111 / 129
9章
107.現場 03(理解への嫌悪)
しおりを挟む
「酷い匂いだな」
「暖房が、つけたままだったそうですよ……」
死後2週間ほど……。
だが、既に液状化するぐらいに死体は腐り、ウジが沸き、蠅が集っている写真が資料の中に存在していた。 死後2週間ほどと言われているのは、光熱費の利用変動からの推察。
死体発覚に至ったのは、宅配会社からの通報。
田宮家は、近隣住民との交流は少ない。
SNS等の配信は、今も変わらず続けられている。
通話は完全拒否。
メッセージは不愛想ながら返されていた。
姉も、父も、母にはそのような知人は居なかった。
そのメッセージは、今はもう動いていない。
GPSによる追跡を行った事がばれたせいだ。
「宅配会社からの通報があるまで、分からないなんてどんな生活をしていたのでしょうねぇ」
「父親の方は分かっているんだろう?」
晃は聞いたが親良からの返事はない。
晃は窓を開け放す。
「で、何を調べに来たんだ?」
晃の問いに親良は答えず、逆に質問で返した。
「犯人は誰だと思います?」
「親良はどう思う?」
再び晃の問いは無視され、晃は数分の沈黙の後、重い口を開いた。
「息子だな」
晃は視線を落とす。
わざわざココに来なくても与えられた資料だけで想像がついた。
そして……想像がついてしまう自分が……、気づくように変化した自分が……、晃は吐き気を覚えるほどに嫌だった。
長男玲央……。
晃は長男の部屋に訪れる。
晃が思うところの犯人だ。
玲央は、小学受験に合格し私立小学校へと入学。
そして翌月から不登校となった。
不登校となった後は、彼の父親であれば柑子市で配信しているネット教育を受けさせていたのではないか? そう想定され、移動の車の中でネット家庭教師を行う柑子市の企業に連絡を取った。
田宮玲央の記録は一切なかった。
だが、1人1人電話で問いかけ続けば、彼に勉強を教えた者が出て来た。 そして、田宮玲央の存在を隠蔽した者の存在も分かった。 ネット通信教育企業のNo3の男だ。 だが、彼にたどり着いても玲央が無罪である可能性へと繋がる材料は見当たらなかった。
『天才児だとバレれば、柑子市に奪われ普通の生活が出来なくなる。 だから息子の才能は隠しながら、その才能を伸ばしてやって欲しい』
そう父親に頼まれたらしい。
犯人は、彼等の8歳になる息子玲央。
様々なものを見て確認するたびに、それは確信へと変わっていく。
それでも往生際悪く晃は幼い子が犯人ではないと言う証拠を必死に探そうとする。
リビングに飾られた家族写真。
飛び散った血がこびりついていた。
両親は笑顔だが、子供達に笑顔はない。
日付は……丁度1年ほど前だろうか?
玲央と言う少年は、随分と小さく見えた。
晃はスマホを取り出し、小学1年生男児の平均身長を調べようとしていた。
「親良、玲央って何月生まれか覚えている?」
「6月だったはず」
「助かる」
7歳と9か月くらいか? 118.2センチ。
で7歳から8歳までは平均的に5.7センチほど伸びるある。
だが……。
「親良」
「なんでしょうか?」
「身長118センチってどれぐらいだ?」
家族写真を見ている限り、玲央は小さく年よりも幼く見える。
見えるからこそ……こんな小さな子が? 無理だろうと……思いたかった。
「父親が178センチ、母親が164センチ、姉が162センチ」
そう言いながら近寄ってきた親良は、一緒に写真を覗き込み、指で大まかにはかってみせた。
「100センチぐらいか?」
「ここにある情報だと、低身長に値するらしいな……。 ここから何センチ育ったかは分からないけど。 今でも小学生には見えないぐらいなのかもな……」
そう思えば、余計に息子が家族を殺したと思う自分が……非人情的な気持ち悪い生き物に思えて仕方がない。
それでも、晃は周囲を監察し続ける。
普通どんな事があれば8歳の子が両親を姉を殺すだろうか?
腐敗の進んだ身体と言うものは死後当時の状況をそのまま理解するのは難しい。
だが、車内で見た写真を現場に照らし合わせれば不可能ではない。
まず、玲央は母親を殺した。
腐敗はしているが皿の並び、料理の数、母親は彼を愛していたし、玲央もまた母親を愛していたのだろう。
だから、凄惨な様子を見せまいとしたのだろう。
確実に……、椅子の背もたれの間から、母親の心臓を狙い鉈で打ち付けた。
母親を殺し、逃げだした姉。
いや、父親が逃げろと叫んだのかもしれない。
姉は転んだ。
壁、床から10センチぐらいの場所にホチキスで開けられた穴が幾つもある。
姉は最初から逃げるのを想定し準備されていたのだろう。
壁にホチキスを打ち込み、糸? 針金? それとも別の何か? を張った。 転ばせれば痛みを感じ、或いは傷のせいで動けなくなる程度の罠。
姉はうつ伏せに転び、背後から玲央は細い首に凶器を振り落とした。
最後の標的は父親だ。
父親との体格差、体力差を考えれば、彼は息子からの殺意を封じる事が出来たはずだ……。 だが、父親はソレをしなかった。
息子の行動の責任を感じたからか?
いや、違う……。
息子は彼を責めたのだ。
過去の過ちを責め、裏切りものだと。
そして……今も彼が柑子市で孤児院で出資を行い……幼児性愛を続けている事を突き付けた。
『アナタは、誰も愛してなどいない』
脳裏で少年が……冷ややかに冷静にその事実を突きつける様を……晃は想像し……想像する自分に激しい……叫びたくなるほどの嫌悪を抱いた。
「暖房が、つけたままだったそうですよ……」
死後2週間ほど……。
だが、既に液状化するぐらいに死体は腐り、ウジが沸き、蠅が集っている写真が資料の中に存在していた。 死後2週間ほどと言われているのは、光熱費の利用変動からの推察。
死体発覚に至ったのは、宅配会社からの通報。
田宮家は、近隣住民との交流は少ない。
SNS等の配信は、今も変わらず続けられている。
通話は完全拒否。
メッセージは不愛想ながら返されていた。
姉も、父も、母にはそのような知人は居なかった。
そのメッセージは、今はもう動いていない。
GPSによる追跡を行った事がばれたせいだ。
「宅配会社からの通報があるまで、分からないなんてどんな生活をしていたのでしょうねぇ」
「父親の方は分かっているんだろう?」
晃は聞いたが親良からの返事はない。
晃は窓を開け放す。
「で、何を調べに来たんだ?」
晃の問いに親良は答えず、逆に質問で返した。
「犯人は誰だと思います?」
「親良はどう思う?」
再び晃の問いは無視され、晃は数分の沈黙の後、重い口を開いた。
「息子だな」
晃は視線を落とす。
わざわざココに来なくても与えられた資料だけで想像がついた。
そして……想像がついてしまう自分が……、気づくように変化した自分が……、晃は吐き気を覚えるほどに嫌だった。
長男玲央……。
晃は長男の部屋に訪れる。
晃が思うところの犯人だ。
玲央は、小学受験に合格し私立小学校へと入学。
そして翌月から不登校となった。
不登校となった後は、彼の父親であれば柑子市で配信しているネット教育を受けさせていたのではないか? そう想定され、移動の車の中でネット家庭教師を行う柑子市の企業に連絡を取った。
田宮玲央の記録は一切なかった。
だが、1人1人電話で問いかけ続けば、彼に勉強を教えた者が出て来た。 そして、田宮玲央の存在を隠蔽した者の存在も分かった。 ネット通信教育企業のNo3の男だ。 だが、彼にたどり着いても玲央が無罪である可能性へと繋がる材料は見当たらなかった。
『天才児だとバレれば、柑子市に奪われ普通の生活が出来なくなる。 だから息子の才能は隠しながら、その才能を伸ばしてやって欲しい』
そう父親に頼まれたらしい。
犯人は、彼等の8歳になる息子玲央。
様々なものを見て確認するたびに、それは確信へと変わっていく。
それでも往生際悪く晃は幼い子が犯人ではないと言う証拠を必死に探そうとする。
リビングに飾られた家族写真。
飛び散った血がこびりついていた。
両親は笑顔だが、子供達に笑顔はない。
日付は……丁度1年ほど前だろうか?
玲央と言う少年は、随分と小さく見えた。
晃はスマホを取り出し、小学1年生男児の平均身長を調べようとしていた。
「親良、玲央って何月生まれか覚えている?」
「6月だったはず」
「助かる」
7歳と9か月くらいか? 118.2センチ。
で7歳から8歳までは平均的に5.7センチほど伸びるある。
だが……。
「親良」
「なんでしょうか?」
「身長118センチってどれぐらいだ?」
家族写真を見ている限り、玲央は小さく年よりも幼く見える。
見えるからこそ……こんな小さな子が? 無理だろうと……思いたかった。
「父親が178センチ、母親が164センチ、姉が162センチ」
そう言いながら近寄ってきた親良は、一緒に写真を覗き込み、指で大まかにはかってみせた。
「100センチぐらいか?」
「ここにある情報だと、低身長に値するらしいな……。 ここから何センチ育ったかは分からないけど。 今でも小学生には見えないぐらいなのかもな……」
そう思えば、余計に息子が家族を殺したと思う自分が……非人情的な気持ち悪い生き物に思えて仕方がない。
それでも、晃は周囲を監察し続ける。
普通どんな事があれば8歳の子が両親を姉を殺すだろうか?
腐敗の進んだ身体と言うものは死後当時の状況をそのまま理解するのは難しい。
だが、車内で見た写真を現場に照らし合わせれば不可能ではない。
まず、玲央は母親を殺した。
腐敗はしているが皿の並び、料理の数、母親は彼を愛していたし、玲央もまた母親を愛していたのだろう。
だから、凄惨な様子を見せまいとしたのだろう。
確実に……、椅子の背もたれの間から、母親の心臓を狙い鉈で打ち付けた。
母親を殺し、逃げだした姉。
いや、父親が逃げろと叫んだのかもしれない。
姉は転んだ。
壁、床から10センチぐらいの場所にホチキスで開けられた穴が幾つもある。
姉は最初から逃げるのを想定し準備されていたのだろう。
壁にホチキスを打ち込み、糸? 針金? それとも別の何か? を張った。 転ばせれば痛みを感じ、或いは傷のせいで動けなくなる程度の罠。
姉はうつ伏せに転び、背後から玲央は細い首に凶器を振り落とした。
最後の標的は父親だ。
父親との体格差、体力差を考えれば、彼は息子からの殺意を封じる事が出来たはずだ……。 だが、父親はソレをしなかった。
息子の行動の責任を感じたからか?
いや、違う……。
息子は彼を責めたのだ。
過去の過ちを責め、裏切りものだと。
そして……今も彼が柑子市で孤児院で出資を行い……幼児性愛を続けている事を突き付けた。
『アナタは、誰も愛してなどいない』
脳裏で少年が……冷ややかに冷静にその事実を突きつける様を……晃は想像し……想像する自分に激しい……叫びたくなるほどの嫌悪を抱いた。
0
お気に入りに追加
175
あなたにおすすめの小説
呪詛人形
斉木 京
ホラー
大学生のユウコは意中のタイチに近づくため、親友のミナに仲を取り持つように頼んだ。
だが皮肉にも、その事でタイチとミナは付き合う事になってしまう。
逆恨みしたユウコはインターネットのあるサイトで、贈った相手を確実に破滅させるという人形を偶然見つける。
ユウコは人形を購入し、ミナに送り付けるが・・・
花の檻
蒼琉璃
ホラー
東京で連続して起きる、通称『連続種死殺人事件』は人々を恐怖のどん底に落としていた。
それが明るみになったのは、桜井鳴海の死が白昼堂々渋谷のスクランブル交差点で公開処刑されたからだ。
唯一の身内を、心身とも殺された高階葵(たかしなあおい)による、異能復讐物語。
刑事鬼頭と犯罪心理学者佐伯との攻防の末にある、葵の未来とは………。
Illustrator がんそん様 Suico様
※ホラーミステリー大賞作品。
※グロテスク・スプラッター要素あり。
※シリアス。
※ホラーミステリー。
※犯罪描写などがありますが、それらは悪として書いています。
#この『村』を探して下さい
案内人
ホラー
『この村を探して下さい』。これは、とある某匿名掲示板で見つけた書き込みです。全ては、ここから始まりました。
この物語は私の手によって脚色されています。読んでも発狂しません。
貴方は『■■■』の正体が見破れますか?
ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する
黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。
だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。
どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど??
ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に──
家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。
何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。
しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。
友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。
ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。
表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、
©2020黄札
(いいね🧡 + リツイート🔁)× 1分しか生きられない呪い
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ホラー
――1日生き残る為に必要な数は1,440個。アナタは呪いから逃げ切れるか?
Twitterに潜むその『呪い』に罹った人間は、(いいね🧡 + リツイート🔁)× 1分までしか生きられない。
1日生き延びるのに必要ないいね🧡の数は、実に1,440個。
呪いに罹った※※高校2年4組の生徒たちが次々と悲惨な怪死を遂げていく中、主人公の少年・物部かるたは『呪い』から逃げ切れるのか?
承認欲求 = 生存欲求。いいね🧡の為なら何だってやる。
血迷った少年少女たちが繰り広げる、哀れで滑稽な悲劇をどうぞご覧あれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる