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8章

83.危険な存在 04

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 晃の質問に藤原は淡々と答える。

「安心してください。 私達は最初からアナタを疑ってはいないと言っているのですから」

「そりゃ、どうも……。 ところで、聞きたいんだが……。 貯水槽に死体が入れられていたって、腐敗した液が流れ込んでいる水を日常的に飲まされていたって事か?」

 うんざりしたような声で問われた晃の質問に、親良は苦笑いで返す。

「いえ、ソレは安心してください。 その貯水槽がある建物は、20年ほど前に破棄されていた建物。 人も近づきませんから、遺体を隠すのに都合が良かったのでしょう。 なので雫ちゃんの例とは根本的に違うと考えて良いのではないでしょうか?」

「どうして、人が消えた時点で何故が騒ぎにならなかった?」

「もともと、身元保証人さえつけば即出所です。 それでも、再犯を防ぐために安定した環境の提供、更生のための協力が出来る保証人は絶対不可欠。 なので身元保証人を持てる事への嫉妬等、過去にトラブルがあった事もあり、出所時は慌ただしく今までお世話になった人への接触も禁止されています」

「親良が言ったのはあくまでも表面上理由。 実際には、人体実験用の素材として連れだす者もいるため、あえて曖昧にしている部分もあるんですよ」

「……なるほど……」

 藤原の言葉に晃は視線を伏せ項垂れた。

 何時、何を切っ掛けに、俺は人生の転落を招くような状況に踏み入ってしまったのだろうか?

「どうかしましたか?」

 案じるような藤原の声に、晃は何かを割り切ったように首を横に振りたずねた。

「今回の件と関係あるかわかりませんが、気になる事が幾つかあるんですが」

「何かね?」

「昨日、岬加奈子と病院で会い。 多分、今回の事を予言しただろう絵を貰った」

「おや、良かったですね。 視力を失ってからの作品はほぼ表に出てはいませんが、きっと高く売れますよ」

 のんきそうな藤原に、違うだろうと一声言って。 昨日着ていた上着のポケットから絵を取り出した。 ソレはメモ帳サイズの絵で、最初から晃に渡す事を前提に書いたようにしか思えないものだ。

「この絵は?」

「水だそうだ」

「人が溶け混ざる様子でしょうか?」

「晃は、予言は後々に起こった状況をあてはめていると考える人でしたよね」

「あぁ、だが……自分の身に起こった事が先に示されれば、予言なんだと思わずにいられなくなるから不思議だよな。 で、気になる事がある。 茨田杉子だが俺に一つの駆け引きを持ちかけて来た。 造形殺人者の被害者に茨田杉子の恋人がいるから、身体を取り戻すよう幹部に交渉を持ちかけて欲しいと言う内容だ」

「無茶を言う。 晃に交渉を行う価値なんてありませんよ!!」

「手札の全てを晒せば、そうでも無いでしょう」

「晃、少し検査をしましょうか?」

「それは……先生がするのか?」

「今回は病気の検査ではないのですから、安全保障機構でする方が良いでしょうね」

「ですね、雫ちゃんの影響が出ている可能性が高いなら、秘密裡に検査を行う方が良いでしょうから」

「不死性の影響を図るのか?」

「いえ、私が気になるのは、どうして晃がそこまで彼女に心酔したかです。 もともと、彼女は庇護欲を誘いやすいタイプとされていますが、単純にタイプを問われたなら?」

「依存させ、依存する。 共依存に嵌りそうで苦手だと思うだろうな……。 だが、実際には、俺は彼女が俺を支えてくれた。 俺にとって彼女が全てなのだから、俺が彼女の願いを叶えるのは当然だ。 と思っていた……」

 実際、それが錯覚だった事をカラスにたしなめられ理解したと言うのは、なんとも情けない話である。 晃は慌てて話を戻そうとする。

「そんな事より!!」

「いえ、そんな事で済むかどうかを一度調べたいのですよ。 好意と言う暗示を得るために、何らかの薬の使用が確認できるかどうか……。 ソレは私の職務としても重要な事です。 協力をお願いします」

「ぇ、あ、あぁ……そういう事か、分かった」

 僅かな間を持って、親良は晃に聞いた。

「それで、晃は何を気にしているのですか?」

「あ、あぁ、茨田杉子の亡くなった彼氏だが、水を記録媒体とする研究をしていたらしい。 今回、水と言うキーワードが多すぎる。 岬加奈子の件もあるから、重点的に調べて行った方が良いだろうと思ったんだ」

「なるほど、茨田君の付き合っていた相手ですか……」

 藤原がいい、そして親良が晃に聞く」

「名前は聞いていないのですか?」

「いや、聞いていない」

「え~~。 万が一に死体を茨田杉子に戻す事に同意を得たとしたら、名前も分からずにどうするつもりだったんでしょう?」

「現実可能な段階まで待つつもりだったとか?」

「そうなのかもしれませんね。 あの造形殺人事件の被害者の中には、茨田君が養女となった茨田家の兄が居ます。 そして、彼女の兄は水関連の研究をしていたはずです」

 藤原は静かに告げた。
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