皇帝陛下の愛妾は、ツガイである私を差し置いて皇妃になりたいらしい。

迷い人

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15.調査&対策は陰ながら続いてはいるんですよ?

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 ランヴァルドを男性として性的な対象として意識し始めたヴィヴィから、徐々に幼い無邪気さが消えつつあった。

 ペスに品格を持った行動をと言われずとも、自分の所作に気を使うようになり、幼い笑みで周囲に甘える事を控えだしていた。 ソレは周囲を少しだけ寂しがらせることとなり、そして事情を知らぬ者達にとっては……



【皇帝陛下とツガイ様が愛妾様のせいで不仲となった!!】



 そんな噂が広がり始めていた。

 実際には、2人仲良く同じ執務室で仕事をしているのだから、噂とは適当なものである。

 ヴィヴィが業務を手伝うようになって、貴族達が既に何名も召致されていた。

 理由は、魚を提供せよと進言した男爵に対するものと同様な要件であり、それら貴族達は新たな領地の可能性を指摘され、国の協力、支援を得て領地経営が行われ、富の拡大、生活の安定が約束されている。

「ヴィヴィ様、本日のオヤツは医療宮提供によるリンケ産のヤギの乳を使ったチーズをケーキにしたものです」

 これもまたチーズをお酒と美味しく食べる大人たちが羨ましいと言うヴィヴィの願いに、医療宮女性陣が応じたものであり、幼い子供のような甘え方こそしなくなったが、ヴィヴィと各宮との付き合いはむしろ深くなったと言えるだろう。

「陛下のオヤツには、甘さを控えてラム酒による風味を増した物となっております」

 ヴィヴィとランヴァルドのオヤツが違うのは、料理長のちょっとした気遣い。

「美味しい~~~、流石料理長!」

 幸せそうにチーズケーキを食べるヴィヴィの顔を幸せそうに見る周囲だが、陛下のオヤツを食べる手は余り進まない。 どこかソワソワした様子でチマチマと食べていた。

「ヴィヴィ、こっちも美味しいぞ。 少し食べるか?」

「いいの?!」

「いえ、ヴィヴィ様……これは少しばかり栄養価が高いオヤツでして、ヴィヴィ様が陛下のものまで食べてしまうと、夕食の量を減らすようにと、医療宮から指摘を受けておりまして」

 シュンとするヴィヴィに、料理長は言葉を続ける。

「なので、陛下にヴィヴィ様のものを少しお分けしてあげるのが丁度良いと思われます」

「そう、そうね。 2倍の美味しいを二人で楽しめるなら4倍に美味しくなるはずですものね。 流石料理長だわ!!」

 ワクワクしながら、皿を持ってランヴァルドの側に駆け寄ったヴィヴィは、フォークで刺したケーキをランヴァルドの口元に差し出せば、どこは恥ずかしそうにランヴァルドはケーキを食べた。 味は二の次の幸福感。

 良い働きだ、料理長!!

 心の中で褒め称え、少し大きく切り分けたラム酒の香がするケーキをヴィヴィの口元に持っていく。

「こっちも美味しい!! コレはオレンジのジャムを添えても美味しいのでは?」

「確かに……酸味の強いフルーツとも良く合うかもしれませんね。 ですが、かんきつ類と言えば南方ですからねぇ……。 明日はルセック産のラム酒を使ったデザートをいくつか検討しておりますので、楽しみにしてくださいね」

 南方連合との関係は、未だ交渉中というところである。

 そしてラム酒の料理利用もまたヴィヴィの提案だった。 医療宮の宴会が面白そうだと、陛下同伴の元紛れ込んだヴィヴィが、酒の匂いを一つずつ嗅ぎ(飲んでない)気に入った匂いを菓子にするように求めたのだ。

 調理宮、医療宮との仲ばかりが増していくと言う訳ではなく、無理難題を押し付けるのは魔導宮に対しても同様だった。

「人を攻撃するのではなく、効果を押さえる事で魔法を使いやすく出来ないかしら? 特に、冷凍系、冷蔵系の魔法とか……もっと一般普及してくれれば、各地の美味しいものが、美味しいままに食べられると思うの」

 なんて意見したのだ。

 各領主は、魔力量の多い領民を選出し、魔導宮へと研修として送り出す。 当然、その者達も手ぶらで来るはずがなく、各領地の特産品を携えてくる訳だから、ヴィヴィの琴線に触れれば新たな商売のチャンスを生み出していったのだ。



 そんな風に日々が過ぎる中、南方連合に接触を図っていた特使が戻ってきていた。

 特使を遣わした内容はこうだ……。

 南方連合の保護を受ける劇団の俳優によく似た背格好の男が殺される事件が相次いでいる(相次いでいないが)。 俳優が殺人事件を促す要因となっているかもしれないため、調査を行って欲しい。 と、接触をおこなったのだ。

 先んじて行った接触は、死亡した俳優とそっくりさんの記録をつき付け(1人以外は偽造)ることで、俳優が生きている事を確証していると誤認させた。

 それによりベントソン伯爵夫人の脅迫は成立しなくなったのだが、彼女とシェンク侯爵とが行った南方連合の人材斡旋を潰すため、南方連合との関係に2.3歩踏み込むことにした。

『香辛料やフルーツ各種の年間取引契約を行いたい』

 奪う事を当たり前とする南方だが、それで良い訳ないと思っている者達は一定数いる。 そんな相手に農業経営のノウハウを教えるために、アベニウス帝国で留学者を受け入れても構わないと提言した。

 条件は『南方連合からの労働力の撤退』である。

 雇い主も労働者も納得していると言われれば、通常国であっても手出しは出来ない。 だが、アベニウス帝国法において彼等は奴隷として分類されるために禁止された行為であると通したのだ。

 コレにより王都内での南方の民による暴動の懸念、王都の威力占領の危険性の排除に至る。



 ヴィヴィは、今回の報告に首を傾げた。

「南方の方々は交換条件ですから仕方なくでも受け入れたでしょうけど、彼等を雇い入れた人達はよく納得したものですよね。 雇用合意がなされていると反論はなかったのですか?」

 ランヴァルドが読む南方と外交報告書を横合いから覗き見るヴィヴィが言えば、ヴィヴィの隙を狙い捕まえたランヴァルドは、ヴィヴィを抱き上げ膝に乗せた。

 自分から乗ってこなくなった寂しさを、少しばかりの強引さをもって解決していた。

 腕の中で、もぞもぞと嫌がるふりをするヴィヴィ。

「大人しく座っているんだ」

 そう命令してしまえば、ヴィヴィは嬉しそうな笑顔をランヴァルドに向け、コクコクと頷いてみせる。 そして、大人しく腕の中に納まるヴィヴィに、ランヴァルドが軽く口づけ、ヴィヴィが照れると言うところまでが、お約束パターンとなっている。

 甘酸っぱい様子を見せつけられる部下達はそっと視線を逸らすしかない。

 それでも不仲説は、凄い速さで王都内に広がっていくのだから不思議としかいいようがない。

「南方の者達を使っていた貴族達からは、確かに不満は集まって入るが、この国では奴隷の売買は禁じられていてな」

「それは、皆理解した上で雇用と言う状態を作っているのでは?」

「ベントソン伯爵夫人を習って取り入れた南方の民だけあって、性的な奉仕を目的とする使用人が大半だったからな。 その労力を娼館の給料を基準に割り出して、不当雇用……準奴隷と言う分類を強引に作り出したと言う訳だ」

 王都での1カ月の基本給料が20万ゼニー。
 南方での1カ月の基本給料が2万ゼニー。

 ※南方では、略奪を含めた自給自足がまかり通っているため、労働賃金が極端に低い。

 貴族が提示した雇用条件が、衣食住+1カ月5万ゼニー。

 そこに娼館の平均賃金30万ゼニーを当てはめることで、労働規定に見合わないからソレは準奴隷に値するとし、貴族に対しても罰則を与えて、再発防止としたのだ。

「娼館って?」

「……」

 そこにきたかぁああああと、ランヴァルドは己の迂闊さを悔いた瞬間であった。

「耐えようのない繁殖欲求と言うものが沸き起こる時があって、愛する人がいない。 愛する人と両想いでない。 子を作る約束をしている相手がいない場合に、繁殖欲求を解消するための場所だ」

「ぁぁっぁう、ええっと」

 顔を真っ赤にしながらヴィヴィは問う。

「ソレは……その、愛情も何もない、子を儲ける条件も整ってない相手と、そういうことをすると言うことなのでしょうか……」

「世の中にはそういう者もいると言う訳だ。 繁殖欲求のままに見目の良い異性なら誰でも良いと強引な事が行われれば、女性側は望まぬ相手との間に子が出来ることとなり、生むことも、育てることも大きな負担となる。 だから、そういう事が起こらないように、繁殖欲求を処理するための場所が設けてあるわけだ」

 冷や汗を流しながら、ランヴァルドは必死に説明を行う。

 ヴィヴィはそっとランヴァルドの耳もとに口を近づけたずねた。

「陛下もそう言う繁殖欲求と言うのがあるのですか?」

 コソコソと話される声と吐息は、何時も以上に甘く感じて仕方がない……。

「あるよ……ヴィヴィ」

 ヴィヴィの手をそっと重ねとって、自らの股間に誘導する。

「俺はね、何時もヴィヴィの愛らしさに刺激を受けているんだよ」

「!“#$%&‘()=」

 声にならないヴィヴィの叫びを、ランヴァルドは笑う。

「早く大人になって欲しいような。 この状態が可愛らしくて惜しいような、複雑な男心を理解してはもらえないだろうか?」

 抱きしめたヴィヴィに少しだけ強引に、だけど……触れるだけの口づけで我慢するランヴァルドの姿があった。





 特使として派遣されたものはいう。

「私は何を見せつけられているのでしょうか?」

「出世を考えるなら、職場環境に慣れるのも重要なことです」

 そう、泳いだ目で告げる宰相配下だった。
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