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1章
05.カラスの導く先 04
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車に戻る途中、泣き叫び続けている本庄に金色に髪を染めた青年が声をかけていた。
「エリィ、鍵を寄越してください。 車は俺が乗って帰ります。 貴方は生存者についていくように」
そう低く落ち着いた様子で告げれば、
「生存者?」
叫び続け枯れた声で本庄が青年に問いかけ振り返る。
「はい」
手を出し鍵を催促する青年にコクコクと本庄は頷き、鍵を押し付けるように渡す。
「ど、何処なの?!」
「救急隊員が対応しています」
青年はそう言いながら、本庄から受け取った鍵を晃に放り渡した。
「アナタは先に行って、雫ちゃんを温めておいてください」
「この場合、温めるのは車ではないのか?」
青年は苦笑いと共に肩を竦めた。
肩に担いだ雫と呼ばれた少女は、未だ身動きはしないが鼓動は強く動き出し、徐々にぬくもりを取り戻していて晃は安堵の息を小さく吐く。
「早く車に行こう」
車の所までくれば、既にエンジンがかかっていた。
「良い車乗ってんな……」
後部座席の扉を開き、中に少女を放り込もうとすれば微かな抵抗があった。
「……車が、濡れてしまいます」
「一応、防水性のコートだ。 車は問題ない。 心配するな」
微かな身じろぎはあるが、ソレを無視した晃は少女を後部座敷に座らせ、晃はボンネットを開き、引っ越し用にまとめた手荷物の中からタオルと……シャツ、ズボンを眺め見て、結局のところ簡単に着替えられるセーターとズボンを引っ張り出す。
「外にいるから、身体を拭いて着替えろ。 出来るな? 新しいものではないが、洗濯はしてある」
「うっ、ぁ、その……買って、返しますね」
綺麗な顔が歪み、朦朧した瞳は未だ焦点はあわない。 それでも震えた唇は僅かに動きシッカリと返事を返していた。
「気にするな。 そんなに高い物じゃない。 それより、アイツ遅いな。 場所が分かれば、勝手に先に行くんだが」
冗談だと思われたのか、少女の口元は密かに笑っていた。
「そんな事、エリィが泣きます……。 欲しかった車を手に入れた時は、酒盛りをする程喜んでいたんですから」
「仲が良いのか?」
「同じ建物に住んでいるので……」
「そうか」
そして晃は、車から少し離れ胸ポケットから煙草を取り出し火をつけた。
濡れたズボンと靴が気持ち悪いが、1日分の着替えしか持ってきていないから仕方なく、濡れた靴から水を出し、ズボンの裾を絞っていれば、カラスが数羽寄ってきた。
うわぁ……。
危機意識と共にカラスを見れば羽根繕いに励んでおり、危険な様子は見られないが、奇妙な泣き声を繰り返しやがてソレは言葉になった。
『あっぁっ、ぁっ、りが、とう』
危害が無いと思って良いのか? まぁ……大量に集まられたらどうにもできないんだが、と思いながらも、晃は気にしていない素振りを向ける。
「いや……」
その間に救急車が2台去って、追加でもう1台来る頃、車の扉が開かれ声がかけられた。
「あの、着替えが終わりました」
新見 親良(にいみ しんら)
「エリィ、鍵を寄越してください。 車は俺が乗って帰ります。 貴方は生存者についていくように」
そう低く落ち着いた様子で告げれば、
「生存者?」
叫び続け枯れた声で本庄が青年に問いかけ振り返る。
「はい」
手を出し鍵を催促する青年にコクコクと本庄は頷き、鍵を押し付けるように渡す。
「ど、何処なの?!」
「救急隊員が対応しています」
青年はそう言いながら、本庄から受け取った鍵を晃に放り渡した。
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「この場合、温めるのは車ではないのか?」
青年は苦笑いと共に肩を竦めた。
肩に担いだ雫と呼ばれた少女は、未だ身動きはしないが鼓動は強く動き出し、徐々にぬくもりを取り戻していて晃は安堵の息を小さく吐く。
「早く車に行こう」
車の所までくれば、既にエンジンがかかっていた。
「良い車乗ってんな……」
後部座席の扉を開き、中に少女を放り込もうとすれば微かな抵抗があった。
「……車が、濡れてしまいます」
「一応、防水性のコートだ。 車は問題ない。 心配するな」
微かな身じろぎはあるが、ソレを無視した晃は少女を後部座敷に座らせ、晃はボンネットを開き、引っ越し用にまとめた手荷物の中からタオルと……シャツ、ズボンを眺め見て、結局のところ簡単に着替えられるセーターとズボンを引っ張り出す。
「外にいるから、身体を拭いて着替えろ。 出来るな? 新しいものではないが、洗濯はしてある」
「うっ、ぁ、その……買って、返しますね」
綺麗な顔が歪み、朦朧した瞳は未だ焦点はあわない。 それでも震えた唇は僅かに動きシッカリと返事を返していた。
「気にするな。 そんなに高い物じゃない。 それより、アイツ遅いな。 場所が分かれば、勝手に先に行くんだが」
冗談だと思われたのか、少女の口元は密かに笑っていた。
「そんな事、エリィが泣きます……。 欲しかった車を手に入れた時は、酒盛りをする程喜んでいたんですから」
「仲が良いのか?」
「同じ建物に住んでいるので……」
「そうか」
そして晃は、車から少し離れ胸ポケットから煙草を取り出し火をつけた。
濡れたズボンと靴が気持ち悪いが、1日分の着替えしか持ってきていないから仕方なく、濡れた靴から水を出し、ズボンの裾を絞っていれば、カラスが数羽寄ってきた。
うわぁ……。
危機意識と共にカラスを見れば羽根繕いに励んでおり、危険な様子は見られないが、奇妙な泣き声を繰り返しやがてソレは言葉になった。
『あっぁっ、ぁっ、りが、とう』
危害が無いと思って良いのか? まぁ……大量に集まられたらどうにもできないんだが、と思いながらも、晃は気にしていない素振りを向ける。
「いや……」
その間に救急車が2台去って、追加でもう1台来る頃、車の扉が開かれ声がかけられた。
「あの、着替えが終わりました」
新見 親良(にいみ しんら)
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