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4章
45.天才絵師 03
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優雅な動作で藤原はコーヒーと、少しお高いコーヒーシュガーの入った瓶をテーブルに置いた。
「晃君、ミルクはどうしますか?」
藤原が晃にだけ聞いたのは、幾度となく新見がお茶を出される立場になっていたからだろう。
どういう関係なんだ?
どれほどの関係なんだ?
信頼できるのか?
未だ晃と新見には信頼と言うものは成立していない。 新見が藤原と懇意であると言う言動を見聞きすれば、何となく騙されたかのような気分になり、存在が確立されていない信頼が揺らぎだす。
「ブラックで」
「そうですか。 ですが、今日だけは気分転換とでも考え、この砂糖を使ってみてはくれませんか。 コーヒーの香りがとてもよくなる。 そして、じっくりと溶ける砂糖が、味に変化を与えてくれるんです」
コーヒー一つに藤原が妙に拘りが強いと思えば、ソレを足蹴にして気分を害したいと言う思いが晃の中に沸き立った。
「俺は折角の香りを楽しみたい」
「おや、晃君は余り良いコーヒーとは縁が無かったのですね。 砂糖はコーヒーを甘くし苦味を抑えるだけでなく、香りも良くしてくれるのですよ。 自慢のコーヒーです、是非、初体験を楽しんでください」
静かに藤原は笑って見せる。
語られる言葉は妙に喧嘩腰のようだが、藤原の佇まいに関しては穏やかで、信頼できると思うべきだろう。 だけれど晃は警戒していた。 信頼を寄せる事が出来なかった。 だが、コーヒー一杯分にグダグダ言うほどでもないだろうと、晃はコーヒーに砂糖を入れる。
晃は、砂糖が溶けている最中のコーヒーを口に含んだ。
「これは、確かに美味しい」
コーヒーの香ばしい香りが鼻孔を駆けあがって行く。
舌先の苦みも適度で心地良いものだった。
「お気に召したようなら、お譲りいたしますよ」
「砂糖をか?」
「いいえ、コーヒーも一緒にです。 砂糖だけを良くしたからと言ってここまでの味を出すのは不可能ですからね」
言われて、晃はゲンナリとでも言う表情を作った。
そして、晃がコーヒーを飲み終える頃、新見が藤原に問いかけた。
「なぜ、面会を拒否されたのか……その説明を願いします。 加奈子君、雫君、この2人は専攻する大学の学部が違いますが、一生出会わない言う訳にはいきません。 雫君を守るようにと命じられている俺達としては、彼女が今後どのように雫君と付き合いをしていくのか、ソレが知りたくてココに来たんです。 例え雫君は死ぬ事が無いにしても、死のショックは小さくはありませんから」
藤原は新見の言葉に耳を傾けながら、ゆったりと大気と踊るかのような優雅さで、自分の分のカップにもコーヒーを注ぎソファに腰を下ろした。
「岬……加奈子君の面会ですが、加奈子君が言うには親良君は構いませんが、晃君とは合わない方が良いだろうと言う事でした」
「俺が何をしたと言うんですか、会った事もなければ、昨日まで名も知らなかった相手ですよ!!」
そんな晃の叫びは無視された。
「加奈子君が狂う原因は晃君アナタだったんですよ」
「だから、何度も同じ事を言わせるな。 俺はそいつを知らない。 イヤ、昨日、貯水槽の脇で見かけたが……風邪をひいて恨まれたとか?」
どこか小ばかにするような言い方を晃はした。
「いいえ……加奈子君がアナタを嫌い憎み恨む理由は、アナタが加奈子君から多くのものを奪うからです。 ソレは友人、ソレは才能、ソレは信頼、ソレは金。 そう、語っておりました」
「だが!! もう一度言わせてもらうが。 俺はそいつと会った事がないし、仕事以上の興味もない。 どこか他の人間と勘違いしているんじゃないのか?」
「例え晃君が違う、会った事がないと何度言っても加奈子君には意味がありません。 なぜなら……加奈子君はアナタの事を予言していたからです。 アナタと言う存在が加奈子君の未来をダメにするだろう……そう加奈子君は予言をしたのです」
「また、予言か?」
晃は不機嫌を露わに素っ気なく返した。
「晃君、ミルクはどうしますか?」
藤原が晃にだけ聞いたのは、幾度となく新見がお茶を出される立場になっていたからだろう。
どういう関係なんだ?
どれほどの関係なんだ?
信頼できるのか?
未だ晃と新見には信頼と言うものは成立していない。 新見が藤原と懇意であると言う言動を見聞きすれば、何となく騙されたかのような気分になり、存在が確立されていない信頼が揺らぎだす。
「ブラックで」
「そうですか。 ですが、今日だけは気分転換とでも考え、この砂糖を使ってみてはくれませんか。 コーヒーの香りがとてもよくなる。 そして、じっくりと溶ける砂糖が、味に変化を与えてくれるんです」
コーヒー一つに藤原が妙に拘りが強いと思えば、ソレを足蹴にして気分を害したいと言う思いが晃の中に沸き立った。
「俺は折角の香りを楽しみたい」
「おや、晃君は余り良いコーヒーとは縁が無かったのですね。 砂糖はコーヒーを甘くし苦味を抑えるだけでなく、香りも良くしてくれるのですよ。 自慢のコーヒーです、是非、初体験を楽しんでください」
静かに藤原は笑って見せる。
語られる言葉は妙に喧嘩腰のようだが、藤原の佇まいに関しては穏やかで、信頼できると思うべきだろう。 だけれど晃は警戒していた。 信頼を寄せる事が出来なかった。 だが、コーヒー一杯分にグダグダ言うほどでもないだろうと、晃はコーヒーに砂糖を入れる。
晃は、砂糖が溶けている最中のコーヒーを口に含んだ。
「これは、確かに美味しい」
コーヒーの香ばしい香りが鼻孔を駆けあがって行く。
舌先の苦みも適度で心地良いものだった。
「お気に召したようなら、お譲りいたしますよ」
「砂糖をか?」
「いいえ、コーヒーも一緒にです。 砂糖だけを良くしたからと言ってここまでの味を出すのは不可能ですからね」
言われて、晃はゲンナリとでも言う表情を作った。
そして、晃がコーヒーを飲み終える頃、新見が藤原に問いかけた。
「なぜ、面会を拒否されたのか……その説明を願いします。 加奈子君、雫君、この2人は専攻する大学の学部が違いますが、一生出会わない言う訳にはいきません。 雫君を守るようにと命じられている俺達としては、彼女が今後どのように雫君と付き合いをしていくのか、ソレが知りたくてココに来たんです。 例え雫君は死ぬ事が無いにしても、死のショックは小さくはありませんから」
藤原は新見の言葉に耳を傾けながら、ゆったりと大気と踊るかのような優雅さで、自分の分のカップにもコーヒーを注ぎソファに腰を下ろした。
「岬……加奈子君の面会ですが、加奈子君が言うには親良君は構いませんが、晃君とは合わない方が良いだろうと言う事でした」
「俺が何をしたと言うんですか、会った事もなければ、昨日まで名も知らなかった相手ですよ!!」
そんな晃の叫びは無視された。
「加奈子君が狂う原因は晃君アナタだったんですよ」
「だから、何度も同じ事を言わせるな。 俺はそいつを知らない。 イヤ、昨日、貯水槽の脇で見かけたが……風邪をひいて恨まれたとか?」
どこか小ばかにするような言い方を晃はした。
「いいえ……加奈子君がアナタを嫌い憎み恨む理由は、アナタが加奈子君から多くのものを奪うからです。 ソレは友人、ソレは才能、ソレは信頼、ソレは金。 そう、語っておりました」
「だが!! もう一度言わせてもらうが。 俺はそいつと会った事がないし、仕事以上の興味もない。 どこか他の人間と勘違いしているんじゃないのか?」
「例え晃君が違う、会った事がないと何度言っても加奈子君には意味がありません。 なぜなら……加奈子君はアナタの事を予言していたからです。 アナタと言う存在が加奈子君の未来をダメにするだろう……そう加奈子君は予言をしたのです」
「また、予言か?」
晃は不機嫌を露わに素っ気なく返した。
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