【R18】彼等の愛は狂気を纏っている

迷い人

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7章

74.夢の逢瀬 01

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 闇が無限のように広がり。
 有限を示すように、血のように赤い柘榴石が仄かな煌きを見せる。

 怖いとは思わない。
 むしろ、ココは安全なのだと安堵する。

 夢だと理解していたから。



 夢の中で退屈を覚えると言うのはどうなのだろう。 パソコンとまで言わないが、積み上げたまま放置していた本と、煙草と、酒があれば最高なんだが……。 そう考えた瞬間に、煙草と灰皿と酒とグラスが現れた。 この都合の良さと、読んだことのない本が出現しないあたりやはり夢だと笑ってしまう。

 そんな事を考えながら、今まで一番座り心地の良かった椅子を想像すれば、闇の中に不似合いなリクライニングチェアが現れた。 腰を下ろし煙草に火をつける。

 ふぅと息を吐けば、不思議にも闇色の空間に白い煙が立ち上り揺れ動く。 煙を眺めているうちに、心が穏やかになり……そして、覚悟が決まる。

 ここでなら、会う事が出来るだろう。

 両手を差し出せば、全裸の長い黒髪の少女がふわりと現れ腕の中に降りて来た。 捕えた身体を抱きしめ閉じ込める。

 甘い花の香り。
 柔らかな肌。

 血にまみれ、頭部が吹き飛んだ雫を見て何を思ったのか……今でも思い出せないが……もしかすると、自分の中に閉じ込めておけば安全だとでも考えたのだろうか?

 だが……椅子や煙草と同じように、この雫も妄想の産物かもしれない。

「雫……」

 名を呼び、髪を撫で、背を撫でれば、はにかんだ笑みで俺を見上げてくれば、それは甘い恋心のようで酔いそうな気分になる。

 暗闇に大地が生まれ白い花が咲き乱れた。
 風に揺れる花は、花びらを散らし、舞い上がらせ、甘い香りが充満する。

 随分と乙女チックだと……晃は笑ってしまう。

 座り心地の良い椅子は、景色に合わせるように倒木に変化していた。

「何か、言いたい事があるんじゃないのか?」

 晃は、雫から視線を背け苦々しく問いかける。

『このまま柑子市から出て、好きに生きて良いのですよ』

 雫の答えに顔を見つめれば、その澄んだ瞳には、責める様子は欠片も無かった。

「カラスが、怒るんじゃないのか?」

『怒ったりなんてしません。 だから、安心してください』

「なぜ、そう言い切れるんだ?」

 奴等は殺すほどまで、復讐をするような存在なのに……。

『彼等は私を傷つけるから反撃をするの。 近寄らず、関わらない限りは、何もしませんよ』

「だが……眠ったままでは、死んでいるのと同じではないのか?」

『平気。 晃さんが死を迎えた瞬間。 私は目覚めるでしょうから。 50年? 60年後の未来であっても、きっと皎一さんは私が生きていけるだけの準備をしておいてくれるでしょう。 だから、大丈夫』

 腕の中から抜け出した雫は、ふわりと浮いた状態で小さな子にするように頭を撫でて来た。

「その間、ずっと……一緒にいるのか?」

 ソレはソレで悪くないと思え、晃は甘えるように雫を抱きしめ、その白い肌に顔を埋める。

『身体と離れると眠くなってしまうから、柑子市を出てしまえば、きっと眠ってしまうわ』

 頭を撫でてくる手を掴み、指を絡め握りしめた。

 自分にとって無責任なほどに都合の良い事ばかりを語られ、やはり夢は夢なのだろうかと考えながらも、長い眠りに陥っても良いのだと、それほど自分に抱かれるのが嫌なのだと言われた事がショックだった。

「そんなに、イヤか?」

『えっ?』

 額と額をコツンと合わせて見つめあえば、雫の顔が色づいて行き、全裸だった姿が浴衣姿となる。

「どうした?」

『なんだか、恥ずかしくなってきました』

 焦っている様子が分かりやすく、雫が慌てるほど……余裕が出て来くる。 

「まぁ、ある意味……裸よりもずっと色々と剥き出し状態なんだろうし?」

『その言い方、なんかイヤです』

「ずっと側にいたのか?」

 問えば頷かれ、茨田杉子に心揺さぶられ、奪われ、欲情を覚えすらしていた事が……気まずい……。 そんな内心を見透かされたかのようで……。

『彼女は、その……止めた方が良いと思います』

「カラスが言っていた?」

『いえ、私が見ていました。 ……水が……彼女を愛しています』

「水?」

『水が、彼女の望みをかなえ情報を取り込みと言う奴です』

 それは、茨田杉子の彼氏が行っていた研究では? と、思うのだが……、それよりも……。

 もう一度滑らかな肌に触れたいと望めば、浴衣を突き抜け肌に触れていた。 温かで穏やかな……その魂に直接ふれるかのような感触が心地よく、うっとりとしながら……水かぁ……と考え込む。

 水のように混ざりあう事が出来れば……そう思えば水の中に手を入れるように雫の身体を突き抜けた。

『ぁっ、ああんっ。 ダメ……』

 甘い声に……思わず、息を飲んだ。
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