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8章

81.危険な存在 02

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 2人の会話に藤原は声に出して笑った。

「失礼な人達ですね。 さて、講義に戻りますか?」

 藤原の言葉に晃は肩を竦め、親良は苦笑し、そして頷いた。

「あぁ」
「はい」

「晃が恐れているのは、人の肉を食べたと言う1点でしょう。 晃だって、本当は分かっていますよね? アナタが犯人を殺した事は、アナタの精神を歪めるものではなかったと。 ただ、周囲の反応を考えアナタは恐れている。 それは……居場所を失うと言う事……だと、私は考えています。 そしてソレに関しての心配は、少なくともこの柑子市ではする必要のない事です」

 晃は藤原へと視線を向けたまま、次の言葉を待っていた。

「共食い、人間が人間を食べる事は太古の昔からタブーとされ、倫理的な問題とされ、生理的な嫌悪を伴う行為と考えるのが一般的です。 例え、それが飢え死に寸前であっても、生き延びるための一歩を踏み出せる者は決して多くはありません。 もし、夕食に人肉で作ったフルコースが出されたら?」

「食う訳ないだろう……」

「大抵の方はそうです。 ただ……柑子市で出世しようとなると、その程度の事を気にしていては務まりませんが……。 まぁ、その話は今回関係ありませんので横に置きましょう。 宗教的儀式、特別な力を得るための儀式、治療薬して、タブーとされつつも死体を食す行為が存在していたのも事実。 では、あの時の晃はどういう状況だったのか? もし、雫を研究対象とする研究者がその場にいたら、迷わず晃と同じ事をしたでしょう。 だけれど、晃が研究として雫の血肉を欲しては」

「ないな……」

「最有力とされる理由は……」

 藤原の視線が動いた。 その視線を追えば、ベランダいっぱいにカラスが舞い降り、そしてコチラを覗き見ている。

「宗教的儀式として……誘導された。 この土地は、人外の逸話が多い地域でもあり、国内外からそのような因縁ある物が集められている。 そもそも雫が人の身体能力を大きく超えた存在なのですから……。 そう言う事もあると、受け入れてもらうしかありません」

 晃はテーブルの上で、気配を消しながら残ったサンドイッチを食べているチビカラスに手を伸ばした。

「そう、なのか?」

『さて? 何のことやら……』

「怒らねぇから言ってみろ」

『……機密とされております』

 と言われれば、大抵は肯定と受け取ってよい案件である。

 晃は怒りのまま外に面したガラスに向かってチビカラスを放り投げる。 そしてチビカラスは強化ガラスで作られたガラス戸をすり抜け、外へと飛び出していくのだった。



「そんな理由から、晃が食人衝動を心配する必要ありません」

 晃は大きく息を吐きソファに深く腰掛けた。 そして……少しの間を置き、次の疑問、不安をぶつける。

「俺の中では、ソレでいい。 だが、ソレを見ていた者は、ソレで済まないだろう。 ……だからか、親良は俺に柑子市の外へと行けと言うのか?」

「ぇ、違いますよ。 ソコは処理済です」

「処理って……」

「精神的ストレスを排除したいと言う本能を利用して、藤原助教授に暗示をかけていただきました」

「アンタ、最強だな……」

 唸るように晃が藤原に言えば、にっこりと優雅に藤原は微笑む。

「お褒め頂き光栄です」

「晃は先生に感謝しなよ。 先生が処置してくれなければ、研究対象として死刑判決に持って行こうって方向転換をしかねないのが、ここのお偉いさん達なんですから」

「ですね」

 藤原はにこやかに笑い……晃を見つめた。

「ぁ、ありがとう、ございます。 だが、なら、なんで、俺が危険視されるんだ? 今の話を聞いている限り、俺の行動は正当なものとされるはずだ」

「……今更、何を聞いているんですか……説明したはずですよ」

 親良が呆れて呟くようにいい、そして続ける。

「晃が刑務所に入っていたのは犯人を殺したから。 ですが、すぐに外に出すと言ったでしょう。 通常であっても正当防衛にあたるものを、上の都合で事件自体なくなったのですから、本来なら入る必要すらありません。 ただ、日常生活に戻るには、アナタの精神状態が危ういと状況維持がなされていたに過ぎません。 だから、オカシイねと言う話をしているんですよ」

 親良の言葉に、晃はますます首傾げた。

「いや、おかしいですねで、刑務所出入りさせられるってのはどうなんだ?!」

 親良と藤原が顔をあわせて苦々しく笑った。

「刑務所内で、新たな死体が発見されました」

「……はぁ? 俺はやってないぞ」

 自分で言っていて、思わずテレビドラマを思い出した。 こういう時って本当にこう言っちまうんだなと……晃は苦々しく笑った。
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