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5章
53.鬱憤を抱える者達の野望 01
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その日、新見親良は晃ではなく三輪颯太を伴い、会議へと参加した。
今はもう、帰宅時にあった喧噪は無い。
風呂に入り食事を食べた晃は、後片付けを引き受け、雫に風呂に入るよう勧めた。 そして俺は、購入してきた菓子を出し、お茶の準備をする。
慣れない場所ではあるが、良く動き回る雫を視線で追っているうちに、日頃使うものであれば雫が何処にしまっているのか見当つくようになっていた。
「ぁ、ケーキカステラだ」
そんな商品名だったか? と思いつつ雫を手招き椅子に座らせれば、彼女の濡れた髪が湿り気を帯びていて、急いでいただろう事が分かる。
テーブルに準備されていた菓子に目を輝かせている様子は普通の子だ。
「お茶の準備しますよ?」
「その前に髪を乾かそうな。 俺がしてやるよ」
新見は『雫ちゃん』と『ちゃん』付けで呼ぶが、そうする事で彼女を人として見ているのだと印象付けをしているだけなのかもしれない。 新見を前に、雫はコレほど表情を動かさない。
言うなれば『良好な関係を築くためのパターン』を、新見は定めている。 そんな風に思ってしまう。
「へっ? ぇ、ぁう……平気です。 そのうち、乾きますし」
片付けるから風呂に入ってくるように言った時もそうだが、今もそうだ。 雫は少しだけ視線をそらし、まるで拗ねているかのような態度で頬を赤らめる。 新見に対しても颯太に対しても見せない態度。
特別感が凄い……。
独占欲が芽生えている気すらする。
岬加奈子が言った言葉を思い出せば、雫は俺の運命の相手なのでは? そう思い込んでしまいそうになり危険だ。
「昔、両親が生きていた頃は、犬を数匹飼っていたんだ。 洗うのも、乾かすのも得意だから安心するといい」
そういえば、苦笑交じりに……だけど、何処か嬉しそうに雫は笑う。
「私は、犬ですか?」
「犬だなんて思う訳ない。 こんなに可愛らしいのに……」
最初からそのつもりで準備していたドライヤーと櫛を手にし、髪に触れる。 しっとりと濡れた髪が美しく艶めかしくすら思える。
この髪に口づけをしてみたら、この子はどんな表情を見せるのだろうか? そんな風に思っていれば、髪に触れているだけで雫の耳が真っ赤になっているのが分かった。 何か言いたそうにしているが、口だけが何度か開かれては閉ざされる。
きっと良い言葉が思い浮かばないのだろう。
そして、悪く思っていないのは確かだった。
「小さくて、年下で、可愛い子が居れば、可愛がるのは当然だとは思わないか?」
「……そう、なのでしょうか?」
「雫でも、そうしないか?」
「そう、かもしれませんね」
苦笑交じりの、少し落ち込んだ声で返される。
何か失敗したか? と考えるが、髪を撫でればすぐに機嫌がなおってくるのが触れる手からも分かる。 それでも他の人達は、雫には喜怒哀楽が無いと思っているのだろう事は……もう知っている。
幾度となく彼女は、奇跡を生み出す道具だと説明をうけていたのだから。
可愛くて、可哀そうで、哀れで、美しい子。
髪を乾かし終えて、オヤツタイムだ。
お茶をいれますと逃げるように、手の届く範囲からスルリと逃げて行った。 だからと言って俺の事が嫌いだから等と言う事はない。 自意識過剰なんかではなく、異性として気にされているのは態度から分かる。
「新見達は、また顔を出すのだろうか?」
そう問えば、雫は少し落ち込んだ風に見えた。
今はもう、帰宅時にあった喧噪は無い。
風呂に入り食事を食べた晃は、後片付けを引き受け、雫に風呂に入るよう勧めた。 そして俺は、購入してきた菓子を出し、お茶の準備をする。
慣れない場所ではあるが、良く動き回る雫を視線で追っているうちに、日頃使うものであれば雫が何処にしまっているのか見当つくようになっていた。
「ぁ、ケーキカステラだ」
そんな商品名だったか? と思いつつ雫を手招き椅子に座らせれば、彼女の濡れた髪が湿り気を帯びていて、急いでいただろう事が分かる。
テーブルに準備されていた菓子に目を輝かせている様子は普通の子だ。
「お茶の準備しますよ?」
「その前に髪を乾かそうな。 俺がしてやるよ」
新見は『雫ちゃん』と『ちゃん』付けで呼ぶが、そうする事で彼女を人として見ているのだと印象付けをしているだけなのかもしれない。 新見を前に、雫はコレほど表情を動かさない。
言うなれば『良好な関係を築くためのパターン』を、新見は定めている。 そんな風に思ってしまう。
「へっ? ぇ、ぁう……平気です。 そのうち、乾きますし」
片付けるから風呂に入ってくるように言った時もそうだが、今もそうだ。 雫は少しだけ視線をそらし、まるで拗ねているかのような態度で頬を赤らめる。 新見に対しても颯太に対しても見せない態度。
特別感が凄い……。
独占欲が芽生えている気すらする。
岬加奈子が言った言葉を思い出せば、雫は俺の運命の相手なのでは? そう思い込んでしまいそうになり危険だ。
「昔、両親が生きていた頃は、犬を数匹飼っていたんだ。 洗うのも、乾かすのも得意だから安心するといい」
そういえば、苦笑交じりに……だけど、何処か嬉しそうに雫は笑う。
「私は、犬ですか?」
「犬だなんて思う訳ない。 こんなに可愛らしいのに……」
最初からそのつもりで準備していたドライヤーと櫛を手にし、髪に触れる。 しっとりと濡れた髪が美しく艶めかしくすら思える。
この髪に口づけをしてみたら、この子はどんな表情を見せるのだろうか? そんな風に思っていれば、髪に触れているだけで雫の耳が真っ赤になっているのが分かった。 何か言いたそうにしているが、口だけが何度か開かれては閉ざされる。
きっと良い言葉が思い浮かばないのだろう。
そして、悪く思っていないのは確かだった。
「小さくて、年下で、可愛い子が居れば、可愛がるのは当然だとは思わないか?」
「……そう、なのでしょうか?」
「雫でも、そうしないか?」
「そう、かもしれませんね」
苦笑交じりの、少し落ち込んだ声で返される。
何か失敗したか? と考えるが、髪を撫でればすぐに機嫌がなおってくるのが触れる手からも分かる。 それでも他の人達は、雫には喜怒哀楽が無いと思っているのだろう事は……もう知っている。
幾度となく彼女は、奇跡を生み出す道具だと説明をうけていたのだから。
可愛くて、可哀そうで、哀れで、美しい子。
髪を乾かし終えて、オヤツタイムだ。
お茶をいれますと逃げるように、手の届く範囲からスルリと逃げて行った。 だからと言って俺の事が嫌いだから等と言う事はない。 自意識過剰なんかではなく、異性として気にされているのは態度から分かる。
「新見達は、また顔を出すのだろうか?」
そう問えば、雫は少し落ち込んだ風に見えた。
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