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4章

47.天才絵師 05

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「予言は、嫌いですか?」

 藤原が静かに晃に聞いた。

 晃は声を抑えながらも何処か吐きだすように言う。

「予測、推測、目算、推定、予想、見込み。 そういうものは、物事を進めるためには必要不可欠だと……思ってはいる。 だけどだ!! 予言と言う言葉を使えば他者に与える意味が全く違ってくる。 助教授は、岬加奈子が俺の存在を予言したと言う事に対して、どうお考えなんですか!」

 晃の声に熱が帯びており、新見が驚きながらも小声で言う。

「晃君落ち着いて」

「落ち着けだと? 落ち着けるか!! 殺しの原因が自分にあると言われて、それも、自分の見ず知らずのところで勝手にだ!! 俺が雫の護衛を引き受けたとしても、岬加奈子が雫の死を、学生達の死を望む事の意味が分からない!!」

「混乱しているね。 落ち着きなさい。 晃、君の発言に幾つかの訂正をしよう。 学生達の死には加奈子君は関与していない。 彼女と亡くなった学生達は全く別だ。 そして……私はね、加奈子君が君の存在を予言したとは考えていない」

 藤原の視線がチラリと新見へと向かった。

「ソレには俺も同意します。 加奈子君の予言は死を言い当てると言う類のものですから。 ただ、だれが、加奈子君に晃君が雫ちゃんの護衛につくかを伝えたか? そして、その人物はどこまで……予測していたのか? 藤原助教授は何か聞いていますか?」

「いいえ、彼女は自分の予言だとしか言っていません」

「なら、今回の件について何か言っていませんでしたか?」

「……医者には秘匿義務があります」

「コチラには、殺されかけた子がいるんですよ。 なぜ、加奈子君が雫ちゃんを殺したか? 今後も殺そうとするのかが重要なんです!!」

「ソレに関しては、安心していいでしょう。 加奈子君はシバラクの間……外に出る事が許されていません」

「珍しいですね。 幹部がこれほど早く処罰を下すなんて」

「いいえ……加奈子君の描く絵は価値がありました。 ですが……今の彼女は絵が描けません。 絵を描けるようになるまで治療が必要だと幹部達は判断を下したようです。 なので、加奈子君が雫君を殺す事はありえません。 ……本人の名誉のために言わせて貰うなら、彼女は、雫君が殺される様を見守っていただけだそうですよ」

 晃は膝の上に両肘を置き手を組み俯き、話を聞いていた。

 時折チラリと藤原と新見の顔を見て、そして……疑念、疑惑、不信、そんなものが心の中に渦巻くのを実感し……眉間を寄せる。

 何もかもが、スルリスルリと交わされているようで、納得いかない……。
 納得いかないのに、藤原の深く落ち着いた声で静かに語られれば、ソレが全ての正解であるかのように感じるのだから……気分が悪い、いや、気持ちが悪い……。



 晃はヌルリと蠢く蛇を想像する。

 心が操作されているかのような気になって……胸がざわついていた。

「晃、君も何かいいたそうだね」

「予知に関する、アンタの見解は?」

 騒めく心から逃れるように、無難と思われる質問をした。

「親良が言ったように、加奈子君が予知するのは死や破壊に関する事だけですよ」

 予知自体は否定しないのかと思っていれば、目の前の男が薄く笑う。

「あぁ、なるほど。 予知と言うから、晃は受け入れられない。 そうだね?」

 いつの間にか呼び捨てにされるが、そこに突っ込みを入れる等出来ない雰囲気が漂っている。 チラリと新見を見れば、目を閉ざし沈黙を保っていた。

「えぇ」

「加奈子君の予知は本物です。 ですが、そうですね、例えるなら、ペットの犬が主の病を発見するように。 ベテラン看護師が患者の死が分かるように。 災害の前に動物が逃げ出すように。 と、言えばソレほど抵抗はないのではありませんか?」

「……まぁ……。 俺が嫌なのは、自分が特別だと言い信仰を集め、金を集め、人を狂わせる連中だからな」

「なるほど……だが、まだ納得言っていないようだね」

「俺が気になるのは……なぜ、俺が雫の護衛任務に就く事で、岬加奈子が雫の死を望んだのか? と言う事だ」

「雫は生きている」

「あぁ、生きているが。 だが……岬加奈子とは友人だったのだろう? 死を望まれたと思えば傷つく……」

「そうでしょうか?」

「そういうものだろう」

「そうですね。 ですが、ここではそのように考える者はいません。 そこが……アナタによって雫が変えられると言われる理由なのかもしれませんね」

「だが、岬加奈子は俺を予知できない?」

「何度も言いますが、彼女が分かるのは死に関わる事のみです。 ですが、彼女は、アナタによって雫が変えられる事を知っていた。 そうなるものだと思い込んでいる。 ですから少なくとも彼女が落ち着くまで、彼女の中から雫と言う存在が消えるまでは、晃は岬加奈子に会わない方がいい……コレが、私の見解です」
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