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5章
60.コレクター 01
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先に行けと雫に言う犯罪対策部の年配男性。
気分の悪い男だ……。
「まさか、迷子になりました。 なんてことはないよな?」
雫を胸に押し付けるように抱え込み、男を睨みつけ言えば、相手は相手で脅すような態度をとってくる。
「はっ、まさか。 嬢ちゃんの力を借りたいとお願いしているんだ。 この先に、第二次世界大戦時代の防空壕がある。 カラスの案内が事実ならぁ~」
ニヤリとワザとらしく間を取って男は言葉を続ける。
「うちのもんを化け物のようにして、化け物の材料にした奴がいる訳だ。 繊細な俺達の心は、仲間の死に悲しみ苦しんでいてなぁ~。 頑丈な嬢ちゃんに様子を見てきてもらいたいなぁ~っとお願いしている訳だ」
「これが警察官なら、関係者は捜査禁止だが?」
「生憎と俺達は警察官じゃねぇ~。 肉体派の会社員に過ぎない。 坊主、ココのルールを知らないなら口だしをするな。 ココは外とは違う世界なんだ」
厳つい顔で脅しをかけてくる。
「ふっ、なるほど……幹部からの介入で仕事が出来なかったと言うのは建前、本当は女の子を盾に使うほどの臆病者って事か、ここの上層部は優しい方々だな。 今まで部下のプライドを守るためにさぞ苦労をしたのだろう」
「はぁ?! ふざけんな!!」
「ふざけてません。 違うと言うなら、お先にどうぞ。 中を確認してきてください」
晃に煽られた犯罪対策部のオジサン達が掛け声と共に走り出した。
「えっと……私なら大丈夫ですよ?」
「俺は、雫を守るのが仕事なんでね」
煽られるままに走り出す男の後を、傘をさし、足元に気を付けながら進んでいく。
やがて目につく岩盤で出来た小高い丘。
コケが生え、木の根が巻きつき、その存在を綺麗に隠していた。 開かれたままの鋼鉄の扉の向こうからは、勇ましい叫び声が聞こえ、そしてソレはやがて悲鳴に変わる。
「何かあったんですかねぇ~」
俺が嫌味交じりに笑いながら、新見に言えば、
「挑発しないでくださいよ。 状況によっては人海戦術も必要になるんですから」
「俺じゃなく、向こうに言えよ。 一応プロなんだろう?」
「残念ながら、彼等は警察ではなく個人が雇った肉体派の方々ですよ……」
「それで、よく、今までの無念とかいうもんだ」
晃の言葉に新見は苦笑いで誤魔化し……そしてその場に残った、新見、晃、雫、鑑識作業を専門とする者達は……叫びながら戻って来る厳つい顔をしたオジサンたちを出迎える事となる。
焦るつもりはない。 何しろ情もない、恩もない、あるのは不快で、適当に嫌な思いをすればいいと送り出したのだから。
声にならない叫びが聞こえ近づいてくる。
晃は、小脇に雫を抱え、今にも防空壕から飛び出てくるだろう男達とぶつからないよう避難した。
全員無事に出て来た事を、数を数えて確認した新見は言う。
「では、俺が行ってきますから、少し待っていてください」
そう晃に言い、数人の部下には共に来るよう声をかける。
「大丈夫なのか?」
「ケガ人もいなかったようですし大丈夫でしょう。 安全を確認してきますので、少し待っていてください」
そう言って苦笑交じりに新見が中へと入って行く。
戻ってきたオッサン達と言えば、完全に怯えていた。
怯えているだけ。
物理的な脅威は無いのは分かる。
中から出て来た男達は、途中転んだかぶつかったかしたようで動きはオカシイが、その服には、血もなければ、濡れた土で汚れているどころか、埃一つついていない。
そして、30分ほどして新見が戻ってきた。
「大丈夫か?」
「問題ありませんよ。 綺麗なものです。 中は良く手入れされていますから。 ただ、足元は気を付けて下さい」
「どうかしたのか?」
「お掃除ロボットが走り回っています。 鑑識は回収お願いします」
「で、アイツ等は何を見た?」
聞けば新見は苦々しく笑った。
「見て確認するといいです。 まぁ、想像つくでしょうが、遺体が飾られています」
「もう少し、もったいぶったらどうだ」
冗談めかして言えば、眉間を寄せて新見は言う。
「覚悟をしろと言ったんだ」
「写真ではあるが1体は見ているが」
「最初のアレも、正確には1体ではないんですよね……」
大量の死体があったと言う訳だろう。
「あぁ~ぁ、死体の割り出しだけでも大変ですねぇ……。 晃君……君の見解を聞きたい。 あと、カラスはいるけれど、雫ちゃんも中においで」
時折見せていた冷ややかな視線が嘘のように、新見は子猫に訴えかけるように雫に言い聞かせていた。
中は几帳面なほどに綺麗にされていて、電気も通っている。
新見は、枝分かれする通路を部下に調査するよう命じながら、まっすぐと広い道を先に急いだ。
そして遠くに煌々とした明かりが広間を照らしているのが見えた。
かなり広い空間だ。
そこには、十数体もの仏像が飾られていた。
眼前に広がる仏像軍。
思い出したのは三十三間堂と言う寺。
流石に三十三間堂のように1000体を超える仏像がある訳ではないが……、それでも十数体と言う仏像に……背筋が冷える。
そこにあるのは、仏像のふりをした死体なのだから、ゾッとするのも当然だろう。
気分の悪い男だ……。
「まさか、迷子になりました。 なんてことはないよな?」
雫を胸に押し付けるように抱え込み、男を睨みつけ言えば、相手は相手で脅すような態度をとってくる。
「はっ、まさか。 嬢ちゃんの力を借りたいとお願いしているんだ。 この先に、第二次世界大戦時代の防空壕がある。 カラスの案内が事実ならぁ~」
ニヤリとワザとらしく間を取って男は言葉を続ける。
「うちのもんを化け物のようにして、化け物の材料にした奴がいる訳だ。 繊細な俺達の心は、仲間の死に悲しみ苦しんでいてなぁ~。 頑丈な嬢ちゃんに様子を見てきてもらいたいなぁ~っとお願いしている訳だ」
「これが警察官なら、関係者は捜査禁止だが?」
「生憎と俺達は警察官じゃねぇ~。 肉体派の会社員に過ぎない。 坊主、ココのルールを知らないなら口だしをするな。 ココは外とは違う世界なんだ」
厳つい顔で脅しをかけてくる。
「ふっ、なるほど……幹部からの介入で仕事が出来なかったと言うのは建前、本当は女の子を盾に使うほどの臆病者って事か、ここの上層部は優しい方々だな。 今まで部下のプライドを守るためにさぞ苦労をしたのだろう」
「はぁ?! ふざけんな!!」
「ふざけてません。 違うと言うなら、お先にどうぞ。 中を確認してきてください」
晃に煽られた犯罪対策部のオジサン達が掛け声と共に走り出した。
「えっと……私なら大丈夫ですよ?」
「俺は、雫を守るのが仕事なんでね」
煽られるままに走り出す男の後を、傘をさし、足元に気を付けながら進んでいく。
やがて目につく岩盤で出来た小高い丘。
コケが生え、木の根が巻きつき、その存在を綺麗に隠していた。 開かれたままの鋼鉄の扉の向こうからは、勇ましい叫び声が聞こえ、そしてソレはやがて悲鳴に変わる。
「何かあったんですかねぇ~」
俺が嫌味交じりに笑いながら、新見に言えば、
「挑発しないでくださいよ。 状況によっては人海戦術も必要になるんですから」
「俺じゃなく、向こうに言えよ。 一応プロなんだろう?」
「残念ながら、彼等は警察ではなく個人が雇った肉体派の方々ですよ……」
「それで、よく、今までの無念とかいうもんだ」
晃の言葉に新見は苦笑いで誤魔化し……そしてその場に残った、新見、晃、雫、鑑識作業を専門とする者達は……叫びながら戻って来る厳つい顔をしたオジサンたちを出迎える事となる。
焦るつもりはない。 何しろ情もない、恩もない、あるのは不快で、適当に嫌な思いをすればいいと送り出したのだから。
声にならない叫びが聞こえ近づいてくる。
晃は、小脇に雫を抱え、今にも防空壕から飛び出てくるだろう男達とぶつからないよう避難した。
全員無事に出て来た事を、数を数えて確認した新見は言う。
「では、俺が行ってきますから、少し待っていてください」
そう晃に言い、数人の部下には共に来るよう声をかける。
「大丈夫なのか?」
「ケガ人もいなかったようですし大丈夫でしょう。 安全を確認してきますので、少し待っていてください」
そう言って苦笑交じりに新見が中へと入って行く。
戻ってきたオッサン達と言えば、完全に怯えていた。
怯えているだけ。
物理的な脅威は無いのは分かる。
中から出て来た男達は、途中転んだかぶつかったかしたようで動きはオカシイが、その服には、血もなければ、濡れた土で汚れているどころか、埃一つついていない。
そして、30分ほどして新見が戻ってきた。
「大丈夫か?」
「問題ありませんよ。 綺麗なものです。 中は良く手入れされていますから。 ただ、足元は気を付けて下さい」
「どうかしたのか?」
「お掃除ロボットが走り回っています。 鑑識は回収お願いします」
「で、アイツ等は何を見た?」
聞けば新見は苦々しく笑った。
「見て確認するといいです。 まぁ、想像つくでしょうが、遺体が飾られています」
「もう少し、もったいぶったらどうだ」
冗談めかして言えば、眉間を寄せて新見は言う。
「覚悟をしろと言ったんだ」
「写真ではあるが1体は見ているが」
「最初のアレも、正確には1体ではないんですよね……」
大量の死体があったと言う訳だろう。
「あぁ~ぁ、死体の割り出しだけでも大変ですねぇ……。 晃君……君の見解を聞きたい。 あと、カラスはいるけれど、雫ちゃんも中においで」
時折見せていた冷ややかな視線が嘘のように、新見は子猫に訴えかけるように雫に言い聞かせていた。
中は几帳面なほどに綺麗にされていて、電気も通っている。
新見は、枝分かれする通路を部下に調査するよう命じながら、まっすぐと広い道を先に急いだ。
そして遠くに煌々とした明かりが広間を照らしているのが見えた。
かなり広い空間だ。
そこには、十数体もの仏像が飾られていた。
眼前に広がる仏像軍。
思い出したのは三十三間堂と言う寺。
流石に三十三間堂のように1000体を超える仏像がある訳ではないが……、それでも十数体と言う仏像に……背筋が冷える。
そこにあるのは、仏像のふりをした死体なのだから、ゾッとするのも当然だろう。
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