトのロゴが印刷された段ボールが山積みにされていた。 中身は書籍だった。 漫画やライトノベルではなく学術書を中心としていた。 ソレは日本語だけにとどまらない……。
これを見た母親や姉はどう思っただろうか?
『欲しいと思ったものは好きなだけ買うといい』
7歳の息子に許可を与える父。
購入する本は、理解不能な本。
『もっと子供らしいものを買うのはどうかしら?』
部屋を見回せば様々なゲーム機種本体の空箱があった。
『玲央ばかりずるい』
姉はそう言って怒っただろう。
だが、ゲームの大半は姉の元へと言ったはずだ。 だが、姉は弟ばかりが好きに買い物を許されている。 父の特別である弟を嫌っていた。 姉にとって玲央は理解不能の化け物に見えた事だろう。
『これで、良いのだろうか?』
姉が向ける嫌悪に父親は悩んだはずだ……。
玲央に相応しい居場所を知っているから。
だが、母親は嫌がった。
見た目よりも小さく、そして……弱い玲央を守らなければと言う母性が働いたから。
そして……何より玲央はそんな母を愛していたから、彼に相応しい場所を勧められても断っていたはずだ。
視線をずらせばすぐに確認できる写真。 綺麗にたたまれた赤ん坊の頃からの服。 オムライスの旗。 誕生日のケーキに使われただろう蝋燭。 綺麗なままの人形。 玲央にとっての大切なものが分かる。 そして、母親はそんな彼を心から愛し。 父親はそんな彼を心から案じた。
玲央は……誘拐された。
父親は柑子市の者が犯人だと考え、警察に訴える事を止めさせた。 妻には親戚に預けたとでも言っていたのかもしれない。
弟が居なくなっても表面上変わる事無く生活をしていたのだから、姉はさぞ……満足した事だろう。 だが……玲央は帰ってきた。
そんな景色が、晃の脳内で流れ……そして、親良の声で正気を取り戻した。
「晃、何か分かったか?」
そう問いかける親良は何処か慌てているようだった。 そんな親良に晃は嫌味っぽく言うのだ。
「親良……田宮幸雄の情報は、何も見つからなかったんだな」
「どうしてそれを……」
「……玲央が、父親の名誉のために処分したんだ……」
「それは、どういう事です?」
親良は訝し気な顔を向ける。
「全て知っていた。 知っていたからこそ抹消したんだ。 良い父親だったことにしたかったから」
「なら、なぜ家族を殺す必要があったのですか!!」
「彼は……捨てられた。 いや……姉の仲介で誘拐された。 だが、玲央自身は捨てられたと思った。 だから生まれ変わろうとした。 彼の誕生日の日に儀式を行うため戻ってきたんだ」
「何を……」
「そう、生まれ変わるための儀式だ!! だが、彼を愛していた両親は、玲央がいてもいなくても豪華な料理で彼の生まれた日を祝い……そして彼の帰りを喜んだ。 変わらぬ母の愛、父の理解。 彼は全てが嫉妬にかられた姉が原因だったことを知ったが全て手遅れだった。 なぜなら、彼が手を汚さなくても……彼の両親は殺されたから。 玲央を誘拐……いや、売ったのは彼の姉だったから。 新しい玲央の家族は、玲央を手放す気は無く、玲央に続く道、取り戻そうとする者を完全に排除したかったから。 だから、彼等を殺す必要があったんだ」
そして……晃は安堵に息をついた。
これで、新しい犯人が……出来た……。
0
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
不動の焔
桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。
「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。
しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。
今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。
過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。
高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。
千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。
本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない
──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ヤムヤムガール! 〜ブルーム・アカデミーの悪夢記録〜
中靍 水雲
ホラー
オレンジの月が笑うとき、赤い悪夢が目を覚ます——夢見士たちはバクに乗り、悪夢を喰らいに夜空を駆ける!
夢見士———それは、パートナーのバクとともに人々の夢を守る職業のこと。
月が笑う夜に、悪夢はその顔をあらわす。
それぞれ性格の違う、色とりどりのバク。
そのなかから、夢見士は1匹をパートナーに選ぶ。
夢見士たちとパートナーのバクとともに悪夢を駆け抜け、人々を守っていた。
六門ククルは見習い夢見士。
夢見士の専門学校であるブルーム・アカデミーに通いはじめた、〝気にしい〟の女の子。
すぐに「ヤム……ヤム……」というので、パートナーのバク・バベルにいつもツッコミをいれられている。
夢はりっぱな夢見士になること!
「ヤミー!」な悪夢を食べることが大好きなバベルとともに、勉強にテストに頑張るぞ!と、思っていた、そのやさき……
気にしいのククルに、クラスの強気な女子たちが目をつけてきて……?
悪夢×ホラーファンタジー×短編連作!
こわーい悪夢も、ククルとバベルがパクッと食べちゃう!
その悪夢、夢見士たちにおまかせあれ!
表紙イラスト:ノーコピーライトガール さま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる