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3章
40.何でもない特別な夜 02
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晃は着替え手にしながら、スリッパを颯太の足元に置いた。
「几帳面だね」
「引っ越してきたばかりの部屋を、血まみれにしたくないんだよ」
「気にしなくても、掃除してもらえるよ」
着替えを受け取ろうとする颯太の動作に晃は違和感を覚えた。
「おい」
声をかけながら晃が颯太の肩に手をかければ、颯太は表情をしかめた。 ニコヤカで人懐っこい人物像が大きく崩れ、凶悪とも言える表情が一瞬だが表に現れる。 だが、それも振り返る頃には消えていた。
「な、に、するの!!」
颯太の声が上ずっている。
「オマエ、ケガをしているだろう」
「大した事ないよ。 それとも、僕と一緒に風呂に入りたくて理由をでっち上げている?」
「ふざけんな!! ほれ、脱げ。 治療はしてあるのか?」
平気だ、脱げ、見せろ、だから平気だってばぁ、そんな言葉を繰り返すが、やがて颯太の方が諦めた。
「一応、神経は避けてくれたみたいです……」
そう告げた後の颯太の表情は、幼く拗ねながらも困惑しているように見え、晃は颯太の不安定さとして認識した。
「まぁ、とにかく見せろ」
Tシャツをめくり上げようとすれば、颯太が控えめながら叫ぶ振りをする。
「きゃぁあああ!! エッチ!!」
「騒ぐな、雫が起きる」
「ぁ、ごめんなさい」
晃は颯太をソファに座らせようとするが、座らせる前にタオルをソファの上に敷くから、颯太はもう一度同じ言葉を繰り返す。
「本当、几帳面だね」
今度は疑問としてではなく、カラカウように。
「へいへい。 ほれ、バンザ~イってしろ」
「僕は子供ですか?」
その言葉こそむずがる子供のようで、晃は何処からともなく持ってきたハサミでTシャツを切って行く。 颯太の両肩部分が分厚いガーゼに抑えられていたが、そのガーゼ自体が赤く染まっていた。
「コレが治療?」
苦々しい表情を浮かべた晃が、颯太を睨みつける。
「僕にも色々あるんですよ!!」
とは言うが、本庄を逃がした失態から、雫を恋しがっただけの事。
あと、お説教から逃げ出した。
だからと言って雫を起こす気もなくて、今の颯太にとって晃の存在は程よい救いとなっている。
「あぁ、もう……、救急箱は何処だ……」
未だ荷解きがされていない積み上げられた箱。 一応側面に中身を示す文字が書かれており確認をしていると、眠そうな声で穴からヒョコッと雫が顔をだした。
「何かあったんですか?」
「あぁ」
そう返事をしたのは晃で、ケガをした颯太は慌てて気配を消して絨毯の上に座り込み、ソファの影に隠れる。
「絨毯が汚れる」
そう晃が言えば、晃の視線の先を雫の視線が追いかけ、小さくお邪魔しますと呟きながら、穴を通り抜け晃の部屋に訪れる。 ソファの影にかくれ座り込み、ハサミで切られボロボロの元Tシャツを着て、両肩から血をダラダラと流す颯太を雫は見つけた。
「まぁ……」
「えへ、その寝巻カワイイね」
誤魔化したような笑みと共に颯太は言うが、雫はソレを完全に無視していた。
「痛いでしょう」
そっと伸ばされる白い手。
「触らないで!!」
「痛いの?」
「……血に濡れてしまうから……」
泣きそうになりながらつぶやく颯太の言葉に、雫は笑って見せた。 だけれど、その表情は、何処か悲しそうに見える。
「平気よ。 血には慣れていますもの」
ガーゼをはぐれば、グチャグチャにかき混ぜられた肩に雫も晃も顔をしかめた。 これでは満足に両手を動かす事も出来ないだろう。
「僕だって平気だよ。 上司ほどじゃないけど、痛みには強いから……」
颯太は拗ねながらも、そういう子供のような反応をしてしまう自分が嫌で……だけど、自分を心配してくれている雫の存在が嬉しかった。
雫は尋ねる事無く、床の上に座り込む颯太の膝上に、膝を乗せる形でしゃがみ傷に触れ、その唇を傷口に近づけようとするが、そんな雫を動かしにくい手で避けようとし颯太は呻く。
「ダメだよ。 雫さん……」
「このままだと痛いでしょう」
そんな2人の会話に晃は問う。
「何をしようとしているんだ?」
「えっと、私の唾液にも回復効果があるんです」
ようするに舐めて治癒を促そうとしていると……それが分かった晃は……、殆ど力が入らない、自力で動かす事が難しいだろう颯太の両手を掴んで万歳させた。
「つっ!! ちょっと、何するんだよ」
「さぁ、雫やるんだ」
「お手伝いありがとうございます」
晃の協力に雫はクスッと笑い、晃も笑い返す。
晃の行為は治療を速やかにするため……も、あるが……。 実のところ颯太の股間のものが反応しているのが気にかかり、未然に対処しようと考えたのもあった。
雫の白く細い指先が、颯太の身体に触れた。
「うっ……」
颯太は泣きそうな顔で顔を赤らめ、雫から顔をそむけ……晃は報われない颯太の思いを理解し苦笑する。
「几帳面だね」
「引っ越してきたばかりの部屋を、血まみれにしたくないんだよ」
「気にしなくても、掃除してもらえるよ」
着替えを受け取ろうとする颯太の動作に晃は違和感を覚えた。
「おい」
声をかけながら晃が颯太の肩に手をかければ、颯太は表情をしかめた。 ニコヤカで人懐っこい人物像が大きく崩れ、凶悪とも言える表情が一瞬だが表に現れる。 だが、それも振り返る頃には消えていた。
「な、に、するの!!」
颯太の声が上ずっている。
「オマエ、ケガをしているだろう」
「大した事ないよ。 それとも、僕と一緒に風呂に入りたくて理由をでっち上げている?」
「ふざけんな!! ほれ、脱げ。 治療はしてあるのか?」
平気だ、脱げ、見せろ、だから平気だってばぁ、そんな言葉を繰り返すが、やがて颯太の方が諦めた。
「一応、神経は避けてくれたみたいです……」
そう告げた後の颯太の表情は、幼く拗ねながらも困惑しているように見え、晃は颯太の不安定さとして認識した。
「まぁ、とにかく見せろ」
Tシャツをめくり上げようとすれば、颯太が控えめながら叫ぶ振りをする。
「きゃぁあああ!! エッチ!!」
「騒ぐな、雫が起きる」
「ぁ、ごめんなさい」
晃は颯太をソファに座らせようとするが、座らせる前にタオルをソファの上に敷くから、颯太はもう一度同じ言葉を繰り返す。
「本当、几帳面だね」
今度は疑問としてではなく、カラカウように。
「へいへい。 ほれ、バンザ~イってしろ」
「僕は子供ですか?」
その言葉こそむずがる子供のようで、晃は何処からともなく持ってきたハサミでTシャツを切って行く。 颯太の両肩部分が分厚いガーゼに抑えられていたが、そのガーゼ自体が赤く染まっていた。
「コレが治療?」
苦々しい表情を浮かべた晃が、颯太を睨みつける。
「僕にも色々あるんですよ!!」
とは言うが、本庄を逃がした失態から、雫を恋しがっただけの事。
あと、お説教から逃げ出した。
だからと言って雫を起こす気もなくて、今の颯太にとって晃の存在は程よい救いとなっている。
「あぁ、もう……、救急箱は何処だ……」
未だ荷解きがされていない積み上げられた箱。 一応側面に中身を示す文字が書かれており確認をしていると、眠そうな声で穴からヒョコッと雫が顔をだした。
「何かあったんですか?」
「あぁ」
そう返事をしたのは晃で、ケガをした颯太は慌てて気配を消して絨毯の上に座り込み、ソファの影に隠れる。
「絨毯が汚れる」
そう晃が言えば、晃の視線の先を雫の視線が追いかけ、小さくお邪魔しますと呟きながら、穴を通り抜け晃の部屋に訪れる。 ソファの影にかくれ座り込み、ハサミで切られボロボロの元Tシャツを着て、両肩から血をダラダラと流す颯太を雫は見つけた。
「まぁ……」
「えへ、その寝巻カワイイね」
誤魔化したような笑みと共に颯太は言うが、雫はソレを完全に無視していた。
「痛いでしょう」
そっと伸ばされる白い手。
「触らないで!!」
「痛いの?」
「……血に濡れてしまうから……」
泣きそうになりながらつぶやく颯太の言葉に、雫は笑って見せた。 だけれど、その表情は、何処か悲しそうに見える。
「平気よ。 血には慣れていますもの」
ガーゼをはぐれば、グチャグチャにかき混ぜられた肩に雫も晃も顔をしかめた。 これでは満足に両手を動かす事も出来ないだろう。
「僕だって平気だよ。 上司ほどじゃないけど、痛みには強いから……」
颯太は拗ねながらも、そういう子供のような反応をしてしまう自分が嫌で……だけど、自分を心配してくれている雫の存在が嬉しかった。
雫は尋ねる事無く、床の上に座り込む颯太の膝上に、膝を乗せる形でしゃがみ傷に触れ、その唇を傷口に近づけようとするが、そんな雫を動かしにくい手で避けようとし颯太は呻く。
「ダメだよ。 雫さん……」
「このままだと痛いでしょう」
そんな2人の会話に晃は問う。
「何をしようとしているんだ?」
「えっと、私の唾液にも回復効果があるんです」
ようするに舐めて治癒を促そうとしていると……それが分かった晃は……、殆ど力が入らない、自力で動かす事が難しいだろう颯太の両手を掴んで万歳させた。
「つっ!! ちょっと、何するんだよ」
「さぁ、雫やるんだ」
「お手伝いありがとうございます」
晃の協力に雫はクスッと笑い、晃も笑い返す。
晃の行為は治療を速やかにするため……も、あるが……。 実のところ颯太の股間のものが反応しているのが気にかかり、未然に対処しようと考えたのもあった。
雫の白く細い指先が、颯太の身体に触れた。
「うっ……」
颯太は泣きそうな顔で顔を赤らめ、雫から顔をそむけ……晃は報われない颯太の思いを理解し苦笑する。
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