【R18】彼等の愛は狂気を纏っている

迷い人

文字の大きさ
上 下
90 / 129
8章

86.彼女の駆け引き 01

しおりを挟む
 記憶にない記憶。

 思い出した記憶にない記憶を俺は話した。

「その水は、君に何をもたらした?」

 藤原は穏やかな声で聴いてくる。

 俺は目を閉ざし、刑務所にいた時の俺から、定着している俺だろうルールや行動パターンを引いて行った。 そうすれば、自分らしくないものが残るからだ。

「警戒心が排除された」

 弱った野生動物は身を隠す。 見つかればソレは死に繋がるからだ。 流石に人間社会で獣の習性は適応できるものではない。 ケガも病気も専門家に相談するべきだ……だが、茨田杉子を信頼するのは訳が違う。

 そして……刑務所にいるにも関わらず、内部の人間への警戒はなく、面会に訪れる者達にむけての警戒心ばかりが高まっていた。

「無意識化での行動。 奇妙な一体感。 無意味な依存心。 絶対的な信頼。 感情の激化。 衝動的な行動。 無責任な発言。 ソレ等の変化は、体調不良、巻き込まれた事件に対する心理的ストレスだと言われれば、納得できる範囲……と俺は考えていた」

 溜息と共に晃は言う。

「彼女は、何故、そんな事をした? 晃を、手に入れたいから? それとも憐れんだから?」

「はたから見れば、寄り添っている、気遣っている。 そう見えるだろうが、与えられるものは、そんな感傷的なものじゃない。 もっと……現実的なものだ。 そうでなければ、人を殺す等しない」

「今、どんな状態だ。 彼女の影響は? 彼女とは繋がっているのか?」

「いいや、刑務所の外に出た時点で、彼女とは切れた。 もともと、雫の力が影響しているから、彼女の影響力は低い」

「ふむ……彼女は、警備部の人間にも影響力を与えているかもしれない」

 藤原は親良へと視線を向けた。

「えぇ、彼女には目的がある。 なら、手駒を所有していてもオカシイ事ではありませんね。 先生、見てもらえますか?」

「私が見るよりも、晃が見る方がいいだろう。 今なら、本能的に敵として見つけ出す事ができるだろうからね」

「かいかぶりすぎですよ……」





 警備部内に茨田杉子の自称恋人が2人発見する事が出来た。

 過剰ストレスによる催眠により、晃が雫の血肉を食べた記憶を消してはあるが、元々、人が認識する記憶以外を読み取る茨田杉子にとっては意味の無い事であり、茨田杉子は造形殺人の内容を現場にいた者以上の知識を得ていた事になる。





「茨田君、よく来てくれた。 私の方から出向けば良かったのですが、これでも忙しい身でしてね」

「いえ、お気になさらず」

 晃への精神鑑定書が間違っていると語った茨田杉子は、晃に出した鑑定結果を取り消し、刑務所に戻すよう藤原法一助教授の元に訪れた。

「ソファの方にどうぞ」

「私、別に先生の決断に不満がある訳ではないの」

 茨田杉子は席に座る事なく、お茶を入れる藤原の背後に立っていた。 その距離はとても近く、手を伸ばせば触れる事が出来るほどだ。

「では、なぜ?」

 藤原は多くを語ろうとはせず、ただ……茨田杉子に語らせる。

「ただ、私は少しその……几帳面なところがある事は、先生もご存じでしょう?」

「あぁ、そうだね。 何か、気になるところでもあるのかな?」

「今回の件に関しては、私の言い分が正しいと、他の先生にも話を聞いてもらう約束をしているんです。 先生はあの鞍馬晃と言う男に随分と、肩入れしている。 そんな噂を聞いていますから」

 そう言って、茨田杉子はそっと手を伸ばし、藤原の手を取った。

「私、知っているんですよ。 先生の秘密を」

 藤原の右手を両手で包み込むように触れ、祈りを捧げるように瞳を閉じ、上目遣いにみつめた。 その瞳は告げている。

 他の先生にばらされてもいいの?

「他の精神鑑定医の意見も、あれば安心できるでしょうね。 中には茨田君に寄り添ってくれる医師もいるかもしれません」

 少しばかり挑発的な声で藤原は語れば、茨田は揺らぎを見せる。

「私としては、藤原助教授が私の中で最高の先生であって欲しい。 そう思っているのですけど……私達はとても良い関係を結べると思いません?」

 向けられる笑みは穏やかで、包み込むかのような優しさがあった。

「人に心を開く事はとても難しい事、だけど、私達ならソレが出来ると思うの」

「晃が、なぜ危険だと? 彼には危険となる要素はない。 むしろ正義感に強い人間だ」

「彼は、柑子市には馴染めない……私はそう判断したんです。 この町に住む者は、幼い頃から自分を受け入れてくれる場を欲している。 そして、もう2度と、居場所を失いたくはないと言う恐怖を抱き……決意し、ルールに従う。 彼は、外の人間です。 ここの人間を外のルールで陥れる可能性がある。 私は柑子市のためを思って、彼が自由になるべきではないと判断したんです。 先生が私に賛同いただけるなら、他の先生への相談は控えようと思っているんですよ」

 茨田杉子は微笑んだ。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

Dark Night Princess

べるんご
ホラー
古より、闇の隣人は常に在る かつての神話、現代の都市伝説、彼らは時に人々へ牙をむき、時には人々によって滅ぶ 突如現れた怪異、鬼によって瀕死の重傷を負わされた少女は、ふらりと現れた美しい吸血鬼によって救われた末に、治癒不能な傷の苦しみから解放され、同じ吸血鬼として蘇生する ヒトであったころの繋がりを全て失い、怪異の世界で生きることとなった少女は、その未知の世界に何を見るのか 現代を舞台に繰り広げられる、吸血鬼や人狼を始めとする、古今東西様々な怪異と人間の恐ろしく、血生臭くも美しい物語 ホラー大賞エントリー作品です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ラヴィ

山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。 現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。 そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。 捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。 「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」 マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。 そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。 だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。

処理中です...