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5章
65.コレクター 06
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あの後、雫は血だまりの中再生した。
だが、表面上を整えただけらしく、吹き飛んだ脳が再生されるまでは時間がかかるだろうと言う話だった。
化け物。
そう口ずさむ人々の様子は、何か薄汚いものに対するような言いようで……感情の抑制が外れた俺を苛立たせ、制御不能となる前に、鎮静剤を打たれ、捕らえられ……刑務所に相応する場所に入れられた。
だが、そこは晃が知る刑務所よりも病室に近い。
ただ……自由がないだけ。
それでも不便を感じる事は無かった。
激しい頭痛が晃を蝕み、幾度となく意識を混濁へと導いたから。
面会室。
晃と対面する新見親良。
そして……新見親良につきそう男が1人。
男は、壁際で潜むように……ニヤニヤと晃を見ていた。
どこかで会ったような。
頭痛で思考がまとまらなかった。
「晃は……すぐに外に出られるでしょう」
静かに新見は告げた。
「ソレは、おかしくないか? 人を殺しているんだぞ?!」
それでも正当防衛と言う言葉が脳裏を走った。
「全ては回収され、最初から何も無かった事になりました。 彼は柑子市に存在していなかったし、彼が殺した人も存在していない人だった。 存在しない人を殺せる人間はいない」
「馬鹿げている」
「もっと、馬鹿げた事をおしえてあげよう」
うひひひひひと不気味な笑いをする、小柄で不潔な印象の男が語りだす。
「彼は存在しなかった。 と、言うのは、あくまで表面上の話。 彼を連続殺人者として表に出してしまえば、柑子市の存在が脅かされる。 隠すのは当然の事です。 ですが、裏の世界は別です。 彼の功績は、彼の行った殺しの数、妄想障害の歪んだ記録、岬加奈子への信仰心、あらゆるものが裏社会で公開され……稀代の殺人鬼、岬加奈子の信者であった男の作品は……売却が決まりました」
「それは、どういう、意味だ?」
「君は、頭が悪いのか? 岬加奈子が予言絵を描かなくなった事で、奇跡を、聖物を手にできなくなった人間の怒りがどれほどのものか……想像つかないのかい?」
そんな事、分かるはずがない……が、男の様子を見る限り……ソレで困る人間が居るのは確かだ。
「岬加奈子の作品には値段はついているが、その値段には意味はない。 そもそも聖物である絵が金銭で取引される事自体、購入者にとって許しがたい事なのだが、取引と言うものは体裁が必要だ。 彼等は信仰のためなら、幾らでも出す。 だが、幾ら出しても良いからこそ、手に入ると思っていたものが手に入らなくなった時の怒り、失望、想像はつかないだろう?」
「……」
「だから、彼等は同等の価値あるものを提示する必要があった。 岬加奈子の信仰に関わるものがね。 まぁ……全てが表に出せない事実で、表に出せないからこそ……君は救われると言う訳だ。 どんな気分だね? 自分の罪が無かった事にされる気分は」
楽しそうに男は語っていた。
「それより……雫は、どうなった……」
晃がそう言えば、男は唾を吐くように言う。
「ツマラナイ奴」
「流石に、頭をふっとばされてはまともに動けるようになるまで時間がかかるようですよ。 彼女が気持ち悪い。 不気味だ。 側に居たくない、いる事が出来ないと思うなら……護衛の依頼は無かった事にするよう皎一さんに頼んでみましょう」
「いや……俺はただ……無事かを知りたかっただけだ」
「おかしなことを言う人だ。 アンタにとっては無事とはどういう意味なのか、詳しく聞かせてもらいたいものだ。 とても興味深いね!!」
ツマラナイと言った男が、新見を押しのけて話し出す。
「止めるんだ」
「……ふんっ、あぁツマラナイツマラナイ……一体なんのためについてきたのか」
そう語る男を新見は無視する。
「無理をしなくていい」
「無理じゃない……。 無理じゃないんだ……」
頭が……痛い……。
そして、晃は意識を失い面会を終えた。
だが、表面上を整えただけらしく、吹き飛んだ脳が再生されるまでは時間がかかるだろうと言う話だった。
化け物。
そう口ずさむ人々の様子は、何か薄汚いものに対するような言いようで……感情の抑制が外れた俺を苛立たせ、制御不能となる前に、鎮静剤を打たれ、捕らえられ……刑務所に相応する場所に入れられた。
だが、そこは晃が知る刑務所よりも病室に近い。
ただ……自由がないだけ。
それでも不便を感じる事は無かった。
激しい頭痛が晃を蝕み、幾度となく意識を混濁へと導いたから。
面会室。
晃と対面する新見親良。
そして……新見親良につきそう男が1人。
男は、壁際で潜むように……ニヤニヤと晃を見ていた。
どこかで会ったような。
頭痛で思考がまとまらなかった。
「晃は……すぐに外に出られるでしょう」
静かに新見は告げた。
「ソレは、おかしくないか? 人を殺しているんだぞ?!」
それでも正当防衛と言う言葉が脳裏を走った。
「全ては回収され、最初から何も無かった事になりました。 彼は柑子市に存在していなかったし、彼が殺した人も存在していない人だった。 存在しない人を殺せる人間はいない」
「馬鹿げている」
「もっと、馬鹿げた事をおしえてあげよう」
うひひひひひと不気味な笑いをする、小柄で不潔な印象の男が語りだす。
「彼は存在しなかった。 と、言うのは、あくまで表面上の話。 彼を連続殺人者として表に出してしまえば、柑子市の存在が脅かされる。 隠すのは当然の事です。 ですが、裏の世界は別です。 彼の功績は、彼の行った殺しの数、妄想障害の歪んだ記録、岬加奈子への信仰心、あらゆるものが裏社会で公開され……稀代の殺人鬼、岬加奈子の信者であった男の作品は……売却が決まりました」
「それは、どういう、意味だ?」
「君は、頭が悪いのか? 岬加奈子が予言絵を描かなくなった事で、奇跡を、聖物を手にできなくなった人間の怒りがどれほどのものか……想像つかないのかい?」
そんな事、分かるはずがない……が、男の様子を見る限り……ソレで困る人間が居るのは確かだ。
「岬加奈子の作品には値段はついているが、その値段には意味はない。 そもそも聖物である絵が金銭で取引される事自体、購入者にとって許しがたい事なのだが、取引と言うものは体裁が必要だ。 彼等は信仰のためなら、幾らでも出す。 だが、幾ら出しても良いからこそ、手に入ると思っていたものが手に入らなくなった時の怒り、失望、想像はつかないだろう?」
「……」
「だから、彼等は同等の価値あるものを提示する必要があった。 岬加奈子の信仰に関わるものがね。 まぁ……全てが表に出せない事実で、表に出せないからこそ……君は救われると言う訳だ。 どんな気分だね? 自分の罪が無かった事にされる気分は」
楽しそうに男は語っていた。
「それより……雫は、どうなった……」
晃がそう言えば、男は唾を吐くように言う。
「ツマラナイ奴」
「流石に、頭をふっとばされてはまともに動けるようになるまで時間がかかるようですよ。 彼女が気持ち悪い。 不気味だ。 側に居たくない、いる事が出来ないと思うなら……護衛の依頼は無かった事にするよう皎一さんに頼んでみましょう」
「いや……俺はただ……無事かを知りたかっただけだ」
「おかしなことを言う人だ。 アンタにとっては無事とはどういう意味なのか、詳しく聞かせてもらいたいものだ。 とても興味深いね!!」
ツマラナイと言った男が、新見を押しのけて話し出す。
「止めるんだ」
「……ふんっ、あぁツマラナイツマラナイ……一体なんのためについてきたのか」
そう語る男を新見は無視する。
「無理をしなくていい」
「無理じゃない……。 無理じゃないんだ……」
頭が……痛い……。
そして、晃は意識を失い面会を終えた。
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