【R18】彼等の愛は狂気を纏っている

迷い人

文字の大きさ
上 下
78 / 129
7章

74.夢の逢瀬 01

しおりを挟む
 闇が無限のように広がり。
 有限を示すように、血のように赤い柘榴石が仄かな煌きを見せる。

 怖いとは思わない。
 むしろ、ココは安全なのだと安堵する。

 夢だと理解していたから。



 夢の中で退屈を覚えると言うのはどうなのだろう。 パソコンとまで言わないが、積み上げたまま放置していた本と、煙草と、酒があれば最高なんだが……。 そう考えた瞬間に、煙草と灰皿と酒とグラスが現れた。 この都合の良さと、読んだことのない本が出現しないあたりやはり夢だと笑ってしまう。

 そんな事を考えながら、今まで一番座り心地の良かった椅子を想像すれば、闇の中に不似合いなリクライニングチェアが現れた。 腰を下ろし煙草に火をつける。

 ふぅと息を吐けば、不思議にも闇色の空間に白い煙が立ち上り揺れ動く。 煙を眺めているうちに、心が穏やかになり……そして、覚悟が決まる。

 ここでなら、会う事が出来るだろう。

 両手を差し出せば、全裸の長い黒髪の少女がふわりと現れ腕の中に降りて来た。 捕えた身体を抱きしめ閉じ込める。

 甘い花の香り。
 柔らかな肌。

 血にまみれ、頭部が吹き飛んだ雫を見て何を思ったのか……今でも思い出せないが……もしかすると、自分の中に閉じ込めておけば安全だとでも考えたのだろうか?

 だが……椅子や煙草と同じように、この雫も妄想の産物かもしれない。

「雫……」

 名を呼び、髪を撫で、背を撫でれば、はにかんだ笑みで俺を見上げてくれば、それは甘い恋心のようで酔いそうな気分になる。

 暗闇に大地が生まれ白い花が咲き乱れた。
 風に揺れる花は、花びらを散らし、舞い上がらせ、甘い香りが充満する。

 随分と乙女チックだと……晃は笑ってしまう。

 座り心地の良い椅子は、景色に合わせるように倒木に変化していた。

「何か、言いたい事があるんじゃないのか?」

 晃は、雫から視線を背け苦々しく問いかける。

『このまま柑子市から出て、好きに生きて良いのですよ』

 雫の答えに顔を見つめれば、その澄んだ瞳には、責める様子は欠片も無かった。

「カラスが、怒るんじゃないのか?」

『怒ったりなんてしません。 だから、安心してください』

「なぜ、そう言い切れるんだ?」

 奴等は殺すほどまで、復讐をするような存在なのに……。

『彼等は私を傷つけるから反撃をするの。 近寄らず、関わらない限りは、何もしませんよ』

「だが……眠ったままでは、死んでいるのと同じではないのか?」

『平気。 晃さんが死を迎えた瞬間。 私は目覚めるでしょうから。 50年? 60年後の未来であっても、きっと皎一さんは私が生きていけるだけの準備をしておいてくれるでしょう。 だから、大丈夫』

 腕の中から抜け出した雫は、ふわりと浮いた状態で小さな子にするように頭を撫でて来た。

「その間、ずっと……一緒にいるのか?」

 ソレはソレで悪くないと思え、晃は甘えるように雫を抱きしめ、その白い肌に顔を埋める。

『身体と離れると眠くなってしまうから、柑子市を出てしまえば、きっと眠ってしまうわ』

 頭を撫でてくる手を掴み、指を絡め握りしめた。

 自分にとって無責任なほどに都合の良い事ばかりを語られ、やはり夢は夢なのだろうかと考えながらも、長い眠りに陥っても良いのだと、それほど自分に抱かれるのが嫌なのだと言われた事がショックだった。

「そんなに、イヤか?」

『えっ?』

 額と額をコツンと合わせて見つめあえば、雫の顔が色づいて行き、全裸だった姿が浴衣姿となる。

「どうした?」

『なんだか、恥ずかしくなってきました』

 焦っている様子が分かりやすく、雫が慌てるほど……余裕が出て来くる。 

「まぁ、ある意味……裸よりもずっと色々と剥き出し状態なんだろうし?」

『その言い方、なんかイヤです』

「ずっと側にいたのか?」

 問えば頷かれ、茨田杉子に心揺さぶられ、奪われ、欲情を覚えすらしていた事が……気まずい……。 そんな内心を見透かされたかのようで……。

『彼女は、その……止めた方が良いと思います』

「カラスが言っていた?」

『いえ、私が見ていました。 ……水が……彼女を愛しています』

「水?」

『水が、彼女の望みをかなえ情報を取り込みと言う奴です』

 それは、茨田杉子の彼氏が行っていた研究では? と、思うのだが……、それよりも……。

 もう一度滑らかな肌に触れたいと望めば、浴衣を突き抜け肌に触れていた。 温かで穏やかな……その魂に直接ふれるかのような感触が心地よく、うっとりとしながら……水かぁ……と考え込む。

 水のように混ざりあう事が出来れば……そう思えば水の中に手を入れるように雫の身体を突き抜けた。

『ぁっ、ああんっ。 ダメ……』

 甘い声に……思わず、息を飲んだ。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

File■■ 【厳選■ch怖い話】むしごさまをよぶ  

雨音
ホラー
むしごさま。 それは■■の■■。 蟲にくわれないように ※ちゃんねる知識は曖昧あやふやなものです。ご容赦くださいませ。

二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』 そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・ ※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。  様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。  小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。

処理中です...