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2章

19.良い子の正体 01

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 ヒィッ!

 何処からともなく、恐怖の混じった声が聞こえてきた。
 そして……人の気配が1人、また1人と遠ざかろうとしている。

「ちょっ、何よ……皆悔しくないの?!」

 一人残される本庄は慌てて、目に見えない場所にる人々に声をかける。

 3人が戻る前、本庄は情に訴え味方を得ようとした。
 そして他の者達は、情に訴える本庄を利用しようとしていたのだろう。

 晃はそう考えた。

「雫……」

「ぁ、はい」

「大丈夫か?」

「……えぇ……」

「顔色が悪い。 もう、休んではどうか?」

 部屋に戻っては、視線を動かし伝えようとした。

「で(も)……」

 シーと晃は人差し指で雫の口元を塞ぎ、耳元に囁く。

「感情を乱すな……カラスが怖いからではなく、人に隙を見せるな」

 そのまま晃は雫の後頭部に手を回し、抱き寄せ、頭を撫でる。 丁度、雫に晃の心音を利かせるように、幼い子が穏やかな心音を聞き落ち着く様子を再現したつもりの晃の行動だったが、雫の顔は真っ赤に染まっていた。

「ぅ、ぁ、その……」

「どうか、したのか?」

「いいえ……」

「そうか……。 今去って行った奴等は、雫をイジメた奴等に情があった訳ではないようだな。 どちらかと言えば、皎一さんが言っていた金のためか、スパイなのか……。 だから、雫、アイツらが何か言おうと意味はないと言う事を忘れるな」

「ふぁい」

 混乱でぐらぐらしながら雫は返事をするが、その理由を晃は分かっていない。

「どうした? 顔が赤いし涙ぐんで……体調が悪いのか?」

「ちょ、兄さん兄さん」

 呆れたように言うのは新見。

「アンタに兄さんって言われる筋合いはないんだが」

「いや、距離感がオカシイから」

「ぁ、そうだな。 年ごろの女の子には不快だったか」

 無言で雫は首を横にブンブンと振り、服に縋りついた。

「……雫ちゃんの感情に、何が危険かって、アンタのようですけど?!」

 新見の突っ込みに、晃は呆れたように視線だけで語る。

 オマエハナニヲイッテイル。

「呑気なもんね、人を殺しておいて」

 本庄の言葉に、まだ言うのかと晃が睨めば、周囲に響くようにパンッと言う小気味の良い音が響いた。

「っつ」

 新見が両手で自分の両頬を打った音だった。

「アンタ、何をしているんだ?」

「いや、曇っていた自分にリセットをかけようってね。 雫ちゃん、動揺の余り責めてしまってゴメンね」

 新見は晃の後ろに隠れるようになっている雫に勢いよく頭を下げ言えば、小さく雫は笑って見せた。

「平気……親良は、私を責めてはいなかったから。 それに……晃さんがいたし……」

 責める対象は皎一に限定されており、少なからず雫のショックへの配慮は残っていたから良いのだと言う意味で雫は言う。

 そして新見は本庄に向かう。

「エリィ、アレ等はココでは大人しく良い子とされていました。 だけどソレは勉強も、喧嘩も周囲にはかなわないと自覚をしていたからです」



 後に晃が新見から聞く、死者たちの人柄、評価はこのようなものだった……。
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