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5章
54.鬱憤を抱える者達の野望 02
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昼過ぎに帰ってきた俺は、新見と颯太が部屋を出るのを確認し、雫側の出入り口を完全に封じた。
身内……と言って良いのか?
入口前で、デモを起こしているような姿を見れば、雫の安全に危険を覚えると言うものだ。 多分、彼等は身内ではない……少なくとも雫はそう思っていないだろうし……もし、思っているなら、ソレは寂しすぎる。
人を疑いたくないなら、
人の裏切りに傷つきたくないなら、
どうすればいいか?
ようするに、事前に犯罪を防ぐよう手間をかけておけばいい。
身近な人間にすら奇跡をもたらす者として、狙われている雫であれば手間を惜しむ等あってはならないだろう。 そして俺は雫の部屋の方にある出入口を封じ、壁の穴を本格的に通路として利用する事にしたのだ。
重く重厚な本棚で扉を塞ぎ、本を敷き詰め、下の部分にある片開きの広い扉の中に、重い物を置く事となった。
ぬか床と、20歳になったら飲む予定だと言う巨大な梅酒の瓶。
18歳の子の所有物としてはどうなのだろうか? と、思ったが……両方ともチビの頃に寮を後にした食堂の職員から譲り受けたものだと言う。 そう思えば、雫を守るための番人のような風格をもって鎮座されているかのように見えたので良しとしよう。 長い年月大切にされた者は命が宿ると言うから、もしかして、そうなのかもしれない。
そうして、俺と雫は、今穏やかな時間を過ごしていると言う訳だ。
「どうでしょう……。 忙しいのではないでしょうか? 今回のような事は滅多にありませんし、彼等の帰る場所はココではありませんから」
新見達が戻って来るのかと言う質問に対する雫の答えだ。
「昔から?」
「昔からですよ?」
「ずっと一人だったのか?」
「えぇ。そうよ」
「大変だったな」
そう言えば、余りにも不思議そうにするから、話を変える事にした。
「そういえば今回のような事は滅多にないと言う事は、以前に似たような事が?」
「はい。 その時は制止する者も居なくて、かなり捜査を頑張ったようですよ。 今回もその前例を倣ってと考えているようです」
「そんなに多くの人が死んでいるのか?」
そう言えば、雫は微妙な顔をした。
「あの、晃さんは……加奈子の予言を信じますか?」
「死をあてるんだよね?」
信じていないと言えば、折角仲良くなった感じが崩れかねないと、晃は曖昧な言葉で質問を流す。 そのことに雫は気づく事無く言葉を続けてきた。
「加奈子が予言する死の数と、死体の数が合わないんです」
予言を信用していないとは言え、雫が真面目に語っているのだからと、晃は信用していると自分に思い込ませた。
「だけど人が死んだなら、人が消えるよな?」
「普通はそうですが……別にココは外部からの出入りを禁じられている訳ではありませんし、それに消えた人の多くが、何処にも所属していない。 以前までは何処かに所属していた。 以前までは都市に存在していたけど、今は何処かに行ったと言う人なんです」
「ようするに居ない人と言う訳か」
「はい、ですが、以前はいた訳ですから、必ず誰かが覚えていて、そして、加奈子の予言を見て、あぁそう言えば……いつの間にかいなくなっていると思うんです。 ですが捜索を依頼する者が居ません。 ココに住む多くの人が1人だから」
「だが、行方不明、下手をすれば殺人事件なんだろう?」
「誰もが加奈子の予言を信じてはいませんし、それに……死体が見つかるまで、死人は存在しませんし。 捜索願いが出るまで行方不明者は存在しませんから」
だから……彼等は今回の件を切っ掛けに、不明とされる多くの事を解決したいと考えているのだろうと雫は続けた。
身内……と言って良いのか?
入口前で、デモを起こしているような姿を見れば、雫の安全に危険を覚えると言うものだ。 多分、彼等は身内ではない……少なくとも雫はそう思っていないだろうし……もし、思っているなら、ソレは寂しすぎる。
人を疑いたくないなら、
人の裏切りに傷つきたくないなら、
どうすればいいか?
ようするに、事前に犯罪を防ぐよう手間をかけておけばいい。
身近な人間にすら奇跡をもたらす者として、狙われている雫であれば手間を惜しむ等あってはならないだろう。 そして俺は雫の部屋の方にある出入口を封じ、壁の穴を本格的に通路として利用する事にしたのだ。
重く重厚な本棚で扉を塞ぎ、本を敷き詰め、下の部分にある片開きの広い扉の中に、重い物を置く事となった。
ぬか床と、20歳になったら飲む予定だと言う巨大な梅酒の瓶。
18歳の子の所有物としてはどうなのだろうか? と、思ったが……両方ともチビの頃に寮を後にした食堂の職員から譲り受けたものだと言う。 そう思えば、雫を守るための番人のような風格をもって鎮座されているかのように見えたので良しとしよう。 長い年月大切にされた者は命が宿ると言うから、もしかして、そうなのかもしれない。
そうして、俺と雫は、今穏やかな時間を過ごしていると言う訳だ。
「どうでしょう……。 忙しいのではないでしょうか? 今回のような事は滅多にありませんし、彼等の帰る場所はココではありませんから」
新見達が戻って来るのかと言う質問に対する雫の答えだ。
「昔から?」
「昔からですよ?」
「ずっと一人だったのか?」
「えぇ。そうよ」
「大変だったな」
そう言えば、余りにも不思議そうにするから、話を変える事にした。
「そういえば今回のような事は滅多にないと言う事は、以前に似たような事が?」
「はい。 その時は制止する者も居なくて、かなり捜査を頑張ったようですよ。 今回もその前例を倣ってと考えているようです」
「そんなに多くの人が死んでいるのか?」
そう言えば、雫は微妙な顔をした。
「あの、晃さんは……加奈子の予言を信じますか?」
「死をあてるんだよね?」
信じていないと言えば、折角仲良くなった感じが崩れかねないと、晃は曖昧な言葉で質問を流す。 そのことに雫は気づく事無く言葉を続けてきた。
「加奈子が予言する死の数と、死体の数が合わないんです」
予言を信用していないとは言え、雫が真面目に語っているのだからと、晃は信用していると自分に思い込ませた。
「だけど人が死んだなら、人が消えるよな?」
「普通はそうですが……別にココは外部からの出入りを禁じられている訳ではありませんし、それに消えた人の多くが、何処にも所属していない。 以前までは何処かに所属していた。 以前までは都市に存在していたけど、今は何処かに行ったと言う人なんです」
「ようするに居ない人と言う訳か」
「はい、ですが、以前はいた訳ですから、必ず誰かが覚えていて、そして、加奈子の予言を見て、あぁそう言えば……いつの間にかいなくなっていると思うんです。 ですが捜索を依頼する者が居ません。 ココに住む多くの人が1人だから」
「だが、行方不明、下手をすれば殺人事件なんだろう?」
「誰もが加奈子の予言を信じてはいませんし、それに……死体が見つかるまで、死人は存在しませんし。 捜索願いが出るまで行方不明者は存在しませんから」
だから……彼等は今回の件を切っ掛けに、不明とされる多くの事を解決したいと考えているのだろうと雫は続けた。
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