上 下
46 / 129
4章

43.平和ほど怪しいものはない 02

しおりを挟む
 煙草を吸い終わり、壁に空いた穴を通る。

「どうして、穴が広がっているんですか!! 治すには人を入れなければいけないんですよ。 今の状況下では、人選だって時間がかかると言うのに」

「はいはい、だが、少し穴が広がって位で文句を言うな。 それに便利なんだから」

「便利って言うのは、不便を実感してから言うモノですよ」

「いや、新見が言う今の状況下だから、余計に都合が良いだろうと言っているんだ」

 再び始まった新見の説教と言うか言い合い。
 2人は、雫の部屋のダイニングキッチンへと向かう。

 彼女の拘りなのか? キッチンと向かい合うカウンター形式のテーブルと、それとは別に4人掛けようのテーブルと椅子があった。 雫の部屋は晃のものよりダイニングキッチンの分だけ広いらしい。

「朝ごはん?」

 晃が調理中の雫に聞く。

「えぇ、朝食を食べる習慣はありませんか?」

 台所に立つ雫と出来た物から運ぶ颯太。 そして、新見も手伝いを始め、キッチンは人数オーバー。 仕方なく晃は食卓の1席を陣取り、平和としか言いようのない景色を眺めながら応える。

「いや、食堂で済ませるものだと思っていた」

 晃の質問に答えたのは新見だった。

「昨日命を狙われ、内部の人間に襲われ……まぁ、その後も色々ありましたし、雫ちゃんには少しの間人目につく事を避けてもらう事にしました」

「外に出るなと?」

「そんな息の詰まる事は言いませんよ。 ただ、雫ちゃんはボスに命じられて幼い頃から、食堂の手伝いから彼方此方で手伝いをしていたんです。 将来外に出る事になった場合、自分の世話ぐらいは自分で出来るようになった方がいいと言ってね。 その手伝いをお休みするだけですよ」

 新見が説明をする。

「ふぅん」

「納得いかないとでも言いたそうな返事ですね」

「俺はココの事情を知らないから、反応に困っているだけだ」

 新見は苦笑し会話は一旦止まった。



 朝食は、ご飯、豆腐の味噌汁。 ネギが嫌いな人間がいるのか、別皿に分けてあった。 他には、ホウレンソウと切り干し大根の煮びたし。 後は好きなように取れと言うように、中央にドンッと卵焼き、小分けサイズの焼き鮭、ウインナーが出されている。

「随分と……豪華だな」

 品数も多く思えたが、何より量自体が多い。 僅かな躊躇いの言葉から雫は言いたい事を読み取ったのだろう。

「朝食には、タンパク質を沢山取るのが良いらしいの」

「……なるほど……」

 苦笑しながら、雫の方を見れば頬を薄く染め視線が逸らされた。 どういう事なのだろうか? と考えれば、雫本人が種明かしをする。

「本当は、食堂の手伝いをしているせいかしら? 少人数だと分量が分からなくなってしまうの。 残った分は、お昼に食べますから、適量を取ってください……」

「僕も一緒に食べるから、沢山残してくれていいよ」

「なら、俺も……」

「雫ちゃんの護衛役を颯太にさせるんですよ。 多分、俺と晃君は昼は外食ですね」

「大丈夫なのか?」

「何がですか?」

「颯太が護衛で」

「あ~~!! 失礼だなぁ、ちゃんと命に代えてもまもりますよ~だ!」

「治せるからって、ソレは止めて下さい。 痛いのは見ているだけでも……辛いですから」

「えっと、ごめんね。 心構え、そう、心構えの問題だから」

「まぁ、警備部全体の防犯レベルを上げていますから、問題はないでしょう」

 他にも本庄の信奉者と言う者がいるのでは? と、思ったが、もしそういう人間が何かをするなら、その対象は雫となると思われ……新見が、わざわざ洗面所まで来て話をしたのも、ソレを雫に知らせないためかと納得……納得はいかなかった。

 溜息をつけば、不安そうに雫が見ていて

「お口に合いませんか?」

「いや、美味いよ」

「僕、雫さんの卵焼き好きなんですよねぇ~。 なので、沢山残してくれて良いですよ~」

 両手を広げ笑顔で颯太が言えば、晃と新見が同時に卵焼きに手を出すのだった。



 そして拗ねる颯太と、笑いあう3人。



 それは、

 不自然なほどの平和な景色。

 自然過ぎるほどに不自然で、まるで何もなかったように笑っている。



 考えすぎだな……どっちも雫には犯行は無理だ。



 エリィに居たのと同じように……命をかけても良いと考える信奉者が居ない限り……そんな事を考える晃の視線の先には、卵焼きが取られたと不貞腐れる颯太がいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

401号室

ツヨシ
ホラー
その部屋は人が死ぬ

無名の電話

愛原有子
ホラー
このお話は意味がわかると怖い話です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

もうすぐ大曲がりですね

島倉大大主
ホラー
もうすぐ大曲ですね。 俺の隣に座っている女はそう言った。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

処理中です...