上 下
9 / 22

09.彼ありきの計画。 出会いと、私の恋心も計画の内なのでしょうか?

しおりを挟む
 打たれた頬は未だ熱を持ち熱かった。

 そこにファース様の舌が這う。
 熱い頬が一層熱くなる。
 ヌルリとした感触は、初めてのもの。

 私の頬に添えられた手は、優しいのに逃げる事ができなくて、頬を撫でる舌がゆっくりと離れれば、匂いを嗅ぐように、頬をくすぐるように鼻先が触れくすぐる。

 女として扱われるその行為は慣れて無く、驚いた子猫のように背筋にザワリとしたものが走り、目を大きく見開いてしまう。

 頭の中が真っ白で、何も考えられなくて、それでも……今の、私は打たれた頬だけでなく、顔の全体が赤くなっているだろう。

「ぁ……の……コレは」

 触れるほどに寄せられたままのファース様の顔が、少し離れて私を見つめる。 射るかのような瞳がニヤリと笑えば、私は彼に食べられてしまうのではと言う恐怖を覚えてしまった。

 だから、子供のようにケインの腕に抱きつき、背もたれに預けるケインの背の後ろに隠れようと必死になる。 だけどケインは、ひょいっと私を引っ張りだしてしまうから、私は泣きそうになっている顔を見られてしまう訳で、そんな私をケインは笑いながら頬を撫でくすぐる。

「なぜ、他の男の腕に逃げる」

 低く、感情のこもらない声だけれど、内容は明らかに不愉快だと訴えている内容だから、私は言い訳を探そうとするのだけれど、こんな時に使える言葉は知らなくて、やはりケインに逃げ助けを求めてしまう。

 困っていれば助けてくれるだろうという信頼。

 『大丈夫ですから』と言うケインの言葉を期待したけれど、実際に私に向けられるのはカラカウような笑みと、混乱へと突き落とすかのような言葉。

「それくらいで、何をビビっているんです? ファース様はアナタの全身、至るところを、ネットリとイヤらしく舌で嘗め回していいのか? と、聞いているんですよ」

 だけど、その腕はいつもと変わらず私に添えられている。

「解説するな。 一気に冷める」

 不満そうなファース様の声に、笑いながらケインは返す。

「冷ましているんですよ。 まずは一度試してみようなどと言われても困りますからね」

「騎士団の馬車の中でするかよ」

「欲求不満ですか」

「可愛らしい娘が、食べて下さいと目の前にいれば、当然頂くだろう?」

 可愛いと言われるのは嬉しいが……それは、身内と思った相手にしか言われたことがなくて、やはり困ってケインに助けを求めてしまう。

 ファース様は溜息交じりに頭をかき視線を窓の外へと向け、ケインは笑いながら私の頭を撫でる。

「結婚っていうのは、そういうものですよ」

「ぇっと、ソレは、あの……そういうって?」

「あぁ、そういえば……人の生殖行為について教えていませんでした」

 ケインの言葉に、ファースがなんとも言いようのない表情を2人に向け、複雑な表情のままでファースは考えていた。 いや、自分を納得させようとした。

 閉鎖された空間で育てられ、孤児と罵られ、当たり前の人の関わりを持っていないなら、そういうこともあるのだろうか? だが、ソレはソレで悪くない。

 ファースはそう考える。

「されてたまるか。 教えるなら俺が教える」

 肩をすくめるケイン。
 首を傾げる私。

 そして、ファース様が私の頬に触れた。

「騎士団についたら治療をさせよう。 良い薬がある」

「いえ、これは、これを効果的に使う必要があるので、このままで大丈夫です」

「傷を使う?」

 ファース様が説明を求めるようにケインを見れば、ケインは懐からカスペルに書かせた書類をとりだしファース様に見せる。 喉の奥で馬鹿にしたように笑うファース様の声が馬車の中に響いた。

「早く、法的な効果を得たいんですよ」

「なるほど……。 俺を利用したい訳だ」

「お手数おかけします」

 暗黙の了解のように交わされるケインとファース様の会話。

 隠された書類の真実を知れば、カスペルは納得できないと暴れるだろう。 そして、鬼の血が混ざっていると言われるベンニング家の特異体質者を止められるのは同類しかいない。

「安心しろ、守ってやる」

 ファース様の手が私の髪を撫でてくる。 ケインよりも大きくてゴツゴツした手なのに、なぜかずっと優しいのが不思議だった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

辺境騎士の夫婦の危機

世羅
恋愛
絶倫すぎる夫と愛らしい妻の話。

【R18】婚約破棄に失敗したら王子が夜這いにやってきました

ミチル
恋愛
婚約者である第一王子ルイスとの婚約破棄に晴れて失敗してしまったリリー。しばらく王宮で過ごすことになり夜眠っているリリーは、ふと違和感を覚えた。(なにかしら……何かふわふわしてて気持ちいい……) 次第に浮上する意識に、ベッドの中に誰かがいることに気づいて叫ぼうとしたけれど、口を塞がれてしまった。 リリーのベッドに忍び込んでいたのは婚約破棄しそこなったばかりのルイスだった。そしてルイスはとんでもないこと言い出す。『夜這いに来ただけさ』 R15で連載している『婚約破棄の条件は王子付きの騎士で側から離してもらえません』の【R18】番外になります。3~5話くらいで簡潔予定です。

【R18】わたくしは殿下が本能のまま心ゆくまで、わたくしの胸を吸っている姿が見たいだけなのです

瀬月 ゆな
恋愛
王国でも屈指の魔草薬の調合師を多数輩出して来たハーヴリスト侯爵家に生まれたレティーナにはたった一つの、けれど強い願望があった。 多忙を極める若き美貌の王太子ルーファスを癒してあげたい。 そこで天啓のように閃いたのが、幼かった頃を思い出してもらうこと――母子の愛情に満ちた行為、授乳をされたらきっと癒されるのではないか。 そんな思いから学園を卒業する時に「胸を吸って欲しい」と懇願するも、すげなくあしらわれてしまう。 さらに失敗続きの結果、とっておきの魔草薬を栄養剤だと騙して飲ませたものの、ルーファスの様子が豹変して……!? 全7話で完結の、ゆるゆるふわふわラブコメです。 ムーンライトノベルズ様でも公開しています。

伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】

ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。 「……っ!!?」 気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

処理中です...