【R18】彼等の愛は狂気を纏っている

４章

46.天才絵師 04

　岬加奈子が雫の死を望んだのは、6人の少年少女がメッセージを受け取ったのと同じ頃だった。



　暗い部屋。

　キャンパスを前に佇む岬みさき　加奈子かなこ。

　彼女が描くのは死。
　彼女は死を予言する。

　夜明け前が最も暗い。

　そんな言葉があるように死を迎える直前、それが岬加奈子にとって最も美しい瞬間だった。

　死にたくないと嘆き暴れる姿。
　死後に恐れ、徘徊する老婆。
　死の病の苦しさから、解放を願い足掻く者。

　死は美しい。
　とても、とても美しい。

　死の直前。
　解脱を前にした苦痛。
　それは、産道を通る赤子。

　死は生である。
　生は死である。

　美しいのは、死の直前。
　美しいのは、死の刹那。
　美しいのは、脱ぎ捨てられた生。

　だからと言って、自らの手で人を殺した事は無かった。　自らが手を下してしまっては、一気にその生と死が色あせてしまうから。

　だから……岬加奈子にとって、児珠雫との出会いは運命だった。

　呪いの子として連れてこられた児珠雫は、死なない。
　呪いの子として連れてこられた児珠雫は、死そのもの。

　切りつけられても、
　切り分けられても、
　裂かれても、
　開かれても、
　奪われても、

　雫は死なない。

　そう……大人達は雫を幾度となく殺していた。

　雫は死なない。

　雫は死を繰り返す。

　彼女は死ぬ事が出来ないオゾマシイ生物。
　だけれど、彼女は死そのものであり、生の皮を被っているだけ。

　雫は美しい。
　とても、美しい……。

　死であり生である雫は、岬加奈子にとって完璧な存在だった。

　人のふりをした生。

　私には、何時だって雫の本当の姿が見えている……。

　美しくて、美しくて、とても、とても醜い存在。



　愛している。
　私の化け物。





　キャンパスを前に、目を閉ざし雫の死を思い出し見つめていた岬加奈子に1通のメッセージが届いた。



　うす暗い部屋で着信を告げるランプの点灯。
　そして……そこにはこう書かれていた。



　呪いの子が、運命を迎える。
　そして、彼女は愛を手にするだろう。



「何よコレ……質の悪い悪戯ね……」



　メッセージは消された。



　だけれど、岬加奈子は児珠雫の変化を見た。
　それは人らしい変化。

　死んでいる彼女にはありえない変化。
　どんな傷も再生する彼女にはありえない変化。

「雫……なんで、アナタの背中に染みなんてあるの？」

岬　加奈子（みさき　かなこ）