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4章
43.平和ほど怪しいものはない 02
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煙草を吸い終わり、壁に空いた穴を通る。
「どうして、穴が広がっているんですか!! 治すには人を入れなければいけないんですよ。 今の状況下では、人選だって時間がかかると言うのに」
「はいはい、だが、少し穴が広がって位で文句を言うな。 それに便利なんだから」
「便利って言うのは、不便を実感してから言うモノですよ」
「いや、新見が言う今の状況下だから、余計に都合が良いだろうと言っているんだ」
再び始まった新見の説教と言うか言い合い。
2人は、雫の部屋のダイニングキッチンへと向かう。
彼女の拘りなのか? キッチンと向かい合うカウンター形式のテーブルと、それとは別に4人掛けようのテーブルと椅子があった。 雫の部屋は晃のものよりダイニングキッチンの分だけ広いらしい。
「朝ごはん?」
晃が調理中の雫に聞く。
「えぇ、朝食を食べる習慣はありませんか?」
台所に立つ雫と出来た物から運ぶ颯太。 そして、新見も手伝いを始め、キッチンは人数オーバー。 仕方なく晃は食卓の1席を陣取り、平和としか言いようのない景色を眺めながら応える。
「いや、食堂で済ませるものだと思っていた」
晃の質問に答えたのは新見だった。
「昨日命を狙われ、内部の人間に襲われ……まぁ、その後も色々ありましたし、雫ちゃんには少しの間人目につく事を避けてもらう事にしました」
「外に出るなと?」
「そんな息の詰まる事は言いませんよ。 ただ、雫ちゃんはボスに命じられて幼い頃から、食堂の手伝いから彼方此方で手伝いをしていたんです。 将来外に出る事になった場合、自分の世話ぐらいは自分で出来るようになった方がいいと言ってね。 その手伝いをお休みするだけですよ」
新見が説明をする。
「ふぅん」
「納得いかないとでも言いたそうな返事ですね」
「俺はココの事情を知らないから、反応に困っているだけだ」
新見は苦笑し会話は一旦止まった。
朝食は、ご飯、豆腐の味噌汁。 ネギが嫌いな人間がいるのか、別皿に分けてあった。 他には、ホウレンソウと切り干し大根の煮びたし。 後は好きなように取れと言うように、中央にドンッと卵焼き、小分けサイズの焼き鮭、ウインナーが出されている。
「随分と……豪華だな」
品数も多く思えたが、何より量自体が多い。 僅かな躊躇いの言葉から雫は言いたい事を読み取ったのだろう。
「朝食には、タンパク質を沢山取るのが良いらしいの」
「……なるほど……」
苦笑しながら、雫の方を見れば頬を薄く染め視線が逸らされた。 どういう事なのだろうか? と考えれば、雫本人が種明かしをする。
「本当は、食堂の手伝いをしているせいかしら? 少人数だと分量が分からなくなってしまうの。 残った分は、お昼に食べますから、適量を取ってください……」
「僕も一緒に食べるから、沢山残してくれていいよ」
「なら、俺も……」
「雫ちゃんの護衛役を颯太にさせるんですよ。 多分、俺と晃君は昼は外食ですね」
「大丈夫なのか?」
「何がですか?」
「颯太が護衛で」
「あ~~!! 失礼だなぁ、ちゃんと命に代えてもまもりますよ~だ!」
「治せるからって、ソレは止めて下さい。 痛いのは見ているだけでも……辛いですから」
「えっと、ごめんね。 心構え、そう、心構えの問題だから」
「まぁ、警備部全体の防犯レベルを上げていますから、問題はないでしょう」
他にも本庄の信奉者と言う者がいるのでは? と、思ったが、もしそういう人間が何かをするなら、その対象は雫となると思われ……新見が、わざわざ洗面所まで来て話をしたのも、ソレを雫に知らせないためかと納得……納得はいかなかった。
溜息をつけば、不安そうに雫が見ていて
「お口に合いませんか?」
「いや、美味いよ」
「僕、雫さんの卵焼き好きなんですよねぇ~。 なので、沢山残してくれて良いですよ~」
両手を広げ笑顔で颯太が言えば、晃と新見が同時に卵焼きに手を出すのだった。
そして拗ねる颯太と、笑いあう3人。
それは、
不自然なほどの平和な景色。
自然過ぎるほどに不自然で、まるで何もなかったように笑っている。
考えすぎだな……どっちも雫には犯行は無理だ。
エリィに居たのと同じように……命をかけても良いと考える信奉者が居ない限り……そんな事を考える晃の視線の先には、卵焼きが取られたと不貞腐れる颯太がいた。
「どうして、穴が広がっているんですか!! 治すには人を入れなければいけないんですよ。 今の状況下では、人選だって時間がかかると言うのに」
「はいはい、だが、少し穴が広がって位で文句を言うな。 それに便利なんだから」
「便利って言うのは、不便を実感してから言うモノですよ」
「いや、新見が言う今の状況下だから、余計に都合が良いだろうと言っているんだ」
再び始まった新見の説教と言うか言い合い。
2人は、雫の部屋のダイニングキッチンへと向かう。
彼女の拘りなのか? キッチンと向かい合うカウンター形式のテーブルと、それとは別に4人掛けようのテーブルと椅子があった。 雫の部屋は晃のものよりダイニングキッチンの分だけ広いらしい。
「朝ごはん?」
晃が調理中の雫に聞く。
「えぇ、朝食を食べる習慣はありませんか?」
台所に立つ雫と出来た物から運ぶ颯太。 そして、新見も手伝いを始め、キッチンは人数オーバー。 仕方なく晃は食卓の1席を陣取り、平和としか言いようのない景色を眺めながら応える。
「いや、食堂で済ませるものだと思っていた」
晃の質問に答えたのは新見だった。
「昨日命を狙われ、内部の人間に襲われ……まぁ、その後も色々ありましたし、雫ちゃんには少しの間人目につく事を避けてもらう事にしました」
「外に出るなと?」
「そんな息の詰まる事は言いませんよ。 ただ、雫ちゃんはボスに命じられて幼い頃から、食堂の手伝いから彼方此方で手伝いをしていたんです。 将来外に出る事になった場合、自分の世話ぐらいは自分で出来るようになった方がいいと言ってね。 その手伝いをお休みするだけですよ」
新見が説明をする。
「ふぅん」
「納得いかないとでも言いたそうな返事ですね」
「俺はココの事情を知らないから、反応に困っているだけだ」
新見は苦笑し会話は一旦止まった。
朝食は、ご飯、豆腐の味噌汁。 ネギが嫌いな人間がいるのか、別皿に分けてあった。 他には、ホウレンソウと切り干し大根の煮びたし。 後は好きなように取れと言うように、中央にドンッと卵焼き、小分けサイズの焼き鮭、ウインナーが出されている。
「随分と……豪華だな」
品数も多く思えたが、何より量自体が多い。 僅かな躊躇いの言葉から雫は言いたい事を読み取ったのだろう。
「朝食には、タンパク質を沢山取るのが良いらしいの」
「……なるほど……」
苦笑しながら、雫の方を見れば頬を薄く染め視線が逸らされた。 どういう事なのだろうか? と考えれば、雫本人が種明かしをする。
「本当は、食堂の手伝いをしているせいかしら? 少人数だと分量が分からなくなってしまうの。 残った分は、お昼に食べますから、適量を取ってください……」
「僕も一緒に食べるから、沢山残してくれていいよ」
「なら、俺も……」
「雫ちゃんの護衛役を颯太にさせるんですよ。 多分、俺と晃君は昼は外食ですね」
「大丈夫なのか?」
「何がですか?」
「颯太が護衛で」
「あ~~!! 失礼だなぁ、ちゃんと命に代えてもまもりますよ~だ!」
「治せるからって、ソレは止めて下さい。 痛いのは見ているだけでも……辛いですから」
「えっと、ごめんね。 心構え、そう、心構えの問題だから」
「まぁ、警備部全体の防犯レベルを上げていますから、問題はないでしょう」
他にも本庄の信奉者と言う者がいるのでは? と、思ったが、もしそういう人間が何かをするなら、その対象は雫となると思われ……新見が、わざわざ洗面所まで来て話をしたのも、ソレを雫に知らせないためかと納得……納得はいかなかった。
溜息をつけば、不安そうに雫が見ていて
「お口に合いませんか?」
「いや、美味いよ」
「僕、雫さんの卵焼き好きなんですよねぇ~。 なので、沢山残してくれて良いですよ~」
両手を広げ笑顔で颯太が言えば、晃と新見が同時に卵焼きに手を出すのだった。
そして拗ねる颯太と、笑いあう3人。
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考えすぎだな……どっちも雫には犯行は無理だ。
エリィに居たのと同じように……命をかけても良いと考える信奉者が居ない限り……そんな事を考える晃の視線の先には、卵焼きが取られたと不貞腐れる颯太がいた。
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