【R18】彼等の愛は狂気を纏っている

迷い人

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6章

66.心の支え 01

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 頭が痛い……。
 吐き気がする……。

 目のまえがぐらつき、身体が自分を拒絶しているように思える。
 身体の内側が煮えて、溶けて、崩れてしまうようだ……。



 あれから、何日経っている?

 幾度となく意識が飛び、ベッドで目を覚ます。

 サイドテーブルにあるスマホに手を伸ばした。
 刑務所と言うには、ここは自由だ。
 警察学校の方が余程地獄だった……。

 10日か……。

 10日……それだけの日が過ぎても、今も人を殺した感触は消える事が無い。

 人を殺した。
 殺してしまった。

 罪は存在しない。

 連続殺人犯だったから。
 命を奪おうとしていたから。
 最初から存在しなかった。

 そう言われても、俺の中の事実が消える訳じゃない……。 簡単に命を奪えた……その手の感触が今も残っている。 

『それほどまで、気になさる事でしょうか? 本当に気になされているのでしょうか?』

 チビカラスが窓につけられた格子の隙間から入ってきた。

「平気になってしまえば、人でなくなる気がする」

 そう語る事自体が、自らにそうあるべきだと枷をかけている事に晃は気づかない。

『相手が化け物であってもですか? アレは既に人間とは言えぬのではありませんか?』

「なら、俺とアレに違いはあるのか?」

『大儀がありまする……姫をお守りしたではありませんか』

「守れてなどいない……」

『守れております。 心を……』

「……」

 気づけば、痛みは薄らぎ……いたはずのカラスが居なくなっていた。 また、時間が飛んだのだろうか? と、時間を確認しようとしたところノック音が鳴っていた。 ずっとなっていたのか? その音はかなり激しいと言うかウルサイ。

物を投げつけたい衝動を晃は抑える。

「はい……」

「お食事にいらっしゃらないようなので、お持ちしたのですが……大丈夫ですか?」

 肩につかない長さの薄い茶色の髪をクルンと巻いた看護師の女性が、躊躇なくキッチンワゴンと共にやってくる。

「よく、人殺しの部屋に1人でやってくる」

 別に手足が拘束してある訳ではない。 それこそ、目の前に現れた妙に鬱陶しい看護師姿の女を殺す事は容易だ。

「ここには、本当に危険な方は来ませんから」

 何を持って判断しているんだ? と、思うが……この、妙に距離感が近い女が苦手で、沈黙を保つ事にした。

「お熱を測りましょう?」

 身体に触れてくる手を退けて、体温計を奪った。

「熱があるようですね。 先生に解熱剤を出せないか聞いてきます」

「必要ない」

「でも、熱が続けば体力を消耗してしまいますから。 一度、お薬を飲んで元気になってから回復を促す方が良い事もあるんですよ」

「明日も続くようなら、お願いします」

「そう……なら、気晴らしに散歩に行きませんか?」

 直ぐに身体に触れたがり、自分の意見を押し通そうとするこの女が苦手だった。

「結構だ。 また、倒れては迷惑をかける」

「ぜひ、一緒に行きたいところがあるの。 そこで朝食をとるのはどうかしら? 良い気分転換になると思うわ。 体調には、問題がないのですよね?」

 ソレは挑発のように思えた。

 イライラする。

 俺を怒らせようとしているのだろうか?

 感情がたやすく揺れる。 自分の中の大切な何かにヒビが入り、欠けて、崩れてしまうような……。 不安……。

「薬を、貰おう」

「そう、残念。 お散歩、したかったのに。 とても素敵な場所があるのに……」

 ボソボソとそう言いながら、朝食を置いて女は去って行った。 同時に頭痛が再開し、吐き気に咳き込みえづく。

 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い……。

 早く、帰りたい……。

 思い浮かぶのは……守れと言われた少女だった。

 そう言えば雫はどうしているのだろうか?

 そして……結局、朝食を食べる事無く意識を失っていた。

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