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2章

27.素人による触診

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 児珠雫の寝室では、布団に包まれた雫をベッドの上で抱きしめている晃の姿があった。

「何をしているのか聞いて良いですか?」

 静かに、何処までも礼儀正しく新見は聞いた。

「落ち着かせている? のかな?」

 晃の返事が疑問形なのは、雫の鼓動が静まらないから。

「何故、疑問形なんですか」

「そうだなぁ……寝かしつけるのに新見が子守歌でも歌うってのはどうだ?」

「歌いたいなら勝手に歌えば良いと思うけど、ソレはあとにしてください。 雫ちゃん。 背中、見せてくれるかな?」

 布団の中で首が大きく振っているのだろうと言うのが分かる。

「無理強いは良くないだろう?」

「まぁ、ソレで納得してあげたい所だけど、ダメです!! あと、晃君。 自分ばかり良い人ぶらないでください」

 新見が雫を包んだ布団をひっぺがえそうとすれば、布団と共に雫が持ち上がり、そして雫だけが落ちて来た。 殆ど脱げ落ちた着物と共に。

 ころりと転がり落ちた雫は、無言のままに布団を返せと手を伸ばしてきた。 帯は一応身体に巻きついているが、余り意味はなしていない。

「ぁ……パンツって履いているんだ」

 晃の言葉に慌てて、はだけた着物の前を閉じる雫だった。

「ばかぁあ……」

 力ない罵倒と、ベッドの上に座ったままで雫は晃の太ももに蹴りを入れる。

「元気そうでよかった」

 蹴ってくる足を雫の足を晃は掴み上げれば、雫はバランスを崩しベッドの上に倒れ込み。 ダメ押しのように晃は雫の足の甲に口づける。

「なんななんにをするんですか!!」

 顔を真っ赤にする雫の足を離し、晃は雫を抱きしめ着物を脱がせ、その背中を新見に見せつけた。 腕の中でもがく雫の力は弱く、か細い泣き声が漏れ落ちていた。

「いつから、なんですか?」

 背中に大きく広がる痣を見て唖然とした新見が問えば、雫はおずおずと返事をした。

「……背中は自分で見ないから、分からない……ただ、加奈子が1月ほど前から背中を気にし始めたの。 だから……多分、それくらい……だと思う……」

「体調は?」

「良いです。 何時もよりずっと」

「体力的なものは?」

「もともと、余り動かないから、分かりません」

「触れた感じは?」

「なんか、もぞもぞする?」

「ソレは、触れられれば普通だろう」

 晃が割って入る。

「触ってもいいですか?」

「セクハラ」

 これも晃。

「……裸の子を抱きしめている人に言われたくありませんね」

 新見の言葉に現状を思い出した雫がじたばたと抵抗するが、軽く両腕を回し閉じ込めているだけの晃の腕から雫は逃れる事が出来なかった。

 不思議……。

「動けないのですが?」

「凄いだろう?」

 そう晃は笑って見せ、その隙をついて新見が背に触れた。 遠慮がちに指先が触れれば、雫の身体がビクッと震える。

「んっ?」

 新見が眉根を寄せた。

 指先で触れていたが、手の平でガッツリと雫の背を撫でる。 ビクッとしながら雫は晃に抱き着き、晃は声に出さずに笑いながら、様子のオカシイ新見に聞いた。

「どうかしたのか?」

「いや……俺がおかしいんでしょうか? 見た目と触り心地が違うんですよ」

「はっ?」

 わしゃわしゃと晃が遠慮なく背を触れば、ひぃいいいと言う感じで雫が背筋を伸ばした。

「しっかりと抱き着いていないと胸が見えるぞ」

「……」

 沈む雫を無視して、背中を撫で晃は考え込む。

「鳥の羽毛?」

「あぁ、そう言われれば……そんな感じかもしれません」

 容赦なく2人に触り倒され、諦めの境地に至る雫。

 切られて、裂かれて、引き出されるよりも……全然平気なんですから……と、思うのに、なぜか、それ以上に、特別な事のようで嫌なのに、嫌じゃない訳の分からない感覚に混乱していた。

「コレは……分野的には、医療ではなくオカルトですかねぇ……。 報告はボスが戻ってからでいいでしょう。 晃君は、その間シッカリこの子を守ってください」

「まぁ、ソレはいいが……。 壁はどうする?」

「……守りやすくていいんじゃないですか……」

 そう答える新見は、どこか投げやりだった。





 そして……、その頃。

 薄暗いレンガ作りの無骨な部屋では、鼻歌交じりに、本庄の腕に注射を打っている颯太少年の姿があった。


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