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8章
87.彼女の駆け引き 02
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勝利を確信しているかのように茨田杉子は微笑んでいた。
「造形殺人事件、それとも……高校生集団自殺? あぁ、両方ですか……情報を職員から奪うだけでなく、現地への侵入……問題となりますよ」
「私は、鞍馬晃の指導員なの。 彼を導くためには彼の事を知る必要がある。 むしろ与えるべき情報を与えない方が問題だと、私は思っているのだけど?」
「情報獲得のためのルールに反している」
長い時間、沈黙が続いた。
杉子は、藤原法一が催眠術を使う事で、犯人殺害の現場にいた人間の……いや、鞍馬晃と言う外部の人間が、最高機密にあたる児珠雫の血肉を食べた記憶を消していた。 それは、報告義務の逸脱。 鞍馬晃と言う稀少個体の隠蔽に繋がる行為、ソレは違法であると……遠回しに脅迫していた。
違法に対する脅迫。
まさか、脅迫が返される等と、杉子は考えていなかった。
「そうやって何時だって、都合の悪い除法は隠蔽してきたのね。 本来なら晃を預かる際に、私に知らせるべき報告だったはず。 それを、隠蔽した貴方方に問題があるからでしょう」
「最初から、存在しない事件をどう隠す?」
杉子自身と、藤原の罪を必死に秤にかける。
知る事が禁じられている情報を、違法に掘り下げた。 禁じられた情報。 これにはランクがあり、警備部と言う団体が行っているなら、杉子にもチャンスはある。 だが、造形殺人、高校生集団自殺、いずれも岬加奈子が介入する事で幹部会が行う最高レベルの規制扱いとされている。
知る事を深堀りした。
ソレを知られれば調査員から犯罪者へと転落確実だった。
何が問題だったのか?
何が間違っていたのか?
杉子は理解しないまま、怪訝な表情で藤原の横に腰を下ろした。
「……ですよね……。 申し訳ない事をしました」
入れたコーヒーを手に藤原はソファに腰を下ろし、正面ではなく横に座るようにと指示をだす。 無言のまま杉子は指示に従った。
「勘違いをしているようなので言わせて頂きますが、私が警備部で行った処理は、精神科医として適切な治療ですよ」
藤原は笑った。
「君は随分と愚かな女のようだ」
見下し、蔑み。 格下への侮蔑の視線。
「ぇ……ぁ……」
杉子は戸惑った。
微笑みと共に優位性を確信していた杉子とは違う。 どこまでも杉子と言う存在を馬鹿にし嘲笑い、同じ土俵に上げるつもりもない……そんな笑み。
ただ、隣り合い、見つめあっているだけなのに……首を絞められているかのような息苦しさがあった。
「ぁ……」
杉子は眉間を寄せる。
不快だった……苦しかった、思考が制止する。
「な、なんなのよ!! 私に何をしたのよ!!」
「まだ、何も……。 さて、どうするべきでしょうね?」
藤原は笑う。
藤原は杉子に触れない。
杉子の持つ力は通じない。
焦りがあった。
杉子の力を世間は魅了と考えている。 だが、実際にはそんな単純で便利な力ではない。 彼女は、第一印象で彼女に好感を抱く異性に対して、効率的に好意を引き出す。 それが、彼女の特技であり……彼女が故郷で問題となっていたのは、その特技をどう利用するかと言う彼女の精神性によるもの。
だから、最初から杉子に興味を持たない藤原に効果はない。 そして……精神性に異常を持ち柑子市に集められた者達にも効果は薄い。 杉子は柑子市において危険性の薄い無力な人間だった。
彼女の兄が、彼女のために作り出した補助薬が無ければ……。 そして、彼女の兄は殺され、補助薬が新しく作られる事は無いのだ。
「どうって……一体、何をするつもりな訳……」
「アナタはアナタの間違いを認めてくれればいい。 決して難しくはありませんよね?」
「私が禁じられた情報を集め、現地に赴いたとしても……、私はちゃんと警備部の者の許可を得て案内まで受けている。 私を喜ばせようとした男の罪がどうして私の罪になると言うの? それに……晃の殺人容疑が覆される事はないわ。 彼を、返して頂戴」
杉子は、冷静を装おうと……表情を引きずらせながらも、自分の言い分を藤原法一に通した。
「晃が犯人であると言う証拠を提出してください。 で、なければ……彼を渡す訳にはいきません」
「彼との会話は!!」
「話しに、なりませんね……。 お帰り頂こう」
藤原は冷ややかに言い切り、茨田杉子を追い出した。
「造形殺人事件、それとも……高校生集団自殺? あぁ、両方ですか……情報を職員から奪うだけでなく、現地への侵入……問題となりますよ」
「私は、鞍馬晃の指導員なの。 彼を導くためには彼の事を知る必要がある。 むしろ与えるべき情報を与えない方が問題だと、私は思っているのだけど?」
「情報獲得のためのルールに反している」
長い時間、沈黙が続いた。
杉子は、藤原法一が催眠術を使う事で、犯人殺害の現場にいた人間の……いや、鞍馬晃と言う外部の人間が、最高機密にあたる児珠雫の血肉を食べた記憶を消していた。 それは、報告義務の逸脱。 鞍馬晃と言う稀少個体の隠蔽に繋がる行為、ソレは違法であると……遠回しに脅迫していた。
違法に対する脅迫。
まさか、脅迫が返される等と、杉子は考えていなかった。
「そうやって何時だって、都合の悪い除法は隠蔽してきたのね。 本来なら晃を預かる際に、私に知らせるべき報告だったはず。 それを、隠蔽した貴方方に問題があるからでしょう」
「最初から、存在しない事件をどう隠す?」
杉子自身と、藤原の罪を必死に秤にかける。
知る事が禁じられている情報を、違法に掘り下げた。 禁じられた情報。 これにはランクがあり、警備部と言う団体が行っているなら、杉子にもチャンスはある。 だが、造形殺人、高校生集団自殺、いずれも岬加奈子が介入する事で幹部会が行う最高レベルの規制扱いとされている。
知る事を深堀りした。
ソレを知られれば調査員から犯罪者へと転落確実だった。
何が問題だったのか?
何が間違っていたのか?
杉子は理解しないまま、怪訝な表情で藤原の横に腰を下ろした。
「……ですよね……。 申し訳ない事をしました」
入れたコーヒーを手に藤原はソファに腰を下ろし、正面ではなく横に座るようにと指示をだす。 無言のまま杉子は指示に従った。
「勘違いをしているようなので言わせて頂きますが、私が警備部で行った処理は、精神科医として適切な治療ですよ」
藤原は笑った。
「君は随分と愚かな女のようだ」
見下し、蔑み。 格下への侮蔑の視線。
「ぇ……ぁ……」
杉子は戸惑った。
微笑みと共に優位性を確信していた杉子とは違う。 どこまでも杉子と言う存在を馬鹿にし嘲笑い、同じ土俵に上げるつもりもない……そんな笑み。
ただ、隣り合い、見つめあっているだけなのに……首を絞められているかのような息苦しさがあった。
「ぁ……」
杉子は眉間を寄せる。
不快だった……苦しかった、思考が制止する。
「な、なんなのよ!! 私に何をしたのよ!!」
「まだ、何も……。 さて、どうするべきでしょうね?」
藤原は笑う。
藤原は杉子に触れない。
杉子の持つ力は通じない。
焦りがあった。
杉子の力を世間は魅了と考えている。 だが、実際にはそんな単純で便利な力ではない。 彼女は、第一印象で彼女に好感を抱く異性に対して、効率的に好意を引き出す。 それが、彼女の特技であり……彼女が故郷で問題となっていたのは、その特技をどう利用するかと言う彼女の精神性によるもの。
だから、最初から杉子に興味を持たない藤原に効果はない。 そして……精神性に異常を持ち柑子市に集められた者達にも効果は薄い。 杉子は柑子市において危険性の薄い無力な人間だった。
彼女の兄が、彼女のために作り出した補助薬が無ければ……。 そして、彼女の兄は殺され、補助薬が新しく作られる事は無いのだ。
「どうって……一体、何をするつもりな訳……」
「アナタはアナタの間違いを認めてくれればいい。 決して難しくはありませんよね?」
「私が禁じられた情報を集め、現地に赴いたとしても……、私はちゃんと警備部の者の許可を得て案内まで受けている。 私を喜ばせようとした男の罪がどうして私の罪になると言うの? それに……晃の殺人容疑が覆される事はないわ。 彼を、返して頂戴」
杉子は、冷静を装おうと……表情を引きずらせながらも、自分の言い分を藤原法一に通した。
「晃が犯人であると言う証拠を提出してください。 で、なければ……彼を渡す訳にはいきません」
「彼との会話は!!」
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