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9章
105.現場 01
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高速道路を走る事8時間。
2人は運転を交代しながら目的地へと向かった。
騒々しく車が行きかう通りに立つ大きなホテルにチェックインを済ませ、警察署へと向かいお偉いさんによるご機嫌取りに対応し……そして、ようやく現場へと向かう事になる。
「親良に機嫌をとってどうなるんだ?」
「家族が病にかかった時、病院を紹介してもらえるかもしれませんよ」
「……そうか……」
馬鹿馬鹿しいと言いたかったが、両親が事故にあった時を思い出せば理解できてしまう。 むしろ今、車を運転している親良の方が言葉で言うほどに理解をしているとは思えなかった。
彼は、親に捨てられている。
やがて、青々とした木々が塀代わりをしている屋敷が見え始めた。 広い敷地には門があり今は通行禁止のテープと2人の制服警官が道を阻んでいる。
柑子市よりも随分と春が早いようで新緑がよく茂っていた。 親良はそこを少し通りすぎ、古い赤く錆びた外装に覆われた工場跡地に車を止め、そして車を降りた2人は現場へと歩きだす。
晃が薄地の使い捨てゴム手袋を嵌めれば、親良が興味深そうに見てきた。 当たり前の行為にそんな視線を向けられると言うのも奇妙なものだと晃は考える。
「アンタは?」
「うちはホラ、捜査の方向性が違うから」
「指紋をぺたぺた残せば、警察の邪魔になるだろう」
呆れながら晃が予備の手袋を親良に渡す。
「平気、平気、普通の捜査は普通のおまわりさんがしますから」
「だから、その普通のおまわりさんに迷惑をかけるなと言ってる」
ヘラリと笑って見せる親良に少しイラっとした。 ソレが表情に出ていたのだろう、親良が小さく溜息と苦笑を混ぜ込んだ表情から話し出した。
「俺らがわざわざ派遣されてきた理由は、田宮家の主人である男に隠さなければいけない秘密があるからですよ。 調べるのはそこに関連性があるかだけでいいんです」
「だからって現場を荒らすな」
引かぬ晃に親良はハイハイとゴム手袋を嵌めた。
「折角、ボスが高い服を着せてくれたのに……カッコわるぅ~い」
トホホと言わんばかりに呟くから、晃は諦め交じりの息を吐く。
2人に視線を向けた制服警官の1人が駆け寄ってくる。
「特殊捜査のためにいらした方ですね!!」
颯太と同じくらいの年齢だろうか? 妙にキラキラとした瞳で見つめてくる。 一体どんな話になっているのかと親良を見れば、
「えぇ、現場を拝見してもよろしいでしょうか?」
愛想の良い笑みと、少しばかり恰好付けた声で応じていた。
20代前半の制服警官の男は浅間。
そして40代前半と思われる男は、木崎。
その二人が案内をするらしい。
歩きながら浅間は、既に社内で確認した説明を繰り返してきた。 それをあえて知らないふりをしながら親良は相槌を打ち、話を盛り上げた。
刑事としての本質からは、外れている……と、晃は親良の言動に対して顔をしかめる。
柑子市と言う特殊な場所を出た事で、常に困惑を強いられた意識が整うかのように思えていた。
自己紹介代わりの挨拶を交わす中、晃は家を囲むように作られた木々の壁の中に手を突っ込んだ。
「何をしているんだ!!」
通行止めテープが張られた鉄製の門から、木崎が勇んで歩いて来て、晃につかみかかろうとした。 その表情には明らかな怒気、苛立ち、不審が見て取れたのだが、近寄るほどに不安や怯えに変化していた。
もし、俺が向こうの立場であれば、そう思えば彼の言動は仕方がないものだと、晃は片手をあげ、青々とした木々が塀代わりをしている中から手を引っこ抜き、手が届く距離に来た木崎の顔色の悪さに身体を支えるように手を差し出せば、逃げるように木崎が3歩下がった。
「大丈夫ですか?」
「ぇ、ぁ、いや……あぁ、そうだ、さっき何をしようとしていたんだ」
虚ろな声色だった。
「ココに郵便受けがあったので気になっただけですよ」
他の部分に比べれば、幹が若い木をかき分ければ、錆びたポストが出て来た。 そしてその奥には、以前はそこにあっただろう道が見える。
「勝手なこと……を、する……な……」
木崎が突然に、しゃがみ込み吐き始めた。
「大丈夫ですか!!」
驚く晃だが……その身体を支えようとすれば、木崎の状態が悪化していく。 ふと、見える自分の肩の黒く丸い物体の目が赤く爛々と光、怒りをあらわにしていた。
お前か!! と、声に出して言う訳にもいかず、晃は心の中で必死に伝える。
ステイ!!
こんな苦労をするとは……。
そして木崎と言う男もなかなか苦労しているように思え、一方的な親近感を抱く晃だった。
「ぇっと、先輩。 現場を汚すのはダメですよぉ~」
2人は運転を交代しながら目的地へと向かった。
騒々しく車が行きかう通りに立つ大きなホテルにチェックインを済ませ、警察署へと向かいお偉いさんによるご機嫌取りに対応し……そして、ようやく現場へと向かう事になる。
「親良に機嫌をとってどうなるんだ?」
「家族が病にかかった時、病院を紹介してもらえるかもしれませんよ」
「……そうか……」
馬鹿馬鹿しいと言いたかったが、両親が事故にあった時を思い出せば理解できてしまう。 むしろ今、車を運転している親良の方が言葉で言うほどに理解をしているとは思えなかった。
彼は、親に捨てられている。
やがて、青々とした木々が塀代わりをしている屋敷が見え始めた。 広い敷地には門があり今は通行禁止のテープと2人の制服警官が道を阻んでいる。
柑子市よりも随分と春が早いようで新緑がよく茂っていた。 親良はそこを少し通りすぎ、古い赤く錆びた外装に覆われた工場跡地に車を止め、そして車を降りた2人は現場へと歩きだす。
晃が薄地の使い捨てゴム手袋を嵌めれば、親良が興味深そうに見てきた。 当たり前の行為にそんな視線を向けられると言うのも奇妙なものだと晃は考える。
「アンタは?」
「うちはホラ、捜査の方向性が違うから」
「指紋をぺたぺた残せば、警察の邪魔になるだろう」
呆れながら晃が予備の手袋を親良に渡す。
「平気、平気、普通の捜査は普通のおまわりさんがしますから」
「だから、その普通のおまわりさんに迷惑をかけるなと言ってる」
ヘラリと笑って見せる親良に少しイラっとした。 ソレが表情に出ていたのだろう、親良が小さく溜息と苦笑を混ぜ込んだ表情から話し出した。
「俺らがわざわざ派遣されてきた理由は、田宮家の主人である男に隠さなければいけない秘密があるからですよ。 調べるのはそこに関連性があるかだけでいいんです」
「だからって現場を荒らすな」
引かぬ晃に親良はハイハイとゴム手袋を嵌めた。
「折角、ボスが高い服を着せてくれたのに……カッコわるぅ~い」
トホホと言わんばかりに呟くから、晃は諦め交じりの息を吐く。
2人に視線を向けた制服警官の1人が駆け寄ってくる。
「特殊捜査のためにいらした方ですね!!」
颯太と同じくらいの年齢だろうか? 妙にキラキラとした瞳で見つめてくる。 一体どんな話になっているのかと親良を見れば、
「えぇ、現場を拝見してもよろしいでしょうか?」
愛想の良い笑みと、少しばかり恰好付けた声で応じていた。
20代前半の制服警官の男は浅間。
そして40代前半と思われる男は、木崎。
その二人が案内をするらしい。
歩きながら浅間は、既に社内で確認した説明を繰り返してきた。 それをあえて知らないふりをしながら親良は相槌を打ち、話を盛り上げた。
刑事としての本質からは、外れている……と、晃は親良の言動に対して顔をしかめる。
柑子市と言う特殊な場所を出た事で、常に困惑を強いられた意識が整うかのように思えていた。
自己紹介代わりの挨拶を交わす中、晃は家を囲むように作られた木々の壁の中に手を突っ込んだ。
「何をしているんだ!!」
通行止めテープが張られた鉄製の門から、木崎が勇んで歩いて来て、晃につかみかかろうとした。 その表情には明らかな怒気、苛立ち、不審が見て取れたのだが、近寄るほどに不安や怯えに変化していた。
もし、俺が向こうの立場であれば、そう思えば彼の言動は仕方がないものだと、晃は片手をあげ、青々とした木々が塀代わりをしている中から手を引っこ抜き、手が届く距離に来た木崎の顔色の悪さに身体を支えるように手を差し出せば、逃げるように木崎が3歩下がった。
「大丈夫ですか?」
「ぇ、ぁ、いや……あぁ、そうだ、さっき何をしようとしていたんだ」
虚ろな声色だった。
「ココに郵便受けがあったので気になっただけですよ」
他の部分に比べれば、幹が若い木をかき分ければ、錆びたポストが出て来た。 そしてその奥には、以前はそこにあっただろう道が見える。
「勝手なこと……を、する……な……」
木崎が突然に、しゃがみ込み吐き始めた。
「大丈夫ですか!!」
驚く晃だが……その身体を支えようとすれば、木崎の状態が悪化していく。 ふと、見える自分の肩の黒く丸い物体の目が赤く爛々と光、怒りをあらわにしていた。
お前か!! と、声に出して言う訳にもいかず、晃は心の中で必死に伝える。
ステイ!!
こんな苦労をするとは……。
そして木崎と言う男もなかなか苦労しているように思え、一方的な親近感を抱く晃だった。
「ぇっと、先輩。 現場を汚すのはダメですよぉ~」
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