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4章
44.天才絵師 02
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「予知?」
何処か馬鹿にしたかのような晃の返しは、駐車場に車を止め終えた事で流された。
晃自身は、予知や予言などを信用するつもりはない。
日本人の多くがそうであるように、クリスマスにチキンとケーキを食べ、正月に神社に手を合わせるように決して信心深い方ではなく、非現実的な事に対して否定的である。
自分の護衛対象者である雫が呪われている・奇跡を発揮する等と言われても、どんな詐欺女だ? ぐらいにしか考えていなかった。
とは言え、ソレを顔に出さない程度には人生経験を積んできている。
むしろ、田舎の警察所での勤務等、凝り固まった固定概念の持ち主たちの対応が、メインの仕事と言って良い。 それも晃の外見が良いせいか、わざわざご指名までしてくれるのだから、自分の感情を抑える事も慣れると言うものだ。
そう慣れたであって、元々そのような人間ではない。 それでも彼が疑う奇跡や呪いの主である護衛対象者である雫と初めて会った時、不快感を与えるような態度を取らないほどには自制心を持つことが出来た。
面倒臭くて嫌だと思っていたが、たった1日であの平和で退屈な日々が恋しくなるとは……。
晃は無意識で苦笑いを浮かべる。
「何、思い出し笑いをしているんですか……。 車から降りて下さい」
新見に言われ、ばつの悪い思いをする晃だった。
病院の受付。
新見は岬加奈子との面会を求め話を進める。
「少々、お待ちください」
受付女性は新見につげ内線電話を手に取った。
コレは時間がかかりそうだと、晃は他の人達の邪魔にならないよう待合室の壁際に移動しようとしたところ、新見に止められる。
「晃君、そっちでなくて、コッチ」
新見が呼び、指さす方向は病院の奥。
「何処へ?」
「面会には、試験が必要なようです」
「話しをつけてあるとか言っていなかったか?」
「そのつもりだったんですが」
「廊下を、塞がないでくれるかな?」
落ち着いた男の声が背後からかけられた。 うっとりとするようなクラシック音楽のような声だと晃は柄にもなく思った。
「ご無沙汰しております藤原教授」
「助教授ですよ。 まだ。 どうして、君たちの所は皆間違えるのでしょうね」
「それだけ、頼りにしているからですよ」
新見は軽く言いながら、お先にどうぞと手で指し示す。
「いえ、アナタ達に話しがあるのは私です」
静かな落ち着いた声の男に敵意は見られないにも関わらず、新見は苦虫をかみつぶしたかような表情を隠しもしない。 そう、隠さなかった……。 ようするに、新見にとって余り都合の良い人間ではないのだと晃につたえているのだ。
「こちらからお願いしても、忙しいからとなかなか都合をつけてくれない先生が、珍しいですよね」
「幹部に言われれば仕方がありません。 岬加奈子と言う人間をソレだけ重視する者がいると言う事ですよ。 コチラにどうぞ」
会話と共に招かれたのは、彼が所有している部屋で、居心地の良いカフェを連想させる明るく落ち着いた部屋だった。
「さぁ、席に座ってください」
言われるままソファに腰掛ける新見。
晃もまた新見の横に座った。
「余り良い気分ではありませんね」
新見は息苦しそうにネクタイを緩めているが、その気持ちを、まだ晃は理解しきれておらず、藤原と言う男へと視線を向ける。
藤原は優雅にサイフォンを使いコーヒーを入れ始めれば、コーヒーの香りが室内に広がる。
「随分と緊張しているようですね コーヒーの香りにはリラックス効果があります」
「そりゃぁ、緊張して当たり前と言うものですよ。 今まで幾人もの人間の頭の中身が裸にされていく様子を見てきましたからね」
コーヒーの匂いでどうこうなるものかとでも言うような様子で新見は言う。
「安心してください。 親良、君は患者ではありませんから」
藤原は薄く笑う。
「それで、岬加奈子の様態は?」
「せっかちな人には、あわせる訳には行きませんよ。 彼女は未だ混乱状態にありますから……特に、そちらの鞍馬晃君に対して」
そうやって視線を向けられ、晃は無意識のうちに構えていた。
「別にとって食べようと言う訳ではありませんよ。 ただ、少し話をしてそして面会条件を決めようと言うだけの事です」
「アナタだけが俺を知っていると言うのは、不快で不公平に思えますが?」
静かに威嚇をする晃を、帰りの車の中で新見はこう語った。
威嚇する獣のようだったと。
「ここで精神科医を務める藤原法一です。 私の事は、記憶にはありませんか? 晃君」
その言葉は地域に密着していた刑事を父に持つ晃にとって老人達から良く耳にする言葉だったが、奇妙に背中がざわついた。
「いえ……ですが……母が心理学を研究しており、学会にも幾度かついて行った事があるので、その時にお会いしているのかもしれませんね」
適当に思いつく可能性を言葉にしてみたが、藤原は微笑みを浮かべるだけだった。
藤原 法一(ふじわら のりかず)
何処か馬鹿にしたかのような晃の返しは、駐車場に車を止め終えた事で流された。
晃自身は、予知や予言などを信用するつもりはない。
日本人の多くがそうであるように、クリスマスにチキンとケーキを食べ、正月に神社に手を合わせるように決して信心深い方ではなく、非現実的な事に対して否定的である。
自分の護衛対象者である雫が呪われている・奇跡を発揮する等と言われても、どんな詐欺女だ? ぐらいにしか考えていなかった。
とは言え、ソレを顔に出さない程度には人生経験を積んできている。
むしろ、田舎の警察所での勤務等、凝り固まった固定概念の持ち主たちの対応が、メインの仕事と言って良い。 それも晃の外見が良いせいか、わざわざご指名までしてくれるのだから、自分の感情を抑える事も慣れると言うものだ。
そう慣れたであって、元々そのような人間ではない。 それでも彼が疑う奇跡や呪いの主である護衛対象者である雫と初めて会った時、不快感を与えるような態度を取らないほどには自制心を持つことが出来た。
面倒臭くて嫌だと思っていたが、たった1日であの平和で退屈な日々が恋しくなるとは……。
晃は無意識で苦笑いを浮かべる。
「何、思い出し笑いをしているんですか……。 車から降りて下さい」
新見に言われ、ばつの悪い思いをする晃だった。
病院の受付。
新見は岬加奈子との面会を求め話を進める。
「少々、お待ちください」
受付女性は新見につげ内線電話を手に取った。
コレは時間がかかりそうだと、晃は他の人達の邪魔にならないよう待合室の壁際に移動しようとしたところ、新見に止められる。
「晃君、そっちでなくて、コッチ」
新見が呼び、指さす方向は病院の奥。
「何処へ?」
「面会には、試験が必要なようです」
「話しをつけてあるとか言っていなかったか?」
「そのつもりだったんですが」
「廊下を、塞がないでくれるかな?」
落ち着いた男の声が背後からかけられた。 うっとりとするようなクラシック音楽のような声だと晃は柄にもなく思った。
「ご無沙汰しております藤原教授」
「助教授ですよ。 まだ。 どうして、君たちの所は皆間違えるのでしょうね」
「それだけ、頼りにしているからですよ」
新見は軽く言いながら、お先にどうぞと手で指し示す。
「いえ、アナタ達に話しがあるのは私です」
静かな落ち着いた声の男に敵意は見られないにも関わらず、新見は苦虫をかみつぶしたかような表情を隠しもしない。 そう、隠さなかった……。 ようするに、新見にとって余り都合の良い人間ではないのだと晃につたえているのだ。
「こちらからお願いしても、忙しいからとなかなか都合をつけてくれない先生が、珍しいですよね」
「幹部に言われれば仕方がありません。 岬加奈子と言う人間をソレだけ重視する者がいると言う事ですよ。 コチラにどうぞ」
会話と共に招かれたのは、彼が所有している部屋で、居心地の良いカフェを連想させる明るく落ち着いた部屋だった。
「さぁ、席に座ってください」
言われるままソファに腰掛ける新見。
晃もまた新見の横に座った。
「余り良い気分ではありませんね」
新見は息苦しそうにネクタイを緩めているが、その気持ちを、まだ晃は理解しきれておらず、藤原と言う男へと視線を向ける。
藤原は優雅にサイフォンを使いコーヒーを入れ始めれば、コーヒーの香りが室内に広がる。
「随分と緊張しているようですね コーヒーの香りにはリラックス効果があります」
「そりゃぁ、緊張して当たり前と言うものですよ。 今まで幾人もの人間の頭の中身が裸にされていく様子を見てきましたからね」
コーヒーの匂いでどうこうなるものかとでも言うような様子で新見は言う。
「安心してください。 親良、君は患者ではありませんから」
藤原は薄く笑う。
「それで、岬加奈子の様態は?」
「せっかちな人には、あわせる訳には行きませんよ。 彼女は未だ混乱状態にありますから……特に、そちらの鞍馬晃君に対して」
そうやって視線を向けられ、晃は無意識のうちに構えていた。
「別にとって食べようと言う訳ではありませんよ。 ただ、少し話をしてそして面会条件を決めようと言うだけの事です」
「アナタだけが俺を知っていると言うのは、不快で不公平に思えますが?」
静かに威嚇をする晃を、帰りの車の中で新見はこう語った。
威嚇する獣のようだったと。
「ここで精神科医を務める藤原法一です。 私の事は、記憶にはありませんか? 晃君」
その言葉は地域に密着していた刑事を父に持つ晃にとって老人達から良く耳にする言葉だったが、奇妙に背中がざわついた。
「いえ……ですが……母が心理学を研究しており、学会にも幾度かついて行った事があるので、その時にお会いしているのかもしれませんね」
適当に思いつく可能性を言葉にしてみたが、藤原は微笑みを浮かべるだけだった。
藤原 法一(ふじわら のりかず)
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