上 下
109 / 129
9章

105.現場 01

しおりを挟む
 高速道路を走る事8時間。
 2人は運転を交代しながら目的地へと向かった。

 騒々しく車が行きかう通りに立つ大きなホテルにチェックインを済ませ、警察署へと向かいお偉いさんによるご機嫌取りに対応し……そして、ようやく現場へと向かう事になる。

「親良に機嫌をとってどうなるんだ?」

「家族が病にかかった時、病院を紹介してもらえるかもしれませんよ」

「……そうか……」

 馬鹿馬鹿しいと言いたかったが、両親が事故にあった時を思い出せば理解できてしまう。 むしろ今、車を運転している親良の方が言葉で言うほどに理解をしているとは思えなかった。

 彼は、親に捨てられている。

 やがて、青々とした木々が塀代わりをしている屋敷が見え始めた。 広い敷地には門があり今は通行禁止のテープと2人の制服警官が道を阻んでいる。

 柑子市よりも随分と春が早いようで新緑がよく茂っていた。 親良はそこを少し通りすぎ、古い赤く錆びた外装に覆われた工場跡地に車を止め、そして車を降りた2人は現場へと歩きだす。

 晃が薄地の使い捨てゴム手袋を嵌めれば、親良が興味深そうに見てきた。 当たり前の行為にそんな視線を向けられると言うのも奇妙なものだと晃は考える。

「アンタは?」

「うちはホラ、捜査の方向性が違うから」

「指紋をぺたぺた残せば、警察の邪魔になるだろう」

 呆れながら晃が予備の手袋を親良に渡す。

「平気、平気、普通の捜査は普通のおまわりさんがしますから」

「だから、その普通のおまわりさんに迷惑をかけるなと言ってる」

 ヘラリと笑って見せる親良に少しイラっとした。 ソレが表情に出ていたのだろう、親良が小さく溜息と苦笑を混ぜ込んだ表情から話し出した。

「俺らがわざわざ派遣されてきた理由は、田宮家の主人である男に隠さなければいけない秘密があるからですよ。 調べるのはそこに関連性があるかだけでいいんです」

「だからって現場を荒らすな」

 引かぬ晃に親良はハイハイとゴム手袋を嵌めた。

「折角、ボスが高い服を着せてくれたのに……カッコわるぅ~い」

 トホホと言わんばかりに呟くから、晃は諦め交じりの息を吐く。



 2人に視線を向けた制服警官の1人が駆け寄ってくる。

「特殊捜査のためにいらした方ですね!!」

 颯太と同じくらいの年齢だろうか? 妙にキラキラとした瞳で見つめてくる。 一体どんな話になっているのかと親良を見れば、

「えぇ、現場を拝見してもよろしいでしょうか?」

 愛想の良い笑みと、少しばかり恰好付けた声で応じていた。

 20代前半の制服警官の男は浅間。
 そして40代前半と思われる男は、木崎。
 その二人が案内をするらしい。

 歩きながら浅間は、既に社内で確認した説明を繰り返してきた。 それをあえて知らないふりをしながら親良は相槌を打ち、話を盛り上げた。

 刑事としての本質からは、外れている……と、晃は親良の言動に対して顔をしかめる。

 柑子市と言う特殊な場所を出た事で、常に困惑を強いられた意識が整うかのように思えていた。

 自己紹介代わりの挨拶を交わす中、晃は家を囲むように作られた木々の壁の中に手を突っ込んだ。

「何をしているんだ!!」

 通行止めテープが張られた鉄製の門から、木崎が勇んで歩いて来て、晃につかみかかろうとした。 その表情には明らかな怒気、苛立ち、不審が見て取れたのだが、近寄るほどに不安や怯えに変化していた。

 もし、俺が向こうの立場であれば、そう思えば彼の言動は仕方がないものだと、晃は片手をあげ、青々とした木々が塀代わりをしている中から手を引っこ抜き、手が届く距離に来た木崎の顔色の悪さに身体を支えるように手を差し出せば、逃げるように木崎が3歩下がった。

「大丈夫ですか?」

「ぇ、ぁ、いや……あぁ、そうだ、さっき何をしようとしていたんだ」

 虚ろな声色だった。

「ココに郵便受けがあったので気になっただけですよ」

 他の部分に比べれば、幹が若い木をかき分ければ、錆びたポストが出て来た。 そしてその奥には、以前はそこにあっただろう道が見える。

「勝手なこと……を、する……な……」

 木崎が突然に、しゃがみ込み吐き始めた。

「大丈夫ですか!!」

 驚く晃だが……その身体を支えようとすれば、木崎の状態が悪化していく。 ふと、見える自分の肩の黒く丸い物体の目が赤く爛々と光、怒りをあらわにしていた。

 お前か!! と、声に出して言う訳にもいかず、晃は心の中で必死に伝える。

 ステイ!!

 こんな苦労をするとは……。
 そして木崎と言う男もなかなか苦労しているように思え、一方的な親近感を抱く晃だった。

「ぇっと、先輩。 現場を汚すのはダメですよぉ~」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

401号室

ツヨシ
ホラー
その部屋は人が死ぬ

怨念板

コメディアンホラーニシヤマ
ホラー
怨念板それは死霊などが集まってできた動く板。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

追っかけ

山吹
ホラー
小説を書いてみよう!という流れになって友達にどんなジャンルにしたらいいか聞いたらホラーがいいと言われたので生まれた作品です。ご愛読ありがとうございました。先生の次回作にご期待ください。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

木の下闇(全9話・20,000字)

源公子
ホラー
神代から続く、ケヤキを御神木と仰ぐ大槻家の長男冬樹が死んだ。「樹の影に喰われた」と珠子の祖母で当主の栄は言う。影が人を喰うとは何なのか。取り残された妹の珠子は戸惑い恐れた……。

処理中です...