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9章

109.現場 05

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「俺には晃の気持ちは理解しきれません。 ですが晃が玲央と言う少年を救いたいと思っている事は理解できます。 彼のために何か探してください」

「何か……だって?」

 現実以外に何が見つかると言うんだ!! そう声を上げないのは、窓を開け放しているから。

「冷静になれば分かるでしょう。 玲央は8歳です。 見た目だけなら小学生にも見えない子供が、この日本でどうやって生きていけるでしょうか?」

 ソレだけ言い残して、親良は部屋を去って行った。 親良の目的は殺人現場ではなく情報の回収なのだからソレは当然の行為であるのだろう。

 そして晃は、外を向かって深呼吸をし、固く拳を握った。

「協力者……いや主犯を見つけなければ。 そう言えば……確認をしていなかった」

 使われていないポストで回収した紙を思い出し、袖の中に隠した紙を引っ張り出す。 古く湿気によれよれになった紙は、一度は開かれ、そして閉じた痕跡があった。

【君が家族と思っている人間は、君を理解する事はない。 君は愛されていない。 なぜなら君は化け物だから……だから、君は私達共にいくしかない】

 その文字が……言葉となり、柑子市に招かれた子供達の前に佇む大人を想像するが、だが……違う。

 コレは柑子市の事を知らない人間だ。

 玲央には父親を始め理解者がいた。 そして玲央は孤独だからこそ、それを一層理解していたんだ。 だから、この紙はポストへと戻された。

 晃は玲央の部屋へと向かう。

 学校へ行くのを止めたのは入学の1か月後、その後は家族……父親の勧めによって彼にあった教育がなされていた。 玲央の知能は普通の家族……母親や姉、同級生、教師には理解できない者だったろうが、父親が提示した教育には彼は満足していた。

 同類……彼を理解し、彼に相応しい教師があてがわれたから。

 玲央の部屋はその年齢を考えれば広い。 だが、その広さは決して玲央にとって意味の無いものではなかったのだろう。 部屋には通販サイトのロゴが印刷された段ボールが山積みにされていた。 中身は書籍だった。 漫画やライトノベルではなく学術書を中心としていた。 ソレは日本語だけにとどまらない……。

 これを見た母親や姉はどう思っただろうか?

『欲しいと思ったものは好きなだけ買うといい』

 7歳の息子に許可を与える父。
 購入する本は、理解不能な本。

『もっと子供らしいものを買うのはどうかしら?』

 部屋を見回せば様々なゲーム機種本体の空箱があった。

『玲央ばかりずるい』

 姉はそう言って怒っただろう。

 だが、ゲームの大半は姉の元へと言ったはずだ。 だが、姉は弟ばかりが好きに買い物を許されている。 父の特別である弟を嫌っていた。 姉にとって玲央は理解不能の化け物に見えた事だろう。

『これで、良いのだろうか?』

 姉が向ける嫌悪に父親は悩んだはずだ……。
 玲央に相応しい居場所を知っているから。
 だが、母親は嫌がった。

 見た目よりも小さく、そして……弱い玲央を守らなければと言う母性が働いたから。

 そして……何より玲央はそんな母を愛していたから、彼に相応しい場所を勧められても断っていたはずだ。

 視線をずらせばすぐに確認できる写真。 綺麗にたたまれた赤ん坊の頃からの服。 オムライスの旗。 誕生日のケーキに使われただろう蝋燭。 綺麗なままの人形。 玲央にとっての大切なものが分かる。 そして、母親はそんな彼を心から愛し。 父親はそんな彼を心から案じた。

 玲央は……誘拐された。

 父親は柑子市の者が犯人だと考え、警察に訴える事を止めさせた。 妻には親戚に預けたとでも言っていたのかもしれない。

 弟が居なくなっても表面上変わる事無く生活をしていたのだから、姉はさぞ……満足した事だろう。 だが……玲央は帰ってきた。



 そんな景色が、晃の脳内で流れ……そして、親良の声で正気を取り戻した。



「晃、何か分かったか?」

 そう問いかける親良は何処か慌てているようだった。 そんな親良に晃は嫌味っぽく言うのだ。

「親良……田宮幸雄の情報は、何も見つからなかったんだな」

「どうしてそれを……」

「……玲央が、父親の名誉のために処分したんだ……」

「それは、どういう事です?」

 親良は訝し気な顔を向ける。

「全て知っていた。 知っていたからこそ抹消したんだ。 良い父親だったことにしたかったから」

「なら、なぜ家族を殺す必要があったのですか!!」

「彼は……捨てられた。 いや……姉の仲介で誘拐された。 だが、玲央自身は捨てられたと思った。 だから生まれ変わろうとした。 彼の誕生日の日に儀式を行うため戻ってきたんだ」

「何を……」

「そう、生まれ変わるための儀式だ!! だが、彼を愛していた両親は、玲央がいてもいなくても豪華な料理で彼の生まれた日を祝い……そして彼の帰りを喜んだ。 変わらぬ母の愛、父の理解。 彼は全てが嫉妬にかられた姉が原因だったことを知ったが全て手遅れだった。 なぜなら、彼が手を汚さなくても……彼の両親は殺されたから。 玲央を誘拐……いや、売ったのは彼の姉だったから。 新しい玲央の家族は、玲央を手放す気は無く、玲央に続く道、取り戻そうとする者を完全に排除したかったから。 だから、彼等を殺す必要があったんだ」

 そして……晃は安堵に息をついた。



 これで、新しい犯人が……出来た……。
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